愉快な帽子屋
「「ウワアアアアア」」
『ふふん、カドっちとタリちゃんたらわかりやすいところに居て!私の能力を…ってあれ?違う?』
「え?あ。人違いです。」
『あーごめんごめん。うちの友達を殺…友達とかくれんぼやってたから間違えちゃった』
てへっと照れている目の前の少女を僕は眺めた。目の前にいるのは銀髪、銀目で明らかにあってない大きな帽子を被り、職人風のエプロンを着た少女だった。
『じゃぁごめんね間違えてーバイバイ』
どこだー、と言いながら走っていく子をボーっと僕らは眺めていたがふと
「あれ?あいつここの住民じゃね?」
「あ、しまった!追え!追うんだ!」
僕らは走って追いかけたがそこには誰もいなかった。
「あれー?おかしいなー俺らが話す前は確かにいたのに…」
「そうだな…」
だって、目の前の道は一直線で曲がれるところもないんだからしばらく立ち尽くしていると
『もしもし、君たちはどうしたんだい?この辺りでは見ない顔だが…』
ふと、横から背の高い髭を生やしたステッキを持った紳士が現れた。
「あっこの辺りの人ですか?ここはどこでしょうか?」
『都市部の人か…あ、いやなんでもない。ここは「農工地帯」そして僕はそこで探偵をやっている「タリウム」さ!』
(タリウム:探偵小説で青酸カリと同じくらいトリックとしてよく使われる遅効性の毒、症状は皮膚炎、脱毛、神経障害などが引き起こされる。用途とすれば、現代は試験薬などで使われ、昔はその毒性の高さから殺鼠薬に用いられ、効果に脱毛があったことから脱毛剤としても売られたため、昔はよく手に入れられたらしい。)
「え?タリウム?それって…」
『いえーい!見つけたアアアアアアアアアアヒャッハアアアアアア』
先ほどの職人風の少女がどこからか現れて紳士の方をがっちり掴んでいた。
『なアアアアアアアアアア⁈』
『彼らに声をかけて名前を出したのが運の尽きさ!さぁ来い!お前を地獄に連行する!』
『ヤメロー!シニタクナーイ!』
紳士はしばらくジタバタしていたがいきなりポワンっ!と音がしたかと思うと眼鏡をかけた小さなネクタイ姿の子供に変わった。僕らが驚いていると
『へへ、あれは現場証拠なんだ!れっきとした探偵行為さ!』
『なぁにが探偵行為だ!乙女の下着を持ってくのは探偵ではなく変態行為よ!』
「おい」
『ばーか!ばーか!変装すればいくらでも逃げれるぜ!』
「おい」
『ムキーーっ!今捕まえてやる!』
「お前らちょっとは話を聞きやがれええエエエエ!」
ビクッとして二人はこっちを向いた。
「おほんっ、ここは農工地帯と呼ばれているのはわかったがこの世界はなんだ?」
『『??』』
「あー俺たち一回死んだはずで起きたら世界がまるっきり変わっていたんだ」
多田野の説明は雑だったが間違っていない。タリウムがしばらく考え込むとふと言い出した。
『…どこかで聞いたことがあるが…生物は欲望が深いまま死ぬと死んだ時と違う世界に生まれ変わると聞いたことあるな…』
『ふぅん、変態でもそういう知識はあるのね』
『変態ではない、天才で探偵だ』
『まぁいいわ、ってことはあなたたちは生きた生物なのね』
「そういうことだ」
「あんたらはなんなんだ?」
『……ふふふ…』
彼女らはしばらく顔を見合わせていたがいきなり不気味に笑い出した。
『ふふふ…わたしたちのことを知らずにこんな近くで話すとは』
『命知らずにも程がある…』
『『永遠に死んでしまえッ!』』
二人は体の形を変え、暗殺者のような姿になった。
『冥土の土産に教えてあげるわ!私の名前は「水銀」よ!』
『そして、この世界は生物が滅び、毒が蔓延する世界だッ!』
(水銀:おそらく、日本で一番有名な即効毒であろう。常温で液体になってしまう金属であり、銀のような光沢を示す。しかし、毒性は強く他の金属と合わせてアマルガムと呼ばれる合金を作らないと人に出せるような安全性にはならない。症状としては嘔吐、下痢、めまいなど中枢神経に主に効く。昔は農薬で使われ、あまつさえ古代の中国ではなんと不老不死の薬として飲んでいたのである。その後,日本でも高山から出てくる水銀によった被害により、「水俣病」などという公害も引き起こした。)
