第9話 歴史を紐解く絵

「里山...」

「久しぶりね。拓也。」


先生と拓也さんを対面させたら、拓也さんは心底驚いていた。


「知り合いなんですか?」

私の言葉に笑顔で頷く。


「中学、高校の同級生で美術部OBだよ。それにしても驚いたな。愛花ちゃんの担任が里山だったとは。」


里山先生の後に、ルンルンと高木部長も挨拶する。

「はじめまして。美術部部長の高木愛美と申します。

私、小さい時に海堂姉弟の絵を見てから、リスペクトしてるんです。」


部長の言葉を聞いて、一瞬瞳を揺らすもほほんで言葉を交わす。

「ありがとう。君の描いたハイビスカス。色使いがとても引き込まれたよ。」


拓也さんに褒められて部長は有頂天だ。

「ありがとうございます。10日の日、お宅に伺わせていただきます。」


ペコリと頭をさげる。

「待ってるよ。

それと、愛花ちゃん..僕は挨拶があるから先に帰ってて構わないよ。」


「分かりました。」



その様子を数日前に、美術部で出会った桜井慎吾が見つめていた。


個展は大盛況のうちに幕を閉じた。

拓也さんとは若干、気まずさを構えたままだが、普段通りに過ごしていた。


8月10日。

部長が遊びにきた。

拓也さんのアトリエを見た時は、目がハートになっていた。

私の部屋で絵を描く予定だ。

文化祭で美術部は個人の絵を展覧する。

その題材も決めないといけない。


私の部屋に飾ってあったハイビスカスの絵を見て部長は照れる。


「あら、まだ飾ってくれてたの?」

「はい。私が美術部入部を決めた原点ですから。」


テーブルでスケッチブックに絵を描く2人。

「部長は文化祭の絵は決めましたか?」

私の質問に部長は力強く答える。


「もちろん、私は美術部仲間を描くわ。中学最後の文化祭だからね。」


「仲間...私は、描く題材にまだ、悩んでて部長が羨ましいです。」

私は弱々しく呟く。


「愛花ちゃん。まだ、時間があるし、心がこれだと思うものを描きなさい。」


《心がこれだと思うもの。》



 8月15日。拓也さんと美術館に行く日。

私は白いワンピースをきて、髪も2つ結びからポニーテールにして、拓也さんは白のポロシャツに青いジーンズ。


拓也さんの運転で目的の美術館に到着した。

今日は戦後○○年。

平和の祈りをモチーフにした展覧会。


私は圧倒された。

絵はこういう表現もあるんだと思った。


「歴史は絵によって紐解かれる。」

真摯な言葉に心に響く。


「そうですね。」

拓也さんの言葉に、私は文化祭で描きたい絵が見えてきた。


帰りの車内。

私は疲れて眠ってしまった。


拓也は愛花を宝物のような存在と思っていた。

「愛花ちゃん、暗闇にいた当時の僕はね。君に、君たち家族に救われたんだよ。」


沖縄に行った時に、愛花にもらったピンクの貝殻を拓也はネックレスにして、お守りのように身に付けていた。




9月。

夏休みは終わり新学期。

いつものように美術室へ行くと、部長が血相変えてきた。

「愛花ちゃん!大変よ。2年にビックな転入生がきて、それが美術部に入部。」


里山先生が男子生徒を後ろにつれている。

「あっ」

私は見覚えがある顔にびっくりする。

「それが、海堂拓也の再来とも言われている。」

部長の説明がナレーションのようにこだまする。


桜井慎吾。

この時はまだ彼の転入が美術部に、波乱を巻き起こすことになるのを知るよしもなかった。











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