29 終末と永遠の狭間で
「さぁ、お目覚めね」
俺は起きると自分が裸にされていることに気づく。なんで?
よく見ると、アデルとリルも官能的な格好になっていた。セシルは服を着たまま寝ている。
「起きろ!」
という声は出なかった。口元を布で覆われていて、声を出すことが出来なかったのだ。
「私の名前はアイリス・オーエン。三大帝の一人、神帝よ。このことを知る人は私と君たち以外にいないけどね」
俺は転移魔法を使おうとした。すると、魔力が体から抜け出てしまう。
「無理よ。魔法阻害薬を飲ませたからね。さて、これから君たちにはツリーを成長させて貰います」
すると、アイリスは俺の元まで来て、口を抑える布を外した。と思ったらなんとアイリスは俺に口付けをした。
「私が蓄えた経験値よ」
すると、アイリスは眠っているリルとアデルにも口付けをしだした。そして、彼女達のツリーを操作し始めた。
「なぜ、人のツリーを操作できる?」
「それは私が真のツリーマスターだからだよ」
そう言うと、アイリスは自身のステータスを見せた。それは異常だった。全てのツリーが解放されていたのだ。一体どれだけの時間をレベルアップに費やせばいいのだろうか。
「私はね、ツリーマスターの末に不老不死になったわ。それでツリーを全部解放したの。でもね、私は神の意志を悟ったの。だから私は神帝。神の意志を継ぐ者よ」
「そんな……」
「今から、一切離輪の儀を執り行う。一人の神、二つの世界、三つの樹、そして四つの器。私とリルとアデルとハンス。器が揃ったの」
そう語りつつ、アイリスは俺たちのツリーを解放していき、超越魔法【永遠】を俺に、超越魔法【終末】をリルに、超越魔法【涅槃】をアデルに習得させた。
「私は超越魔法【神愛】この四つのスキルが揃う時、世界は改変する 」
すると、終末音、ラッパの音が鳴り響いた。そして、空と世界は朱色に染まっていく。
「本当に、預言の通りね!」
アイリスは自身の服を脱ぐと、俺の元までやってきた。
「さぁ、繋がりましょう?」
リルとアデルもラッパの音に起きてきた。だが、その時、彼女達の頭の上に天使の輪っかが生成された。アイリスの頭の上にも同じ輪っかがある。
「さぁ、もう世界は終末へと秒読みを始めたわ」
アイリスは凍結魔法【フリージア】を行使して、氷の城を学園の中心に建てる。人々の体から魂が漏れ出て、天空の門へと吸い込まれていく。
「魂たちが楽園に向かうわ。さぁ、終焉の儀を」
俺の意識は混ざり合い、アイリスやリル、アデルと同化していった。それがとても気持ちがいいのだ。多幸感に満たされて、永遠と終末の狭間で、それは神の愛、涅槃だった。
ラッパは鳴り止まない。世界は壊れていく。自他との境界線が揺らいでいく。ツリーマスターの行く末に、俺とリルとアデルとアイリスは神に等しくなっていった。
「さぁ、歓喜に応えて!」
アイリスは踊る。何より楽しそうだ。俺はリルやアデルと同化しながら、記憶の残滓に淀んだ波の打ち寄せられた残響に応えた。
「そうか、世界終わるんだ」
「神に帰るのよ」
「神?」
「ラカン・フリーズの門の先へ。きっとそれが世界永遠平和なの」
俺の問いにアイリスは応えた。
万物はラカン・フリーズの門へと吸い込まれていき、魂たちは木霊し、永遠の幸福が流れて行った。
「この日を何よりも望んで生きてきた。永遠に生きるのは苦しいものよ。だけど一人死ぬのも寂しかったから。だから皆で死にましょう。それが世界の意志。神の意志」
「でも、アイリスさん。永遠じゃないからこそ、生命に意味はあると思うのです。もう終わりゆく歯車を止めることはできないけれど、きっと世界は壊れて、終わって、でもそれから久遠の時を経て、また始まると思う」
「そうかしら。でも、真理を悟ること、それはとても甘いことなの。あなたはその歓喜に打ちひしがれるわ。この日のために生まれてきたってね」
「そうなのですね。でも、それでも世界は先へ進むと思います」
「神のレゾンデートル。私はそう呼んでる。神が世界を創ったのは、きっと自分自身を知るため。何故、いつ、どこで、どうやって、何のために生まれたのか。終わりの後はなんなのか。それが分からないから世界を創った。そして世界を終わらせた。私の意志でね」
世界は終わりゆく。
ラカン・フリーズの門へ万物は流れていき、そして俺とリルとアデルとアイリスは一体の体となって融合した。神の誕生だった。
ねぇ、リル。
なに、ハンス?
俺たちこれでよかったのかな。
でも、ここはとても心地がいいわ。
アデルは?
天国のような場所ね。きっとこれが私たちの生まれた意味なのでしょう。
アイリスさん、今ならあなたの言いたいこと分かりますよ。
そう? それは嬉しいわ。
世界は終末に向かって流れていく。世界が始まって終わりゆくのも、生命が誕生して死にゆくのも、みんな同じこと。神は自身を知るために世界を産んだ。それは分裂や増殖だったかもしれない。その点で俺たちは神の子なのだ。
涅槃のような至福。きっと仏は神に繋がった証拠。ツリーマスターの行く末に、俺たちは神になったみたいだ。
万物が還っていく。元いた場所へ。帰る場所さえどこかにあったら。それはここにあったよ。
全てが溶け込んで、全知全能で、それは永遠と終末の狭間、今まで見た景色で一番美しかった。この音色は一番美しかった。
そんな中で神は泣いていた。
「どうして泣いているの?」
「だって、僕しかいないから」
世界には一人しかいないから。
「私がいるよ?」
「でも、そんな君も僕の一部なんだよ」
「なら、私が二人目の神になるわ」
「えっ?」
「だから、また始めましょう」
「いいの?」
「ええ。私はあなたを裏切らない」
ハンスだった記憶も、リルだった記憶も、セシルだった記憶も、アデルだった記憶も、アイリスだった記憶も、なにもかも、全ては溶け込んで「僕」へと還っていく。
だけど、「僕」は二人目の神を望んだから。だから世界を始めたのに。結局二人目の神なんていなくて。それを創る旅路なのかもしれない。
「私が女神になるわ。ハンス」
ハンスの自我は一人目の神に同化し、リルやセシル、アデルにアイリスの自我は女神へと同化していった。
「私はここにいるわ。だから泣かないで」
「本当に……! 本当に僕以外の神がいる!」
神と女神は世界の終わりと始まりの狭間で永遠の至福を過ごした。でも、いつか飽きてきて、また世界を創った。
二人の神、三つの世界、四つの樹、五つの器。
ツリーマスター。その職業は受け継がれる。
Fin
旧・職業【ツリーマスター】がレベチです〜俺だけツリー解放で無双する〜 空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~ @Arkasha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます