第11話ー②

文化祭までの2か月間。

授業のあとの放課後、部活で、私は丁寧に下描きをしあげていく。


そんな私を桜井君がチラッと見ていたのは気がつかなかった。


顧問の里山先生は、桜井と愛花の関係を見てクスッと笑った。


(まるで、昔の私と拓也のようだな。)


拓也はアトリエで絵を描いている。

筆を持ち絵の具で色をつけている。

学生時代を思い出していた。


海堂家の絵画は技術こそが全て、そこに心は必要なかった。

姉さんはそれに反発して家を出た。

父の期待は、全部僕に向かった。



それにしても、桜井慎吾くんか昔の僕に似ている感じがする。


数年ぶりに母校の文化祭行ってみようかと考えていた。


一方、沖縄。

幼なじみの健は中学のバスケ部で、シュート練習に撃ち込んでいた。


「ナイスシュート。健。」

眼鏡をかけている優等生。

愛花の兄の優は高等部のバスケ部員だ。

「優さん...」

「楽しいだろう。バスケ?」


「はい。」

俺は笑顔で答えていた。


父の良勝は沖縄の小さな美術館で務めていた。


愛花が美術部に入ったと聞いて、妻の瑠璃のことを思い出していた。


「絵に心は必要ないのよ。」

寂しそうに呟く瑠璃に、俺はつげたんだ。

「そうか?心がこもってない絵に人の心は動かないだろう。」


今でもハッと振り向いて、嬉しそうにした君の顔は忘れない。


「父さん、見学してもいい?」

末っ子の空が美術館に来ていた。

近頃、身体の具合も大分いいようだ。


「空..もちろんだ。」

ニコっと微笑んだ。



季節は巡り、様々な人の想いが絡み合いあっという間に文化祭の当日を迎えた。


桜井慎吾は過去を振り替える。

美術の名門の海堂家と並ぶ桜井家の子どもー...


物心つくまえから、海堂家や海堂拓也と比較されていた。

俺の絵は海藤拓也のコピーだ。

幼い頃から模倣してきて、技術が自然と身に付いた。


心がこもってない絵でも、コンクールには入賞する。

そんな時、海堂拓也が自分の姪を引き取って暮らしてることを知った。


どんな人物なのか気になっていた。

ちょうど同じ学校に転入するし、しばらく観察してみようと思った。


「絵には心が必要か。」


文化祭はそれを確認する為の機会になる。


美術部。それぞれの絵を飾り投票箱を設置した。

運命の日スタートだ。






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