第5話 【閑話】勇者要らない
「勇者ゼクト達が街で停滞しているだと! 何か問題でも起きたのか!」
魔王討伐の旅のまだ序盤…そんな場所で勇者パーティが立ち往生している…天災で橋が壊れた等であれば起きても可笑しく無いが、此処暫くはそんな報告は受けていない。
「それが…」
「どうした? 何が起きているのか話せ! お前は報告が仕事、決して怒ったりせぬよ…」
「はっ、教会やギルドの報告ではパーティメンバーの一人を追放したとの事です…ですが…それで不具合が生じた模様です」
追放? あのパーティは4職(勇者 聖女 賢者 剣聖)、それに1人足した5人のパーティじゃ。
3職は追放など出来ぬから、残りの1人という事になる。
「聞くまでも無いが、追放されたのは魔法戦士のセレスじゃな」
「はっ、そうです!」
「それで、セレス殿は、教会やギルドで正式に追放扱いになっておるのか?」
「それが話では、余りにも可笑しな状況なので、ロマリス教皇と冒険者ギルドで話し合い、書類の不備を理由に別動隊扱いにしているとの事です」
「忌々しい…そのまま『追放』にすれば良い物を…」
「王よ…それでは余りにセレス殿が気の毒です…あれ程」
「『あれ程尽くしてくれた』『あれ程の人材』そう言いたいのだろう? 余も同じよ…余が言いたいのは『追放』であれば、我が国が迎えられる…そう言いたいのだ…お前は今までの人生で余に歯向かった事など無い…そんなお前が『セレス殿が気の毒です』と庇うほどの人物、余が目をつけぬと思うか」
此奴、オータは絶対に余に歯向かわぬ…宮廷の間では『永遠のイエスマン』そう陰口を叩かれる程の存在じゃ…それが余に進言してくる存在…その価値が解らない程無能ではない…ドーベル宰相からして『あれ程の才に恵まれた人物二人と居ない』そういうのだ…その価値は計り知れぬよ。
「それでは…」
「もし追放なら獲得に向け動けるのに…そう言うことじゃ、もし余が出むけば心が動くのであれば、出向いても構わぬ、そう思ったのじゃ」
「すみませぬ…そこ迄王がお考えなのに余計な事を…」
「赦す…かの人物の重要性は、誰しもが思っている事だ! 本来なら1度貰えれば生涯の栄誉…そう言われる『ドラゴンスレイヤー』王や教皇自らが与える称号、その資格を数度にわたり手にする資格を得た豪傑…勇者パーティゆえ渡せなかったから余が『その権利を対面無くして与えた』余にとっても特別な人物、余に心酔するお前の気持ちは解る」
強いだけじゃない、恐らくセレス殿が代筆で書いた物と思われる文章には品があり、その計画は宰相のドーベルが目を通さずにハンコを押せる、その位の物だ。大臣クラスや文官が作った書類すら駄目だしをする、あのドーベルが、その素晴らしさを認めておる…余も何回か書類を見たが、あれは熟練の文官並みだ…最近やたらと文字が汚くなったという事だが、セレス殿を追放したからだ。
「はぁ~どうにかならんか?」
「そうでございますな…取り敢えずは勇者達との切り離しが宜しいかと」
「それで、セレス殿はどうしておるのじゃ?」
「情報によれば、故郷に戻っているとの事です」
「ならば簡単じゃ、勇者ゼクトに『勇者たるもの停滞や後退は許されぬ、歩を進めろ』そう勅命の文を送れ」
「畏まりました」
大体、この国、ザマール王国にとって勇者等『百害あって一利なし』じゃ。
魔王、魔王と言うが魔国がこの国に攻めてくるにはガルバン帝国、聖教国ガンダルを超えてこないといけない。
二国を滅ばさなければならないなら…数百年は安泰だ。
それに勇者は魔王討伐の旅に出て、この国から出た時点で何もメリットは無い『魔物や魔族と戦っているだけ』でこの国に利益は無い。
例え、王都が危機にあっても基本的に呼び戻せないし、もし呼び戻しても、遠くに居たらたどり着く頃には『終わっている』
こんな意味の無い存在に『勇者輩出国』のただの飾りの栄誉の為に金を払い続ける…本当に馬鹿らしい。
金ばかりじゃない…もし魔王を討伐したら、余の娘、第二王女のマリンとの婚約も進めなければならぬのだ…
「今の所出来ることは少ない…だが折角セレス殿が離れるのだ、出来るだけの手は打ちたい…オータお前が責任者になり行動を起こしてくれ」
「はっ、すぐに行動に移します」
余は勇者等要らぬ…いざと言う時に動いてくれ竜種すら撃退するセレス殿が欲しい…
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