第12話 過去からの旅立ち

樹里と千樹は分家の邸宅から、筧一族の本家へと走っていた。

はぁはぁと呼吸が乱れるが、気にしてる暇はなかった。

樹里は眉間に皺を寄せている。

(先程、大きな波動を2つ感じた。)

千樹が大きな波動の流れについて尋ねてきた。

「樹里、さっきのは」

「父上と亜樹が闘ってる。宝物殿で!」

お願いー...間に合って...


大樹は分家の身寄りのない子どもたちを、数名連れて一族を出る。

曇天の空を見上げてポツリと呟いた。

「嵐が来るな。」

雨がポツリ、ポツリと落ちてきた。


◇◇◇

父上と初めて顔を会わせたのは、まだ子どもの頃のことだった。

母上を訪ねて分家の邸宅へと足を運んでいた。

筧一族の当主は、男が継ぐと定められていた。

しかし、僕は分家の子で本家の子ではない。

その事実が僕と母上の分家での立ち位置を悪くしていった。

◇◇◇


「亜樹、大地剣は一族を守護する聖なる剣。

それを奪うということ、どういうことか分かっているのか?」

威圧感のある波動が全身から醸し出している。

ビリビリと肌が疼いた。

父上の言葉に僕は嘲笑を浮かべる。

「もちろん、分かってますよ。」

大地剣を引き抜けば、この土地を守護するエネルギーが逆流して暴発する、筧一族は本家と分家を丸ごと飲み込み消滅する。

「ならば、なぜ!」と雨樹は眉間に皺を寄せた。

「父上はもう視えているのではないですか?僕に倒される未来をー...」

亜樹はニヤリと笑った。

雨樹は目を閉じた。

「最早、説得は無意味か」

雨樹は再度、亜樹に向けて風の刃を放つ。

闘いの火蓋が下ろされた瞬間だった。

◇◇◇

ザァーと地面に大粒の雨音が響く。

千樹と樹里が本家に到着した頃、雨は本降りになってきた。

2人が着込む宮司と巫女装束は雨に濡れていたが、構わず宝物殿へと急いだ。

ドンッと大きな爆発音が聞こえてくる。

「!!」

(頼む、無事でいて)

千樹は前を走る樹里を切なそうに見守る。


2人が宝殿殿に到着した。見張りの侍従が気絶してる姿を確認した。

樹里と千樹が中に入って視界に映りこんだ光景はー...


〈亜樹の放つ金の鎖が筧雨樹を貫いた瞬間であった。〉


◇◇◇

「ガバッ」 

血を吐いてドサッと倒れこむ雨樹。

樹里と千樹は愕然とする。

「ち、父上ー!!」

「当主!!」

2人は雨樹のもとに急いでかけよった。


「千樹!早くヒーリングを!」

「ああ、」

手をかざしポワーと氣を送り込む。

だが、雨樹の血は止まらない。

もう手遅れだ。

樹里もそれが分かって唇を噛み締めた。

雨樹が手を伸ばし樹里の頬に触れた。

「も..う..良い、私はこうなる覚悟は..して..いた。樹里、どうか、亜樹を...」

スッと瞼が閉じられて、雨樹は息耐えた。

◇◇◇

巫女装束の白衣が雨樹の血で、赤に染まっていた。

カタカタと手が震えている。

「当主..樹里」

千樹は亜樹に厳しい視線を向けた。

亜樹を感情を感じさせない瞳をしている。

「っ、亜樹、何てことを!!」

千樹は怒気を含んだ声で投げ掛けた。

「これは君らの為にやったことだ。」

亜樹は無機質な声で冷淡に告げた。


「私たちがいつ、そんなことを頼んだ?!」

ポロポロと目に涙を浮かべる樹里。

その顔を見て、亜樹の心は動揺した。

頭を抑えて苦しむ。

樹里と千樹が必死に何かを訴えているが、聞こえない。

グッ「そんな顔をしないでくれ、僕は君の君らの為に」


亜樹は大地剣を抜こうと柄の部分に手を持つ。

そうだ、一族がなくなれば、本家と分家の柵がなくなれば、またあの桜の木の下で、笑いあえる日が来る。


「亜樹!駄目だ。それを抜いたら」

千樹止めようと亜樹のもとに走る。

「ダメ!!」

ズルズルと剣が引き抜かれる。

「千樹避けてー!」

間に合わない、そう瞬時に判断した私は父上の剣に霊力を込めて亜樹を狙った。


剣を抜かれたのと、ドスッと剣が亜樹の腹部を貫いたのはほぼ同時だった。


貫いた瞬間ー私は亜樹と目があった。

亜樹の身体は金の光に包まれ、その場から姿を消した。

ゴゴコッー地鳴りが響く。

「マズイっ、エネルギーが暴発する。」

千樹が愕然とする。

樹里は瞬時に強力な結界を張って、暴発から一族を守ろうとしたが。

あまりにも強すぎるエネルギーは、どうにもすることは出来ずに、千樹と数名を守って、一族は屋敷ごと塵と消えた。

◇◇◇

筧一族が消滅して1週間、樹里は脱け殻のように過ごしていた。

あの日以来、巫女装束に袖を通してない。

各地に所有する神社の一室に閉じこもったままだ。


そんなある日、神社の邸宅に10歳の少女が現れた。

額に菱形の印を持つ金髪の少女。

以前、樹里が救った少女であった。

「お前、あの時のー?」

樹里は目を丸くした。

「はい、時任渚です。」

元気いっぱいに答えた。

「あれから修行して、能力のコントロールが出来るようになったんです。」

ニコッと微笑む。

「そうか」

この子の笑顔は不思議と安らぐー...

「だから、お願いします。私を付き人にしてください。樹里様をひとりぼっちにしません。私が守りますから」


鼻の奥がツンとして、視界が涙で揺らいだ。

樹里は泣き顔を見せないように、背中を向けた。

「それじゃ、頼むとするか」

「喜んで」

声には嬉しさが滲んでいた。

◇◇◇

その後、渚は施設に帰らせた。

「樹里、これからどうするんだい?」

千樹は尋ねた。

「あの子と旅に出てみる。見聞を広める機会になるし、それに」

言いにくそうにしている樹里。

「そうか、私なりに亜樹の行方を探してみるよ。」

千樹の気遣いに樹里は微笑む。

「ありがとう」


「千樹...私が前を向こうと思えたのは、渚と私が闘いを教えた楓と蛍たちのおかげなんだ。」


〈だからー...何があっても生き抜くよ

子どもたちの未来を守る為にも.....〉


◇◇◇

そして時は現在に戻るー。

樹里は亜樹の住む水晶の城で、ゆっくりと目を覚ました。
















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