第10話 心の別れ メルの場合

どうして私はこんな馬鹿な事をしちゃったんだろうか?


憧れのゼクトに好きだと言われてきっと、舞い上がっちゃったんだと思う。


本当に私は、馬鹿だ。


私がゼクトの側室になっても、恐らく私の所には殆ど顔を出さない。


多分、毎日寂しい思いをして、来ないゼクトを待つだけ、そんな日々しか待ってない。


王女に貴族、マリアにリダ良くて私は5番目…そんな私の所にゼクトがどの位の頻度で会いに来るのか、解りきっている。



恐らくは偶に顔を出したら良い方だ。


恐らく名目だけの側室で私の傍に来ることは殆ど無い筈だ。


普通は三職はほぼ全員が勇者の側室になる。


だけど、私はチビで童顔だから、ゼクトの好みじゃない。


だから、早々と、そこから外された。


村に居る時から、マリアやリダとはゼクトは仲が良い。


私は違った。


任務以外では殆ど話してくれないゼクト。


そんなゼクトが、私を望んだから、のぼせて頭が可笑しくなっていた。


今ならそれが解る。


私は賢者だから、本当は常に冷静に居なければならない。


そんな私が色恋に狂った。


『勇者の側室』その地位に目が眩んだ。


その結果、私は本当に大切な人に酷い事をしてしまった。


『アホか』


今の私なら解る。


私はセレスを男の子としては見ていない。


多分『兄』『お父さん』二つを合わせた、存在それが近いんだと思う。


手こそ上げないが家の父は良く暴言を吐き、私やお母さんを怒鳴っていた。


泣いている私を見つけるとセレスは何時も笑いながら、何かをくれた。


それはお芋だったり、焼き魚だったり、あるいは綺麗な石だった。


「どうした? 俺には話を聞く事位しか出来ないけど?話すか? 少しは楽になるよ」


『馬鹿だ』


5歳からこんな話子供がする?


しかも私だけじゃない、お母さんにもするんだよ。


セレスがそんな事ばかりしていたから、頭から抜けちゃっていた。


誰よりも優しくて素敵な人だけど、恋愛対象から抜けちゃっていた。


馬鹿は私だ。


今のパーティでも私は孤立していた。


任務以外の会話には加わりにくく一人が多かった。


そういう時は何時も、外れて本を読むか、寝たふりをするしかない。


そんな私を見かねて気にしてくれたのはセレスだ。


何時も自分の事は話さないで、相槌を打ちながら私の話を聞いてくれた。


凄く優しい人なんだよ、セレスは。


優しすぎる人なんだよ、セレスは。


私がいつも寂しそうにしていたから多分私を恋人に選んだのかも知れない。


『ゼクトが構ってくれない』私が泣いたから、セレスはネックレスを買ってきた。


『メルは可愛いからゼクトが駄目でも、他に良い人が見つかるよ。それでもね、心配なら売れ残ったら俺が貰ってやるから』


そう言ってくれた物だ。


しかも、見た感じ高級な物にしか見えない。


馬鹿で、優しすぎる。


私はゼクトに未練がある。


だけど将来を心配していたから、くれたんだ。


本当に馬鹿。


だって…こんな高価なネックレスを付き合いもしない女に渡すなんて、馬鹿としか思えない。


『売れ残ったら』それじゃ売れ残らなければ、セレスは只のあげ損じゃない。


だから、つい口からでちゃったわ。


『だったら、セレスが貰ってくれれば良いじゃない』ってね。


私が貰ってくれって言ったんだから!


そのままキスの一つもするか押し倒せば良いのよ!


だけどセレスは『本当に好きなら、嬉しいけど弱っている女につけ込みたくないから、返事はしないよ』


だって、もうどうして良いか解らなかったわ。


だけど…私はセレスを傷つけた。


私は本当に馬鹿だ。


もし、ゼクトを選ぶにしてもあれは無い。


自分に優しくしてくれた人にして良い事じゃない。


だからね、決めたの。


もし、セレスが私を欲しいというなら今度はしっかり男女の関係になる。


三人全員が良いなら、それも構わない。


だけど、もし戻るのが嫌なら、引き止めないし、ゼクトを敵にしても自由にさせてあげるよ。


それが、悲しくて寂しがっていた私に貴方がくれた優しさへの恩返し。


セレス今度は、貴方が自由に選ぶと良いよ…


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