第8話 闘いのはじまり

白いワイシャツにブルーのジーンズ。

ショールを柔らかに羽織って、亜樹は再び樹理の前に姿を表した。



目を閉じれば、遠い過去が昨日のことのように思い浮かんでくる樹理。


一族の使命。巫女の使命。

それらに縛られて本家では自由がない生活であった。

周囲の目を盗んでは本家の外へ出て、外の景色を見に行っていた。


裏山に咲いている桜の木。

私はその木が大好きだった。


いつものように到着すると、桜が吹雪のように舞っていた。


桜の木の下には、宮司の装束を着込んだ亜樹がいた。


この時はまだ、お互いが自分が異母兄妹だとは知らないで出逢った。

運命のいたずらは残酷だ。


目の前にいる亜樹と対面する。

「きっと、樹理ならあの残留思念を見たら僕の存在に気がつくと思っていたよ。」

優しく微笑む。


私は視線を鋭くして問う。

「亜樹....五芒星の呪法をやろうとしてるのは本当か。」


樹理の一言に亜樹は薄く口角をあげる。

「本当だよ。」

「!!」

私はあっさりと肯定されて、着ているカーディガンの裾をギュッと握る。

「...不老不死を望むのは、私への復讐のつもりか?」

頭の片隅にあった考えを言葉にする。


私の言葉に一瞬目を丸くするも、亜樹はクスリと笑う。

「樹理、それは違うよ。

これは異能の者たちを救うことにも繋がるんだ。力を貸してくれるね。」

真摯な瞳で協力を打診する亜樹。

私はそんな亜樹と真正面から向き合った。

「嫌だと言ったら...?」


亜樹は溜め息を洩らして答える。

「力づくでお願いするしかないね。」


亜樹は霊力を解放させると結んでいる髪がゆらめく。

周囲はゴゴゴッと地響き。

亜樹の周囲には金色の鎖が表れる。


(結局、これが私たちの運命なのかもな。)

着こんでいたカーディガンを脱ぎ捨て、樹理も腰に巻いていた数珠に霊力を込める。


一方、渚と楓とほたるは、亜樹の強大な波動を感じてゾクッと震える。

風が吹き荒れていて髪を抑えてる渚。

「何?この波動は。」

「始まったか。亜樹と樹理の闘いが。」

楓は冷や汗をたらす。

「とにかく、ここから避難して結界のあった場所まで逃げましょう。」

ほたるは先を急いだ。


すると前方から水の衝撃波が襲ってくる。

渚は楓とほたるを後ろに庇って、両手を前に出して結界を張った。

「お前けっこうやるんだな。ただのボケっとしてる奴かと思ってたぜ。」

渚は楓の頭をグリグリとした。

「イテテ、何しやがる。」と抗議の声をあげた。

「楓は年上に対しての敬い方を知るべき!」

頬を膨らませて怒っている渚。


そんな二人を見て昔の光景を思い出して、少し切なくなっているほたる。


「ありがとうございます。渚さん。」

ペコリと頭をさげる。

「ほたるちゃんは本当に素直でいい子♡」

ぎゅっと抱き締める。


そんな3人の前に姿を表した男がいた。

「申し訳ありませんが、あなた方の相手は私がします。」

丁寧な口調で話す青年。

サクッ。草を踏む音。

渚と同じ、菱形の印を額に持つ。

水の宮司のひしぎである。



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