第10話 桜の追憶。秘められた過去。

「あなたはー?」

渚がこの場に現れた男性に声をかけた。


その人は、私の質問に優しく笑みを浮かべた。

「筧千樹と言います。

はじめまして、樹里がお世話になってますね。渚さん。」


「どうして、私の名前を?」

驚いている私をよそに、楓は何かに気がついたようだった。


「そうか!あんたが樹里と亜樹の...」

楓の質問に千樹は苦笑する。


「残念ながら、父親ではありません。

ですが、2人に闘いを教えた師匠のような存在です。」



ほたるは呟く。

「闘いの師匠?」


優しく微笑む千樹。


「ですが、これからどうしましょう。樹里様は囚われの身になってしまったようです。」

渚は焦る。


「落ち着いて。一度、大樹の街に戻りましょう。

来るべき日の為にー...

そして、あなたたちに話したい。

6年前に筧一族に何があったかをー。」


その頃、亜樹の城。

最上階の塔のベッドで寝かされる樹里。


亜樹は樹里の頬に触れて、過去を思い出していた。


渚たちは千樹と共に、大樹の街へと戻っていた。

大樹の住む住居で、話を聞くことになった。

渚は内心で思う。

(本当は今すぐにでも、樹里様を助けに行きたいー!

だけど、今、私がするべきことは楓とほたるちゃんを守ること。

そして、樹里様の過去に何があったのかを知ること。)

楓とほたるも、それぞれ想うことがある表情をしていた。


千樹と大樹は旧知の仲なのだろう。

「久しぶりじゃの。千樹。」

懐かしさに頬を綻ぶ。

「大樹殿もお元気で何より。」

千樹は穏やかな目をしていた。


千樹は一度、目を閉じた。


では、話しましょう。

6年前に筧一族に何があったのか。



樹里は幼い時から、霊力が高く巫女としての才能に恵まれていました。

筧一族を背負って立つ存在とまで言われていたんです。


筧一族の子は能力が秀でたものが多い、それゆえに15歳の時まで、樹里は隔離された生活を送っていました。


「本家を抜け出して桜の木の下で出逢ってしまった。

運命の悪戯というのでしょうね。

千樹は悲しげな瞳をしていた。」



本家の門が絞まる刻限。

数珠を出して、霊力で門を開ける。

そっと屋敷に戻ろうとした瞬間。



「樹里!また本家を抜け出して。」

「うわぁ!!」


千樹が声をだした。

当時は樹里の指導役をしていました。

紫の髪を三つ編み。宮司の姿。


驚いた樹里は紫の長髪を後ろで結んでいる。

振り替えったまま告げる。

「千樹。別にいいでしょう。

本家に閉じ込められたままだと、見識が広がらない。」


「だけど...こんなこと御前にバレたらー...」


御前。《筧樹...》筧一族の長となる者は、その名を受け継ぐ。

当時の御前は樹里と亜樹の父親でした。


樹里は眉間に皺を寄せる。

「バレなければいいだけよ。」


「樹里...」

心配する僕に樹里は微笑む。


「それに、今日は本家の桜の下で、面白い人物に会ったんだ。」


「面白い人物?」


桜の木の下にいる宮司に声をかける。


「ここは私の特等席なんだけど、今日は来客がいるのね。」

諦めて戻ろうとした瞬間ー..


「...僕の特等席でもある。一緒に見ないか?」


いつも、ひとりぼっちで見ていた桜を、ふたりで見たことで、暖かいぬくもりが宿った瞬間だった。


《あなた名前は?》

《僕は亜樹...》

《君は?》

《私は樹里...》



亜樹は筧一族分家の子。

当主の側室の子。


僕と樹里は年齢は近かったけど、周囲の大人は接触させないようにしていた。

大樹の巫女と金の属性の宮司は、交わると破滅をもたらす。

そんなことを言われていたから。


母上が病に倒れたあと、僕はよく1人で桜を眺めていた。


そんな時、同じ瞳をした君に出逢ったんだ。

樹里ー...




















































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