第17話 祖母の存在
僕の産みの母、海堂蘭は僕が幼い頃に亡くなっている。
里山に僕とのお見合いを進めたのは、育ての母だ。
海藤綾。
父さんにとって3番目の妻。
彼女は姉さんの絵の師匠。
海堂グループを率いるには妻がいた方が何かと都合がいい。
なぜ、姉さんが海堂家を出て沖縄まで行ったのか、今ならわかる。
あの家にあの人にとって、自分の妻も子どもも道具でしかない。
例え、それが血の繋がりがある孫でさえ。
◇◇◇
疲労感が色濃く残る翌日。
部屋から出てリビングに入ると、美味しそうな匂いがして鼻腔がくすぐる。
「おはよう、愛花ちゃん」
制服姿の愛花ちゃんが朝ご飯を机の上に並べていた。
「おはようございます。拓也さん。」
笑顔を向けられて、僕は心がほっとしてるのがわかった。
「これはゴーヤチャンプルー?沖縄の料理だね。」
玉子とお肉とゴーヤを使われている。
沖縄の代表料理だ。
「疲れた時に食べると元気が出ますよ。」
僕の心を読んでるかのような言葉に、ドキッとした。
「それはありがたいね。いただくよ。」
そうだー。。
今は食べて栄養をつけて頭の整理をしなければ。
無心でゴーヤチャンプルーを食べてる拓也を見て愛花が尋ねる。
「拓也さん、何かありましたか?」
「どうして?」
「すごく辛そうに見えます。」
その言葉に僕はすがりついて、本音を伝えたくなった。
鼻の奥がツンとして、視界が揺らぐ。
でも今は考える時間が欲しい。
「すごいね。愛花ちゃんは、あったけど、まだ僕も頭が混乱しているんだ。
時が来たら説明させてほしい。それまで、待っててくれるかい?」
拓也の言葉に寂しそうに笑いながらも、愛花は一言告げた。
「待ってます。」
◇◇◇
校舎内
チャイムが鳴る。
授業後が終わり、放課後美術室に向かう途中。
(今日の拓也さん元気なかったな。どうしたんだろう。)
美術室に入ると部長の桜井君が既にいて、キャンパスでデッサンをしている最中だった。
桜井が愛花に尋ねる。
「お前知ってたのか?」
「何が?」
「両親が話してた。拓也さんと中学の顧問の里山先生がお見合いしたって。」
彼の言葉に目を丸くした。
「知らない。」
拓也さんが元気なかったのこれが理由なのかな。鼓動が早まる。心拍数が高まる。
桜井が愛花を気遣うような眼差しを向けた。
◇◇◇
バスケ部
バッシュの音。シュートの音が交差する。
男女バスケ部の練習を見てる由利。
健がシュートをしてる姿に、思わず魅了された。すごい綺麗で。
でも叶わない恋なのはわかる。
彼が好きなのは愛花だから。
転入した時から、好きだって目がいってた。
嫉妬から胸がズキッと痛くて、ゼッケンをぎゅうと握る。
例え叶わない恋でも、バスケを通して隣にいれたらいい。
私の恋は。
愛花はどうなんだろう?
◇◇◇
海堂家。
海堂綾は龍之助に声をかけられた。
「どこへ行くんだ。綾」
髪をボブにまとめて、黒のスーツを着こんだ女性が振り返える。
「帝都学園です。血の繋がりはありませんけど、戸籍上では私の孫にあたる彼女と会って話をしてみたい。それにー」
瑠璃の血を引く娘。
彼女の描く絵を見てみたい好奇心が勝る。
綾は目に怪しい光を見せる。
「好きにしろ」
◇◇◇
部活が終わり、桜井と愛花が美術部の片づけをしていたら、来客が颯爽と現れた。
髪をボブにまとめて黒いスーツを着こなした女性。
私に気がついた彼女は、テクテクと近づいた。
「あなたが長峰愛花さんね。」
明るい笑みを見せた。
「はい。」
私は呆気に取られた。
「はじめまして、私は海堂綾。戸籍上ではあなたの祖母になるわ。」
◇◇◇
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