第10話 心と技術
9月
展覧会で賞を総なめしてる桜井慎吾
が転入してきた。
そして、彼は美術部に入部した。
高木部長が声をかける。
「桜井君、今、美術部。
11月に行われる文化祭の準備をしてるの。一作。テーマは自由よ。」
ポニーテールが特徴の部長は髪を靡かせて伝えた。
「その前に今日は自由に描いていいわ。」
「分かりました。」
彼はデッサンと絵の具を出して作業にかかる。
彼は私をちらりと見た。
もうスピードで青い海、雲。ハイビスカスを描きあげていく。
他の美術部員。里山先生。高木部長。
私も驚く。
絵が実在しているような感覚だ。
そう、これは海堂拓也の絵だー...
(だけど、微妙に違和感がある。)
「海堂拓也には誰でもなれる。時代遅れの画家だ。」
私は桜井君が放った一言に、頭が血がのぼった。
部長も同様だったのだろう。
「確かに、あなたの絵は、拓也さんと同レベルの実力があります。
だけど、拓也さんは一筆、一筆に心をこめます。
あなたにはそれがない。
心がない絵は、人の心を響かせることは出来ません。」
部長は私の肩をポンと叩いた。
「愛花ちゃんの言うとおりよ。
心がこもってない絵は、長く人の心を寄せ付けないわ。桜井君。」
桜井君は目を丸くしていたが、次第と冷静さを取り戻した。
「へえ~」
桜井君はハッと笑う。
「じゃあ、今度の展覧会でどちらが人の心が引き付けるか勝負しないかい?
俺と部長さんと君で合計した得点した方の勝ちだ。」
「いいわ。」
部長が受けてたち、私も部長のあとに続く。
「望むところです。」
絵は勝ち負けの道具じゃない。だけど、拓也さんをバカにされたままじゃ悔しい。
「ちょうど、退屈してたところなんだ。久しぶりに楽しい余興ができたよ。」
桜井君は、ハイビスカスと青い海。白い雲を表してる絵を私に渡す。
「君のイメージで描いた。じゃあね。」
私はその絵を見つめてふいに思った。
沖縄の家族の声が聴きたい。
部活が終わって帰り道、部長と歩く。
「珍しいわね。愛花ちゃん。」
「拓也さんをバカにされて、頭に血が上りました。」
ぷんすか怒ってる愛花を見て、部長がクスクス笑う。
「愛花ちゃん拓也さんが好きなのね。」
しみじみ語る。
「もちろん、好きです。家族ですから。」
私の言葉に目を丸くする部長。
「まぁ、いずれ分かる気持ちか。」
(好きの種類は様々だとー...)
小声で呟く部長。
「何ですか?」
聞こえなくて、もう一度尋ねた。
「何でもないわ。またね。愛花ちゃん。」
部長と別れて帰路につく。
一部始終を見ていた里山先生は、こっそり拓哉さんに電話をしていた。
「「そう。愛花ちゃんと部長さんがそんなことを...」」
「「長峰さん言ってたわ。拓也さんは一筆、一筆に心がこもってると。」
その言葉に口角が上がる。
「「連絡をくれて、ありがとう、里山...」」
拓也の感謝の言葉にふっと微笑む。
ピッと電話を切る。
玄関の開く音が聞こえた。
「ただいま。帰りました~」
愛花ちゃんの声
アトリエを出て迎える。
「おかえり。愛花ちゃん。」
僕はにっこりと微笑んだ。
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