やはり、予想は当たっていた。普段から本は読むのが好きだから探偵小説なども無論読む。その中でタリウムがトリックとなった本を読んだことがあった。
「っ‼︎多田野!避けろ!」
「んえ?」
タリウムだけでなく水銀の姿も変わったのに驚いていた多田野は素早く飛んできた二人を避けられず…タリウムと水銀の飛ばしてきた毒をモロに浴びてしまった。
「⁈ぅえ⁈何すんだよいきなり⁈」
「多田野!水を含んでうがいしろ!お前は毒を飲んだ!」
『無駄よ、この辺りの川はすべてわたしたち毒により汚染されている。安全な水を求めるなら10日かかって歩いてあるかどうかね。』
「何…だと⁈」
なんということだ環境汚染は思っていたよりも酷いらしい。何か…そこまで大事には思っていないがそれでも友人である多田野を救う手は何かないのか⁇くぅ…思いつかない。「え?何?まずっ」
多田野は口に入った毒をペッペと吐いた。
『……おかしい…我々の毒は遅効性と即効性。どちらかの症状が出ていないといけないのにあいつはけろりとしている…まさか…いや、そんなことは…』
そう言いながらタリウムは元の少年の姿に戻った。
『どうしたの?タリちゃん。』
それに合わせて水銀ももとの職人の姿へとなった。
『あり得ない。あり得ないがこれはあくまで仮定の話だ。あいつは毒が効かない』
『そんなことあるわけないじゃない』
『あぁ、そうだ。だがまぁ、水銀ほどの力で効かなくても俺のは確実に効くだろう…俺は毒の中でも危ない部類…1~2日怯えながら過ごすんだな』
『あれ?もう一人は?』
『片方が死んで絶望の中、殺してくれと頼むまでなぶって…殺す。その絶望の顔がたまらん』
『うわぁ…』
「おい!多田野!なんか症状は⁈」
「トイレ行きたい、漏らしそう」
『ちょっあなたねぇ分かったわよあっちにトイレあるから!さっさと行ってこい!』
「おっ!せんきゅ!あっちだな?」
多田野はひょこひょこと指された方向に向かっていった。多田野…大丈夫だろうか?
『逃げてあの病院に逃げ込まれたら困るから見張っておく』
『お願いね、まぁそれでも下着泥棒の罪は消えないけど』
『…逃げ『逃さないわよ』
『ヒィイ』
震えながらタリウムは多田野の向かった方へ駆けて行った。
「……」
『……』
『…えっと、聞きたいことあるかしら?』
「え?あ、じゃぁ、まず、生物が滅んだ理由を」
『いいわ、話してあげる。あなたたちニンゲンは13年前大きな戦争を始めたの。生物兵器と呼ばれる毒が撒かれ、それに対抗するため、私たち人型毒兵器が製造された。しかし、愚かなニンゲンどもはわたしたちを量産し、軍隊という決まりで縛られた。怒ったわたしたちオリジナルはニンゲンを中毒死させ、全員殺した、その戦争の影響で毒に耐えられない生物はみんな滅んだってわけ』
「つまり、人間どころかお前たち以外の生物はいないのか…」
『あ、全員死んだわけじゃないわよ。』
「え?」
『蛇だったり、フグだったり、サソリだったり、植物ならキノコとかそういう毒を生み出す生物はいるわよ』
「人間は…?」
『いないわね』
キッパリと言い切られた…
「ところで、その服装は?」
『あら?あなた知らないのかしら?昔は帽子を作るときは私が必要だったのよ。ただ、私のことを吸ったニンゲンは幻覚になったりしたのよ。で、ニンゲンがいなくなった今、ニンゲンとしての感情のある毒たちはおしゃれを求めるのよ。それで帽子を作る職人がいないからちょっとは作れる私が帽子職人になっているのよ』
そういえば、鏡の国に少女が行って何とかするって感じの童話に登場する帽子屋の頭がイカれていたな。もしかしてそれが理由なのか…?そう考えていると遠くからタリウムが血相を変えて走ってきた。
『おい!おい!』
『何よ』
『カドっちが!』
『カドっちが?』
『…倒れてる』
『何ですって⁈』
…大事件の香りがする
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