第22話 飾られた古い絵画3

現在。海堂邸

紅茶を一口飲み、綾さんは一瞬切なそうな瞳をした後、あっけらかんと言い放つ。

「にしても、アイツは2番目の妻が亡くなった日に私の唇を奪ったあげく、告白してきたのよ?」

苦笑する愛花。


「あなたのお祖父様は、本当に伝えたいことは何もいわない。だけど、どうしようもなく孤独で不器用な人のね。」

(傍にいてあげないといけない気持ちになったのよー...)

綾さんは優しい眼差しをしている。

「お祖父様と呼んでいいんでしょうか。以前、拓也さんと話てる所を見かけたことがあったんです。勝手に駆け落ちした娘の子を孫とは認めないって」

綾は溜め息をつく。

「本当に不器用ね。あの人は、大丈夫よ。あなたの絵は観る人の心を和ませる。 認めさせてやりましょう。」

ウィンクする綾

「はい」

口角をあげる愛花。


「そろそろ夕食の時間ね。ダイニングに行きましょうか?

ここからが本番よ。瑠璃と拓也さんと照子さんの関係のね。」


◇◇◇


夕食後、再び拓也のアトリエで絵を描く。

拓也の先ほどの言葉に照子が反論する。

「拓也、綾さんは自分の意思で龍之助さんの傍にいる道を選んだと思うわよ。」

色を塗っている最中、照子が唐突に口を開く。

「え?」

「あなたは龍之助さんに、いい印象がないんでしょうけど、あの人の視線の先にはいつも綾さんがいたわよ。」



◇◇◇


初めて会った日、拓也は庭園で泣いていた。

「大丈夫?」と声をかける照子。

すると、「拓也ここにいたのね。戻るわよ。綾さんが探し、」と姉の瑠璃が姿を表した。

瑠璃が照子に気がつく。

「あら?あなた里山のおじさまの子よね。」

視線が合わされる。

「はい」照子がコクリと頷く。


庭園に歩いてくる足音がする。

赤のロングドレス。

白いネックレスというシンプルな装いだが輝いて見える。


海堂綾

海堂家の後妻に入ったとされる女性。

(綺麗な人ー)

私が綾さんに抱いた第一印象だ。


ニコッ笑みを浮かべる。

「本当にあなた達、姉弟は庭園に隠れるのが好きね。」

綾が照子に目を向けて尋ねる。

「この子、里山様の」

瑠璃はある考えが浮かぶ。

「確か...照子ちゃんよね。絵を描くの好き?」

笑顔で聞かれてドキドキする。

「好き」


「よし、私はこれから人数分の画用紙と絵を持ってくる。拓也も綾さんも入って絵を描いて遊ぼう。」

ナイスアイデアと微笑む瑠璃に綾が苦言する。

「無理よ。流石に私まで抜ける訳には...」

頬を膨らませる瑠璃

「綾さん、最近、父さんの付き添いで、会合やパーティー出席が続いて疲れてるでしょ。昔の綾さんらしく過ごしてよ。」

(瑠璃ー...)


この子はこの子なりに気を使ってくれたのね。

「そうね。瑠璃の御言葉に逢わせて入れてもらおうかしら。」

綾は柔らかく微笑む。

◇◇◇


その後、庭園にある木のテーブルと椅子に座り4人で絵を描いた。

「拓也君は何を描いたの?」

綾が拓也に尋ねる

「ぼくは姉さんだよ、お母さんは?」

お母さんの言葉に綾は胸がドキンと跳び跳ねる。

今日、拓也が知ったのは綾が自分の実の母ではないこと。

もう少し年齢を重ねたら話すつもりでいたのだ。

私をお母さんと呼んでくれるのね。

フッと笑みを浮かべた。

「そうね。あなた達を描こうかしら、瑠璃と拓也君と照子ちゃん。」

瑠璃は考えこむ。

「じゃあ、私は青空を描こうかな。照子ちゃんはどうする?」

「お花描く。」


4人で絵を描いた時は、日差しがさして穏やかな時間に包まれていた。


出来上がった絵、まずは瑠璃さんが見せる。

「すごい綺麗な青空だね。姉さん」

「流石ね。瑠璃」

「上手」

3人が手放しに褒めるので瑠璃も満更ではない。

「でしょ♡」


「じゃあ、次は僕だね。」

じゃーんと拓也は効果音付きだ。

特徴を捉えてる瑠璃の絵、だけど、やっぱり子どもが描いてる絵だ。

「私、こんなに不細工じゃないわ。」

切って捨てる瑠璃

「え」

おろおろする照子

「瑠璃...」

頭を抱える綾


拓也は泣きそうになる。

その時、綾が拓也の頭をよしよしと撫でる。

「だから、拓也、もっと上手くなって私に流石ねと言わせてみなさい。」

笑みを浮かべる。

「うん」


「次は照子ちゃんの絵を見せて?」

拓也が照子にせがむ。

「はい」

照れながらも自分の描いた絵を見せる。

「赤のチューリップ?」


子どもが描いた絵だ。だけど、色使いがよくて元気をもらえる。

「僕がもらっていい?すごく元気をもらえる。」

拓也に微笑まれで、私は笑顔で頷く。

「うん」


「じゃあ、次は綾さんの番」


綾が描いた絵は写真から浮き出たように瑠璃、拓也、照子と自分自身描いていた。


「すごいよ。母さん、」

拓也はパチパチと拍手する。

「写真から抜け出したみたい。」

綾は目をキラキラさせている。

瑠璃は目を潤ませて、悲しそうな顔をする。


そんな時、庭園に入る数名の足音聞こえてくる。

「ここにいたのか、お前たち」

海堂家当主、海堂龍之助

上品なスーツを着こなして、整った顔立ち。圧倒的な存在感。


照子は子どもながに、この人の視線にいるのは瑠璃でも拓也でもなく、綾であることに気がついた。


龍之助の後ろには照子と呼ぶ自分の父の姿があった。

「お父さん!?」

「パーティー会場に姿がなかったから、心配したんだよ!」

純粋に子どもを案ずる父。


そんな姿を瑠璃と拓也は羨ましい表情で見つめていた。


「もうパーティーは終わるし、子どもたちは遊ばせてあげましょう。瑠璃、照子ちゃんを後で送ってあげてくれる?私が描いた絵、好きにしていいわ。」


◇◇◇


綾が戻ったあと、瑠璃は綾の絵を見て呟く。

「こんなに才能のある人を私たちが、海堂家に縛ってしまった。」


「姉さん?」

拓也の呟きに、瑠璃はハッと気がついた。

「何でもないわ。そうだ。照子ちゃん綾さんが描いた絵をあげるわ。一緒に遊んだ記念。」

「わあ~いいの?」

「もちろん、また一緒に遊んで。ねえ、拓也」

「うん」


それからちょくちょく、海堂家に出入りして庭園て遊んでいた。

小学校入る前ー...幼い時の大切な思い出だ。


父の仕事の都合で小学校は別だった。

中学の時、帝都学園に入学出来るとしって嬉しかった。


だけど、再会した拓也はあの頃とは程遠い暗い影のようなものを背負っていた。


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