八月の影 6 終わりの始まり

 まだ暑い八月の最後の日に行われたその葬儀はこの葬祭場でも一番大きなホールだけでは収まりきらず隣のホールも貸し切って行われた。四十を超えて、昨年漸く支配人になった伏見光一は緊張のあまり今日は朝から胃のあたりが気持ち悪かった。入社して20年になるがこの葬儀はこれまで関わったどの葬儀とも違っていた。

 この会場に故人と同年代の会葬者の姿はほとんど見当たらない。大体において人は若くして亡くなるとまだ連絡を絶やさない学生時代の友人も多くいる為会葬者も同世代の友人達が多くなる。しかしキャリアを積み、家族ができるとやがて学生時代の友人達とは連絡が途絶えがちになり会葬者は仕事の関係者が多数を占めるようになる。会葬者の様相はそのまま故人の社会的立場を具現化するのだ。今時珍しい同族企業の後継者であるこの故人の会葬者は殆どが仕事を通して知り合った人間のようだ。秘書を引き連れた会葬者がそこここで集まってはひそひそと小声で話をする様子はどこか会社のパーティーのようだった。無論パーティーではないから、その皆がハイブランドのスーツではなく喪服を着ているわけだったが。

 伏見光一はホールの入り口で人が滞留しているのに気づいた。これはまた場違いな…。制服姿の若い一団がどうしていいかわからず立ち止まってしまったようだ。高校生だという故人の弟の友人達だろう。葬儀の差配していた支配人は、会葬者を迎えて挨拶していた故人の弟に声を掛けようとしたが、その必要はなくなった。故人の弟はもう既にその一団を見つけていたようで挨拶の為に並んでいた父親の隣を離れ友人たちを出迎えるために向かっていた。


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