第14話 ゼロに

大樹はあの日を思い出す。

筧一族が崩壊後ー...

当主からの命で、この街の長となってすぐのことであった。

森の奥の祠に、とてつもない波動を感じて、そこに赴いたら。


傷だらけの幼い男子が倒れていた。

慌てて駆け寄ると、少年の顔と亜樹と顔が酷似しているのに気がついた。


大樹の話に渚が尋ねる。

『それって、まさか、』

念話により、状況を把握している樹里がポツリと呟く。


『亜樹だろう。恐らく、私から受けた傷と一族の崩壊時の衝撃を防御するのに、全霊力を使って回復の為に幼児化させた。』

蛍が驚いて言葉にする。

『そんなことが出来るんですか?』


千樹が眉間を寄せて蛍の問いに答えた。

『並みの術者では無理です。しかし、』

大樹が千樹のあとを引き継ぐように、口を開いた。

『それが出来るのが、金の宮司を極めし者の力なのじゃ。』

 これまで黙ったままの楓が腕を組ながら、尋ねた。

『前置きはいい。説明してくれ。亜樹は何をしようとしてるんだ?』


◇◇◇

大樹は遠い目をして、再び過去を語り出した。

「そなたは亜樹...か?」

傷だらけの少年にヒーリングをかけながら告げる。

フッと笑みを浮かべた。


「そうだよ。大樹さん」

「一族の崩壊に巻き込まれて、行方不明と聞いていた。てっきり、」

伝えにくい言葉を、少年の亜樹はなんともないように告げた。


「死んだと思った?確かに樹里に受けた傷で死にかけたよ。」

何とでもないように話す亜樹に、大樹は哀れみの眼差しを向けた。

「っ亜樹..」

その視線に気がついた亜樹は、ふっと笑った。「言っておくけど、僕は恨んじゃいないさ。死にかけたことで、本当にしたい望みが見えた。」

目に光を放つ。

大樹は白髪の髪を耳にかけて、ゴクリと息を飲む。

「何をする気なんじゃ?」


亜樹がニヤリとした笑みを浮かべる。

「五芒星の呪法」

「ーっな!?」

大樹は驚愕する。

《五芒星の呪法ー...》


火の巫女.雷の宮司.大樹の巫女.水の宮司.金の宮司.

5人の異能の者が力を開放することで、五芒星が結ばれた中心地から、生命の力を集める。

そうすることで、不老不死を手に入れる。


だが、呪法が結ばれた土地の人間の生命を犠牲にする為、術者にも相当の負担を強いる。

異能力者の最大の禁忌と言われている。


「それだけは、い、いかんぞー。亜樹、」

大樹は少年姿の亜樹の肩をガシッと掴む。

「まさか、樹里への復讐を?」

「違う。僕はこの五芒星の呪法を使って、全てを能力者の力をゼロに戻す。」

「ゼロに?!」

「怪我の手当てありがとう。大樹、いずれ、この街に樹里が現れる。その時までこの街をよろしくね。」

亜樹の身体は光に包まれて消えていく。



◇◇◇

『能力者の力をゼロに』

一同驚愕で一言を発することが出来ない。

そんな時、離れた場所にいる樹里が冷静に告げる。

『いかなる願いがあれ、禁忌の呪法を行おうとするのは間違っている。』

樹里の凛とした声音に渚は明るく同意した。

『そうですね。』

楓も蛍も頷いた。


千樹はニコッと微笑む。

『では2週間後、我々は動こう。』


若者たちの強さを、大樹は眩しさを感じながら見守っていた。

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