第6話 面影

海堂拓也は姉の瑠璃が描いた絵を見て、久々に思い出した。

僕の母。

海堂蘭は画家の名門。

海藤龍之介の後妻であった。

俗にいう不倫のすえ結ばれた恋である。

僕が幼い頃に亡くなったので、顔を覚えていない。


歳の離れた姉。海堂瑠璃

母のような愛情を僕に注いでくれた人だった。

美しい人だった。


邸宅の庭でスケッチをしている様子を、影から見ていた。


それに気がつくと、彼女は微笑んで長髪を結んだ髪を靡かせて。

「拓也、一緒に描こう。」


リンリンリン。

目覚まし時計の鳴る音で目が覚めた。


随分と昔の夢を見てしまったな。

ベッドから起き上がった。

リビングに行くと、台所からいい匂いがした。

「拓也さん。おはようございます。」


僕に声をかける愛花ちゃんの顔が、姉さんと重なって鼻の奥がツンとなった。

「...拓也さん?」

不思議がる愛花ちゃんに、僕は慌てて返事をする。

「ああ、おはよう。早いね。愛花ちゃん。」


 朝食はトーストにハムエッグ。

二人で席につく。

「いただきます。」


「拓也さん。

今日は学校帰りに、部活の皆と個展に行く予定なので帰りが少し遅くなるんです。」

愛花ちゃんが申し訳なさような顔だ。

「僕に気にしないで。ゆっくりしておいで。」

「はい。」

その言葉に無邪気に微笑む愛花ちゃんに、無意識に癒されてる自分に気がついた。


学校に登校する愛花ちゃんを見送ってからアトリエに入る。


一方、沖縄。

愛花の幼なじみの相沢健は、暇をもて余していた。

中学に登校中。高等部に通う愛花の兄の優と遭遇する。


「久しぶりだな。健。」

眼鏡をかけた優等生。

昔から印象は変わらない。

「優さんも。」


「愛花は美術部に入ったみたいだぞ?」

「美術部....」

愛花は部活に入ったんだ。

熱中できることを、東京で見つけている。

その事実に、嬉しさと焦燥感が入り交じった表情になる。

健の表情を見て優は提案する。



「放課後、高等部の体育館に来てくれないか?」


 帝都学園中等部。

1年A組。愛花は明るく優しくクラスの人気者だ。


友達もそこそこできた。

私は美術部に入って、新しい世界が広がってる感じがした。


放課後にがらがらと美術室に入ると、1人の男子生徒がいた。


(誰だろう?)


振り向いた彼は、アイドル事務所にいそうな美少年ー...

黒髪の短髪でネクタイを少し緩めて、優しげな目元。


私はふと、拓也さんに面影が似てるなと思った。






 






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