第4話 中学1年生。美術との出逢い。

 4月。帝都中学校に入学。

春休みに拓也さんに、東京の上野動物園やスカイツリーを案内してもらった。

 動物園のパンダは可愛かったし、スカイツリーの景色も素敵だった。

 だけど、時々、沖縄の海を見たい。

そんな気持ちになるのは何故だろう?

 

 この中学校は幼稚園から大学まで、エスカレーター方式の学校である。

ここは、お母さんや拓也さんが通っていた場所だ。

そこで学べるのは心強い。

 拓也さんは入学式の日。

個展が近いのに参列してくれた。

入学式のスーツ選びを楽しんでいた。

「拓也さん。個展が近いのに、そちらに集中してくれたらいいですよ。」

遠慮がちにつげる。

「愛花ちゃん。こういう大事な式に家族が出席するのは、大切な思い出になるんだよ。」

ウィンクされて呆気にとられる。


拓也さんはとても優しい人だ。

だからこそ思う。

彼に迷惑をかけたくない。


帝都中学、高校は全生徒は部活入部が決まっている。

入学してしばらく

「愛花ちゃん。部活何するか決まった?」

「まだ、悩み中です。」

目を細める。

「愛花ちゃんには、充実した学生生活を送ってほしい。

家事は僕がやるから、好きなの入っていいんだよ?」


拓也さんはああ言ってくれてるけど、だけど、家事も手伝いたいから運動部は選択肢にない。

廊下の掲示板の部活紹介の文字をみる。


私はひとつの部に注目した。


《美術部》

今にして思えば美術部との出逢いは、私の運命を大きく変えたきっかけの一つだった。


部活見学OKの文字。

私は自然と美術室へと向かっていた。

 

 「失礼します。」

ドアを開けると3人の男女。計6人が作業をしていた。

部長である女性が私の姿を確認する。

「入部希望者?」

目をキラキラさせている。

「いや、あの見学を。」

「そっかー見学をしたら、入部したくなると思うよ。

私のデッサン力を見たら。」

その言葉に他の部員も笑う。

「すごい自信だな。」

男の部員が笑っている。

「本当のことよ?あなた好きな花ある?」

部長さんが私に聞いてきた。

頭にふとハイビスカスが浮かんだ。

「ハイビスカスです。」

「私も好きよ。その花。」

ちょっと待ってて、部長さんはデッサンに下書きをした後、赤色を塗っていく。

「はい。部活を見学してくれたお礼。」


受け渡された紙には、真っ赤なハイビスカスが描かれていた。

まるで沖縄に咲いている花のようだった。

「ありがとうございます。私、宝物にします。」

ペコリとする。


高木愛美先輩。ポニーテールがポイントの美術部の部長。

明るくて気さくで私の憧れの先輩だ。


家に帰宅後。部屋にハイビスカスの絵を飾る。

その日の夕食中。

「拓也さん。私、美術部に入部することに決めました。」

愛花の報告に拓也は優しい眼差しで、見つめていた。







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