8 夜戦 前編
夜の町は静かだった。それもそうだろう。この異世界では電灯なんてないのだから。夜が来れば皆寝るのだ。だが俺は今、闇夜の中で北門を目指してライオットと歩いていた。
「私もわかる。私が永遠を知る前は、そうやって無邪気に最強を目指したものだ」
ライオットは俺を見てそう呟いた。その瞳に映る感情を俺は計り知ることができなかった。
「そうだったんですね……」
「ああ。後悔はしていないがな。そんな私からのアドバイスだ。どうせなら楽しむが良い」
俺は精神論かよと思ったが、案外そういうものなのだろう。ライオットのアドバイスを受けて、俺は頷いて応えた。
そして、ついに俺たちは北門の前までやってきた。そこには、一人の門番がいた。
「お疲れ! ラモ、こんな夜中にどうしたんだ?」
俺たちに気がついたその門番が俺を訝しげに見ながら言った。このとき急にまたライオットの纏う空気が変わるのを感じた。
「よう、コゼット。悪い、落とし物したみたいでさ。ちょっと探させてくれないか?」
「それはいいけど、そいつは?」
「そいつ? なんのことだ」
そう言いながらライオットはコゼットという男に魔法をかけたみたいだった。
「あぁ、悪い。門を開ければいいんだな」
「助かる。行くぞ、ハンス」
虚ろな目をした門番が北門を開けてくれる。そうして俺は外に出た。
「どうせ朝まで戻ってこないのだろう?」
「はい。終夜戦いたいです」
「わかった。ならこれを授けよう」
そう言ってライオットはどこからか取り出した指輪を投げてきた。俺はそれをキャッチして月夜に照らし出す。色合いは暗いせいでよくわからないが、精巧に作られていた。試しにつけてみることにする。
「その指輪はな、取得経験値二倍とレベルアップ恩恵二倍を兼ね備えた代物だ。大事に使え」
まじ? 取得経験値二倍も凄いが、レベルアップ恩恵二倍だと? 破格すぎる。破格すぎるが、これはより一層レベル上げが熱くなる!
「ありがとうございます」
「気にするな。では、私は帰る」
そう言うと、次の瞬間にはもうライオットの姿はなかった。転移の魔法なのだろうか。まぁ、いい。俺は夜の大地に足を踏みしめて、夜戦へと繰り出した。
最初は順調だった。ライオットにもらった指輪のおかげもあり、レベルは一気に上がっていった。敵も一体二体くらいなら簡単に倒せた。
だが、途中から敵が連携を始めて余裕がなくなっていった。また、レベルも上がりにくくなった。夜の敵地なのでステ振りなどまともにできないし、苦戦し始めていた。
「クソ、速くて当たらない」
厄介だったのは、犬型の魔物だった。ライトニング・スフィアを唱えても、半分くらいの確率で外れてしまう。そんな相手が複数で来られたら、打つ手はない。
魔法は連戦に向かないな。第一、魔力が圧倒的に足りない。俺は魔力が枯れてきたところで剣で戦うことにした。そうだ。子どもの頃からこのために剣を鍛えてきたんじゃないか。
俺は三体の犬型の魔物バイゼル(名前は鑑定Ⅰを解放してわかった)と向き合いながら剣を構える。
一体のバイゼルが駆け出す。俺は見切りⅠでカウンターを狙い、相手の動きをよく見て、一撃を加える。首筋から血を流したバイゼルはそのまま倒れた。
残り二体のうち一匹が俺に向かってくる。噛み付き攻撃をバックステップしてかわす。そして、その横っ腹に剣を突き刺した。もう一体が飛びかかってきたが、これも見切りⅠを使い、カウンターで切り裂いた。
安心したのも束の間、後ろからバイゼルの鳴き声がした。振り返ると闇夜に月の光を受けて黒い毛並みを輝かせる、一際大きなバイゼルがいた。
俺は鑑定を使う。
【名 前】なし
【種 族】ラ・バイゼル
【性 別】メス
【年 齢】17
【職 業】なし
【レベル】67
【体 力】292/292
【魔 力】108/108
【攻撃力】109
【防御力】104
【知 力】32
【精神力】27
【俊敏性】88
【幸 運】51
《スキル》
『咆哮』
《魔法》
『シャドウ・ランス』『影喰らい』
《その他》
バイゼルの長。ラは王の意。
名前はラ・バイゼル。鑑定により分かる《その他》の説明によると、ラ・バイゼルはバイゼルの王という意味らしい。要は種の長として進化したということか。
対する俺の今のステータスはこれだ。
【名 前】ハンス・ハイルナー
【種 族】ヒト
【性 別】オス
【年 齢】7歳
【職 業】大魔道士
【レベル】27
【体 力】108/129
【魔 力】17/162
【攻撃力】43
【防御力】43
【知 力】43
【精神力】43
【俊敏性】43
【幸 運】43
《スキル》
【サーチ】【見切りⅠ】
《魔法》
【鑑定Ⅰ〜Ⅶ】【隠蔽Ⅰ】・【隠蔽Ⅱ】【ライトニング・スフィア】
《その他》
ツリーポイント12p
【生命の樹】
【技能の樹】
【知恵の樹】
前の戦いで少しばかり攻撃を食らって体力が減っている。ステータス的には圧倒的に不利だし、さらに奴は六匹のバイゼルを後方に従えていた。この数の相手は初めてだ。さて、どうしたものか。俺は舌打ちとともに剣を構え直した。
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