第23話 飾られた古い絵画4

◇◇◇

海堂家の本邸。ダイニングルームに座る綾と愛花。

「あの、綾さん...もしかして、龍之助さんも来られ、」

恐る恐る尋ねる。

「もちろん、夕食は一緒に取るわよ?」

ニッコリと微笑む。


(この行動力、恐るべし、だけど、母さんの行動力は綾さんと重なる....)


「大丈夫よ。あなたは龍之助にとって孫よ。私にとってもそういう存在ね。祖父母と孫が一緒に食事をするのはおかしくないわよ。」

ふふと笑う。


数分もしないうちに、海堂龍之助がダイニングに現れた。 

整った顔立ち、年齢を重ねて刻まれた皺が威厳さを保つ。

ワイシャツにズボンという

愛花の姿を見て目を丸くしている。

綾は立ち上がり、龍之助を席に座らせる。

「ほらほら、サッサと座る。」

「何の真似だ。綾」

「孫と食事しながら話すのは普通よ。それに、あなたはいつも話さなすぎなのよ。大事なことを.....」


愛花は席を立って自己紹介をする。

「はじめまして、帝都学園高等部2年。美術部副部長の長峰愛花です。」

愛花の顔が瑠璃と重なる。

瞼を閉じる龍之助ー...


◇◇◇

3人がテーブルにつく。


「拓也が君と瑠璃を重ねてるのが分かるよ。愛花」

名前で呼ばれて驚く。

綾さんはウィンクをする。

「私は君が中1の時に描いた絵を見てる。平和への祈り。あれは素晴らしかった。」

「ありがとうございます。」

ペコリと頭を下げる。

「君に問いたいことがある。進路のことだ。いずれは沖縄に帰るつもりか?」

龍之助に綾も続く。

「それは私も気になってたわ。」



「自分が稼いだお金で、沖縄に帰りたいです。だけど、事情がどうあれ拓也さんには様々な大切なことを教えてもらった。私はそれを返したい。」

強い瞳で言葉にした。


「愛花ちゃん...」

綾は慈しむような声だった。

「絵の仕事に携わる気があるかい?」

龍之助は尋ねる。


「興味はあります。絵が好きですから。」


龍之助は瞼を閉じて考えこむ。

「...全日本学生美術展、そこに応募して桜井家のご子息に勝ってもらいたい。それと、これは君の為に伝えておく。」


「桜井家のご子息って、桜井慎吾君のことですか?どうして、」

そう前から気になっていたのだ。

どうして、海堂家と並ぶ桜井家は拓也さんと桜井君を比較してきていたのか。


「まさか、、」

愛花はある考えが胸を過る。

龍之助と綾が眉間に皺を寄せる。


「そうよ。愛花ちゃん」


◇◇◇

桜井家

「只今帰りました。」

慎吾は帰宅の挨拶をする。

「お帰り」

広いリビングには父と母が座っている。

隣にはお祖母さまが座っている。

髪の毛をまとめて、黒いニットに白いロングスカート。

桜井家をここまで大きくしたのは彼女の功績だ。


「お祖母さま、今日は本邸にいらしてたんですね。」

「今日はいいお天気だから、外の空気を吸いたかったの。」


父と母の顔色が悪い。

どうしたのだろう?


「慎吾君、あなたにお話があるの。聞いてくれるかしら。」


慎吾の祖母、桜井花蓮は上品に微笑む。


◇◇◇


海堂家のダイニング

「花蓮は桜井慎吾君の祖母でもある。」

綾の言葉に動揺を抑えきれない愛花

「そして、それが瑠璃が家出をした理由でもあり、すべては過去の俺の過ちでもある。」



◇◇◇


海堂拓也のアトリエ

描いた絵に色を塗る照子は夕食後、唐突に語る。

「拓也、瑠璃さんの母親。桜井君のお祖母さまでもある。」

「!!」

「つまり、長峰さんと桜井君は血の繋がりがあるってことね。」

重大なことを簡単に言ってのける照子に

頭を抱え込み深くため息をつく。

「その事、父さんや義母さんは愛花ちゃんに話すのか?」

拓也は愛花の心を心配している。

「いずれは知る真実だから、話すでしょうね。」

冷や汗をかく拓也。

「大丈夫よ。長峰さん、いえ...」

(里山先生出来ましたと完成した絵をニコニコしながら、私に見せる彼女に何度瑠璃さんの面影を見たことか。)

「愛花ちゃんは私たちより強いわよ。」

笑みを浮かべる。





拓也が初等科に入学した年、瑠璃は21で美大に通っていた。

その日ー

桜井家のパーティーに招待されていた龍之助と綾と瑠璃。

パーティー用のドレス、瑠璃は名前にちなんだ瑠璃色のドレス。綾はエメラルドグリーンのドレスに身を包む。

龍之助はブラウンのスーツで、来賓客と談笑している。


「にしても、ドレスは肩が凝るわ。早く帰りたい。」

瑠璃がぼやく。

「本当ね。拓也君も一人で留守番してるもの。」

綾が瑠璃の意見に同意する。

そんな時、一人の高齢の執事が瑠璃と綾に声をかける。

「海堂綾様、瑠璃様でございますね。奥様から内密にお逢いしたいと仰せにございます。」


「ー?」

二人は疑問を浮かべた。

◇◇◇


前を歩く執事のあとに続く二人。

「綾さん、桜井家の奥方様と知り合い?」

「会ったことないわ。」

桜井家の奥方は全く、公に姿を見せない。

執事は後ろを振り返る。


「お二方がよくご存知の方でございます。」

「!?」

◇◇◇


嫌な予感はしていた。

なのに、扉を開けしまった。

崩壊にと続く扉を。



「久しぶりね。綾、瑠璃」


そこにいたのは桜色の着物を纏った女性ー

失踪した綾の親友にして、瑠璃の母親

花蓮であった。

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