第11話 もう戻れない

「それじゃ、皆はそれで良いんだな」


俺は三人と話し合い一つの結論を出した。


「ああっ、それで構わない」


「私も、それで良いわ、ゼクトがそうしたいんでしょう」


「私は少し違う、ゼクトが話してセレスがOKしたらの話だよ」


セレスを連れ戻すと結論を出した。


その最後の確認をした。


「それなら、大丈夫だ! あいつなら断らない!」


セレスが俺達の頼みを断るわけが無い。


俺とは違い、彼奴は村、故郷が好きだった。


我儘な此奴らをまるで宝物の様に世話していたんだ。


そんな彼奴がこの三人を手に入れられるチャンスを見逃すわけが無い。


俺にとっては最早、そんなに価値が無い女だが、故郷である村やその人間関係を大切にしているセレスにとっては凄く大切な存在の筈だ。


どうせ、此奴らは三職だからイチャつく事は出来てもそこから先は無い。


だから『所詮は今は手が出せない女』だ。


手を出す事が出来るのは魔王討伐の旅が終わってからだ、その時には、俺は王女を正室に迎え貴族の縁談がきている筈だ。


それに、今は若くて綺麗な此奴らもいい歳になっているかもしれない。


若くて綺麗な女が選べる状況で齢食った此奴らを態々選ぶ必要もないな。


問題は全く無い、此奴らをセレスに譲れば彼奴は喜ぶだろう。


良く考えたら商売女なら後腐れない。


此奴らをセレスに譲って、娼婦と遊ぶお金をセレスにねだれば良い。


部屋を別にとれば、ばれないし、ばれても欲しくも無い女だ気にする必要もない。


セレスも別部屋で三人と一緒の方が喜ぶだろうからWINWINだ。


顔が緩む、駄目だ、笑顔を漏らしては不味いな。


あくまでも悲しそうな顔をしなければな。


俺は何か言いたそうに見つめる三人に対し悲しそうな顔を作り、謝った。


「俺が不甲斐ないばかりに済まない」と。


これで良い。


これで良い筈だ。


◆◆◆


俺達は教会にきている。


怒られるのは覚悟の上で言わなくてはならない事がある。


それは、僅かだが道を引き返すという事だ。


魔王城に向かっている勇者パーティの俺達が、その道を引き返すのだから報告が必要だ。


「司教はいるか?すぐに呼んでくれ!」


「はいどういった御用でしょうか?」


「今日は重大な報告に来たんだ、急いでくれ」


ギルドを通して時間が掛かるより、教会に報告した方が早い。


冒険者ギルドの話では守秘義務があるからと細かくは教えてくれなかったが、セレスは家事奴隷を買って、本当に田舎に向かったようだ。


『大人しく村に帰って田舎冒険者にでもなるか、別の弱いパーティーでも探すんだな』


言うんじゃなかった、まさか彼奴が真に受けて本当に田舎に帰るなんて普通は考えないだろう。


一刻も早く、ジムナ村に向かわないと、どんどん離れてしまう。


急いでくれと頼んだから、すぐに司祭が来てくれた。


「これは、これは勇者ゼクト様、よくぞいらっしゃいました、聖女マリア様に剣聖リダ様に賢者メル様、全員で来られるとは、これは相当重要な話ですかな?」


「ああっ、極めて重要な話だ。俺達はセレスを連れ戻しに行きたい」


俺は、これまでの経緯を話し『セレスを追いかけたい』その旨を説明し願い出た。


今迄笑っていた司教の顔が青くなり、そして険しい顔に変わった。


さっきまでの優しい雰囲気が全くない。


「なりません」


頭ごなしに否定をされた。


だが、俺は此処で引き下がるわけにはいかない。


「俺にとっていや俺達にはセレスがどうしても必要なんだ!」


「なりません」


「私から頼んでもだめですか?」


「こればかりは聖女マリア様のお願いでも聞けません」


「そうか、俺は勇者だ、もう良い勝手にさせて貰う」


「ザマール国、国王ザンマルク四世様からも『勇者たるもの停滞や後退は許されぬ、歩を進めろ』と勅命を預かっております…」


嘘だろう勅命だと…


「だが、俺にとっては…」


「勇者様―――っ」


何だ、此奴急に土下座等して…


「勇者様、どうかどうかお願いでございます!歩を進めて下さい! お願いします…本当にお願いですから…」


「だが、セレスが俺には必要なんだよ!」


なんで此奴らそんなに必死なんだよ。


「お願いでございます!もしどうしても戻ると言うのであれば、このダイモンを斬り捨ててからお戻りください! 斬りなさい!いや斬れー――っ」


「私も…」


「私だってー――っ」


どうしてこうなるんだよ。


俺はただセレスを迎えにいきたいだけなんだぞ。


その後はちゃんと、旅を続ける。


「ちょっと待って、何でそんな物騒な事になるの、解るように説明して」


「メル様…周りを見て下さい!」


メルは周りを見て青ざめた顔をしている。


別に貧相な子供と女が居るだけじゃないか。


「これがどうかしたのか?」


「近くの村から逃げてきた者でございます…」


「逃げてきた?」


「貴方は勇者様ですよ…だから文句は言わない、そう決めておりました…ですが、もし勇者様がこの街で停滞などしていなければ、恐らく村は無事でしたよ…勇者様達が此処でまごまごしてなければ、きっと村に立ち寄ってオークの巣の事を聞いて、貴方達は討伐していた筈です…誰も死ななかった筈ですよ…」


「そんな…私達は…」


「リダ様、貴方1人でもオークの巣など簡単に潰せますよね…貴方だけでも向かっていたら、この子たちは孤児に、あそこの女性は未亡人にならなかった…この先で沢山の不幸な人間が貴方達を待っている…貴方達は皆の希望なのです…お願いします…」


「だが、俺たちにはセレスが…いないとこのとおり」


「勇者様や聖女様達が血だらけだったり、汚れていても誰も笑ったりしない! 自分達を守る為に汚れた姿を見て笑う者など居ませんよ! もし居たら、教会が罰します…気になるならその都度教会に来てください! 何時でも暖かい湯に食事、清潔な服に寝床、ご用意させて頂きます」


「ゼクト止めよう…私達が悪かったわ」


「だが、マリア」


「駄目だ…よく見ろ、周りを…すまなかった」


「リダ…」


「ごめんなさい、私達が悪かった…救えなくてごめんなさい…ただ仇は私達がとるから…それしか言えない」


「賢者メル様…ううっ、ありがとうございます」


「多分、オークはもう居ない…貴方達の無念はこの剣で魔物や魔族全部に思い知らせてやる…約束する」


「リダ様」


「ほら、ゼクト行くよ」


「ああっ、俺が間違っていた…司教済まなかった、頭を上げてくれ」


「では解って下さったのですか?」


「ああっ、俺が悪かった…明日にでも直ぐに旅立つよ…」


駄目だ…


引き戻す事はもう出来ない…


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