第5話 海堂姉弟の伝説

《拝啓。父さん。兄さん。空。

お元気ですか?

私が東京に状況したのは春休みのことです。

早いもので、4カ月たちました。

拓也さんもとても良くしてくれています。

今、私は美術部に入部しています。

元気にやってるので心配しないでください。》


沖縄で暮らす父の吉勝は、送られてきた愛花からの手紙を見て微笑む。

兄の優が穏やかに話す。


「美術部か。愛花が中学生活で、夢中になれる何かを見つけたなら良かったと思うよ。父さん。」

弟の空も笑顔で優に続く。

「姉ちゃんは美術部に入ったんだね。姉ちゃんの描く絵を見てみたいな。」


優の言葉に若干申し訳ない表情をしている。

「瑠璃が亡くなってから、家は傾いて家事も任せきりになってた。

愛花には充実した学生生活を送って欲しい。もちろん、優や空にも。」


2人は父の言葉に笑顔だ。


吉勝は東京にいる愛花相手に手紙を書き始める。

「美術部か血は争えないな。瑠璃...」


現在、家事は担当して賄っている。

吉勝の事業は少しずつ上向き、優は受験勉強の息抜き中。

空は身体が少しずつ良くなっている。



ほんわかな顔立ちの相沢健。

愛花の幼なじみである。

彼女が東京に行ってから、沖縄の生活がつまらない日々がなっていた。 


早く大人になって愛花と同じ東京へいきたい。

早く1日が過ぎて欲しい。

下校中。そんなことを考えながら歩いていた。


美術部に入部してから、3カ月。

梅雨の季節である。


高木愛美部長。

ポニーテールがトレードマークの

ハイビスカスの絵をもらった。

愛花の憧れの先輩だ。


デッサンにしながら、隣の愛花に驚いた声をあげる。


「えっ?愛花ちゃんは、帝都学園美術部伝説の海堂姉弟の親戚なの?」


目をキラキラさせて尋ねられる。

若干驚きながらも、愛花は部長の問いに応えた。

「はい。海堂は母方の旧生で、瑠璃は亡くなった母の名前です。

私は事情があって、叔父の拓也さんの家にお世話になってます。」


美術部の部員が口々に羨ましいと、羨望の眼差しを向けられる。

疑問に思っていたら、部長が愛花の疑問に答える。


「海堂姉弟はね。

絵画の名門.海堂家の出身で幼い頃から美術に触れて、我が校.帝都学園美術部で数多くの部門で入賞を果たしている。

素晴らしい才能の持ち主よ。」

笑顔で説明を受けた。


部長の言葉に拓也さんが画家なのは知っていたけど、お母さんまでそうだったのは、知らなかった。


海堂家ー...

父方の祖父母は幼い頃に亡くなった。

母方の祖父母は顔も知らない。


今さらながらに、私は結婚前のお母さんのことを何も知らないんだなとチクリと心が痛んだ。


部長が愛花の様子を見て察する。

「海堂姉弟の絵。拓也さんの絵は愛花ちゃんも観てると思うけど、瑠璃さんの絵もちゃんと美術部に残ってるわよ。

観てみる?」


「はい。」


私はその一言に口角をあげた。


部活後。

部長から昔の部誌を手渡される。



学校から家に帰宅して、家のドアを開けた。

愛花は元気よく挨拶をする。

「ただいま帰りました。」

敬語は中々抜けない。

アトリエにいても、拓也さんは必ず声をかけてくれるのだ。

「おかえり。」


優しく微笑んでくれる拓也さんに、私は自然と笑みがこぼれる。


家事は分担してやることになっている。

部屋に戻り鞄を置く。

部屋着に着替えて席についた。テーブルの上に部誌を置いて、海堂瑠璃と書いてあるページを開いた。


「あった。」

愛花は目を見開く。

そこには部屋に飾ってある花と同様。

ハイビスカスが描かれていた。

「部長の絵も素晴らしいけど、お母さんの絵は郡を抜いていた。」


ハイビスカスがその場に咲いているような感覚。

花言葉も添えられていた。

繊細な美。新しい恋。


《高2の夏に新しい恋見つかるかな?》

ハイビスカスの花の絵に下に、小さな文字で書かれていた。


夕食は私はご飯を炊いて、2人分の鮭を焼き。豆腐とネギのお味噌汁を作った。


いただきますと2人で挨拶をして食事をする私と拓也さんで決めた日課になっている。

拓也さんは白いシャツにジーンズと、ラフな格好だ。

私は緩いブルーのスウェットを着ている。


お味噌汁を飲む拓也さん。

「美味しい。ほっとする味だ。本当に愛花ちゃん料理上手だね。」

目元を細める。


母が亡くなってから、愛花は家事の全部を担っていたので料理のレベルは高かった。

「ありがとうございます。」


私がしてきたことは無駄じゃなかったと、しみじみと思う。


「ところで、愛花ちゃん美術部はどう?」

心配してる口調で聞かれて、愛花は少し疑問に思った。


「楽しいです!」


愛花の楽しい一言に拓也は目を丸くする。


「真っ白な紙に、自分の描いた絵が世界を広げていく感じがして....

まだ、まだ、拓也さんやお母さんの絵には及ばないけど。」

照れてる愛花。


拓也はお母さんの言葉に驚いている。

「姉さんの絵?どこで観たの?」

「はい。部長で美術の部誌を貸して下さって。」


愛花は拓也に部誌を手渡す。

拓也は瑠璃の描いたハイビスカスを愛しい表情で見つめていた。



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