第4話 俺にはどうする事も出来ない。

「もう、嫌、何で狩やクエストが終わった後にこんな面倒くさい事しないとならないのよー――っ」


「メル、そう言うなよ…他の仕事は免除しているだろう」


「だけど、ゼクト、これ凄くメンドクサイのよ…定期的に、何処で何を買ったかとか、全部記載しなくちゃならないし、今後何をするのか予定迄書く必要があるの、よくセレスはこんなのやっていたわ、今なら素直に尊敬しちゃうわ」


そういうメルの顔は目に隈が出来ていた。


頭を搔きむしるその姿には可愛らしい少女の面影は全くない。


「ごめん…それしか言えない…」


「私、こんなに苦労しているのに教会で、文字が汚いとか計画性が無いって怒られるの、もう嫌だよ」


「だから…一緒に怒られてやっただろう! それ以上の事は俺には出来ない」


「解っているわよ…ハァ~仕方ないよね」


メルは何時もこんな感じで癇癪を起している。


◆◆◆


「悪いけど、今日の洗濯、変わって貰えないかな」


当初、仕事の割り振りをしたが、料理が大変だ、洗濯が大変だと揉める事になり、雑用はメルを除く三人で交代制にした。


「リダ、流石に俺は男だ、女性物の下着までは洗いたくはないぞ」


「そうか…ゼクトは良いよな、聖剣は手入れなんかしなくても拭くだけで良いんだから、だけど私の剣はちゃんと手入れしないと直ぐに斬れあじが落ちるんだ、この間なんてオーガの腕を斬れなくて危うく大惨事になりそうだっただろう?また同じ思いをしたくないんだ」


仕方ないマリアに頼むか。


「マリア、済まないが」


「嫌よ! 私はこれから薬品の買い物に行ってご飯作るのよ! 何でもかんでも押し付けないでよ…この間だって…」


ああっもう良い…


「俺が悪かったよ」


勇者にまでなって何で女物の下着を洗わないとならないんだよ。


認めるしかないな…セレスを追い出したのは俺の完全な判断ミスだ。


まさか思わないだろう…勇者パーティに一番必要なのが三職(聖女、賢者、剣聖)じゃなくて彼奴だったなんてな。


「なぁ…皆、セレスに戻ってきて貰おうか?」


今更ながら…彼奴は俺達に必要な存在だった。


旅を進めないで、僅かな距離と日数とはいえ『戻る』という選択は本来してはいけない。


教会からまた文句が出そうだな…


普通なら反対が出そうだが…


「そうね、セレスが居ないと困るわ、一度怒られる位で、この書類地獄が終わるなら、その方が良いよ…うん戻ってきて貰おうよ」


「ああっ、そうだなセレスの剣の手入れは絶品だ、私も賛成だ!」


「そうね…必要な買い出し…特に薬品の買い出しはセレスじゃ無いと任せられないわ…賛成」


そうだよな…此処で多少の評価を落としても戻って彼奴を連れ戻さないと破滅だ。


「それじゃセレスを連れ戻そう」


決まりだ。


「それは良いが、何を対価に戻ってきて貰うんだ?」


対価だと?


「リダ…何を言っているんだ?」


「ゼクト? 忘れたのか…私達は、この仕事を全部こなしてくれていたセレスをあんな酷い言い方で斬り捨てたんだぞ」


「俺は…そんな酷い事した記憶は無い…円満だった筈だ」


「そうかしら? メルはセレスからネックレスを貰っていたわ、そのネックレスを外してゼクトのネックレスに付けなおしていたわ。その状況で、酷い事言われて追放されたのよ! 同じことされたらゼクトは許せるの! 恨み事言わないで去ったけど…相当セレスは傷ついた筈よ…ねぇメル貴方相当セレスに良くして貰っていたわよね? 」


ああっそうだ…去る時に彼奴の目は、今思えば凄く悲しそうだった。


俺が同じ立場だったら、きっと殴りかかる筈だ。


それなのに…


◆◆


『メル...俺は必要ないんだな!』

『君の口から聴きたい』

『もう、貴方は要らないわ』

『まぁ、ゼクトは良い奴だ、幸せになれよ!』

『し..知っていたの?』

『ゼクトは良い奴だ...他の男なら決闘だが、ゼクトなら諦めもつく』

『ごめんなさい!』

『気にするな』


彼奴は何処までも優しかった…


そんな彼奴に俺は…俺は何を言った…思い出せ!


『大人しく村に帰って田舎冒険者にでもなるか、別の弱いパーティーでも探すんだな』


そう言ったんだ…俺は..俺は…鬼か!


調子に乗りすぎだ…馬鹿だ。


親友の女を取り上げた挙句追放した。


俺が逆の立場だったら絶対に納得なんてしないしキレるだろう。


それなのに彼奴は…


『気にするな!今度会った時は笑って話そうな...世話になったな。四人とも幸せに暮らせよ!』


そう言って去っていった。


悔しかっただろうな…辛かっただろうな…


『今度会った時は笑って話そうな』


あれは、流石の彼奴も『今は笑えない』そういう気持ちの裏返しだ。


笑える訳があるか…こんな理不尽な事されて。


俺は女癖が悪い…だがメルにだけは手を出してはいけなかった。


親友の女になんて手を出すべきじゃ無かった。


俺は本当に駄目な奴だ。


「これじゃセレスは戻ってくれない…私凄く傷つけちゃったもの…どうしよう? こんなつもりじゃなかったのに…」


「いや、残酷な事を言うがメル、お前は解ってやっていた、だが調子に乗っていたのは私も同じだよ」


「リダ…」


「それは私も同罪ね…私達はセレスにそれを償う何かを差し出さないと無理よ」


「そうだな…暫く考えるよ」


「「「そうね(だな)」」」


セレスに差し出す対価…それは三人も解っている筈だ。


彼奴から奪ったのは女と居場所、最低限それを返さなくちゃ始まらない。


それじゃメルを返せば良いのか…ダメだ。


あそこ迄セレスを傷つけた奴をセレスが受け入れるか。


俺なら無理だ…


そうすると…リダかマリアだ。


ダメだ…二人はメルと違い…俺は愛しているんだ。


どうして良いのか俺には…解らない。

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