第2話 過去との対面

森の奥に奉る神社。

区長に案内されて、樹里は渚とともにその場所へと到着する。


「こちらでございます。巫女様。」

白髪頭の高齢の区長が弱々しく案内する。


樹里と渚は神社に立ち込める禍々しい波動に気がついていた。

「樹里様!これは」

「あぁ、この土地の怨念の全てが神社に封じ込められている。」

だが、これには人為的なものを感じる。


「とりあえず、怨念を浄化する。」

樹里は自分の腕にまいている数珠をほどき。印を結び呪文を唱える。


数珠の球が無数に飛び散り神社一体を囲む。

「解!!」

その言葉を合図に怨念の立ち込める神社が瞬く間に浄化されていく。


「やった!流石ですね。樹里様~」

抱きつこうとした所を、ガシッと頭を掴まれた。

「まだ終わっていない。」

溜め息をつき渚を叱責した。

「えっ?」キョトンとしている。

「私は神社周辺の怨念を浄化しただけだ。

中に入って残留思念の元を調べなければ、元の木阿弥だ。」

「つまり、これから中へ入るんですね。

すぐに行きましょう。」

渚は私の意図を察して先に答えた。

 私の考えがよめるようになってきたことに若干の喜びが芽生える。

子どもの頃から知ってるし、妹を持つ姉とはこのような心境なのだろう。


「だが、中に入るのは私だけだ。」

「でも、」反論しようとする渚。

樹里は二人のやり取りを見ている高齢の区長に視線を向けた。

「お前はこの者の護衛だ。」


 渚は中に入る樹里を見守る。

「お嬢さんは、巫女様に信頼されているな。

それに、あの巫女様は、無愛想に見えるがとても優しい方じゃ。」

呟かれた言葉に渚は疑問をぶつける。

「そ、そうでしょうか?

無愛想に見えて優しいのは昔からです。

ただ、樹里様は1人で何でもこなせてしまいます。」

疑問の言葉に薄く笑みを浮かべる。

「信頼してるからこそ、後ろを任せているんじゃ。

それに、あの巫女様は信頼してない者を傍に置く質じゃなかろう?」


 区長の言葉に渚は大切なことに気がついたような微笑みをむける。

 「はい。」


 樹里は社に入っていく。この土地で非業の死を遂げたものたちの残留思念があちらこちらに渦巻いている。


 《助けてくれ》《死なせてくれ》

 

樹里は再び持っている数珠に霊力を込めて浄化させていく。


 (あらかた片付けたかー....)


樹里は隅の方に蹲る子どもを見つける。

黒い長髪を後ろに結んだ少年をー...


樹里は過去を思い出しながらその少年に歩みよる。


《樹里は巫女の装束似合うと思うけどなー》

笑顔で彼は言った。

 

 振り向いた少年の顔に樹里は愕然とした。

 

 「バカなっ?!

な、なぜ、お前がここにいるんだ!!」


自分と同じ緑の瞳ー...

口角をあげた少年に向かって叫ぶ。


「「亜樹!!」」


私が名を呼ぶと少年の亜樹が薄く微笑む。


《樹里もうすぐ迎えに行くよー...》


「ま、待て!」

霊力の籠った数珠を亜樹に投げるが、亜樹の姿はサァァァと消えていった。


渚と区長は外で樹里の帰りを待っていた。

 渚は社から出てきた樹里の姿を見つけて手を振る。

 

 「樹里様ー!おかえりなさい。」

笑顔で抱きつく。

 (え?ーいつもなら回避されるのに。)

 「樹里様....?」

「ただいま。渚。」


 区長は二人のやり取りを見つめた後、口を開く。

 「巫女様。お疲れ様でございました。報酬は後程。お支払いいたします。

今夜はこちらで泊まることをご用意いたしましょう。」

私は区長を睨みながら答える。


「そうだな。お前には聞かなければならないことがある。」


区長の案内するホテルに通される。

樹理と渚。

「すごーい。豪華なホテルですね。樹里様♪」

「.....」

「樹里様?」

無言の樹里を心配して渚は尋ねる。


「あぁ、そうだな。」

「何かあったんですか?

樹里様....神社から出たあたりから辛そうですよ。」


「辛そう?私がか。」

驚いた表情をしている樹里。


そんな時、部屋にコンコンとノックの音。

若い男性が二人を呼びにくる。

「お二方、区長様が及びです。」


「行くぞ。渚。」樹里は席を立ち部屋を出ていく。

「はい!」渚も樹里の後を慌ててついて行った。



 区長の待つ会議室に通されて席につく。

「改めてご挨拶をさせて頂きます。私の名前は筧大樹(かけいたいじゅ)。」

名前を名乗ると彼の瞳は緑になるも、すぐに黒に戻る。

「筧って樹里様と同じ一族の出身の?」

渚は尋ねる。

「分家の者出身じゃからな..本家の方々ほど力はない。」


 樹里は瞼を閉じて思考しているー..

「それで大樹。私をこの街に呼んだのは誰に頼まれたのだ。」

厳しい視線を投げつける。

「もう、察しはついているのでは?

一族の中でも特に強い力を持って生まれた。

宮司.筧亜樹殿。」

「!」

私は亜樹の柔らかい表情が浮かび胸が苦しくなる。心臓のあたりを抑える。


 渚は二人の様子を不安気な表情で見つめていた。

 「それだけ聞ければ充分だ。渚、しばらく、この街に滞在する。」

「はい。」


「報酬は如何様になされる?」

「100万だな。」区長の言葉に樹里様は間髪を入れずに答えた。

私は慌てて反論する。

「樹里様💦ぼったくりすぎ。」 


「この街は亜樹に狙われている。

それを阻止をしてやるというんだ。100万もらってもバチはあたらん。」

当然の顔をしている。

区長はクックと皺だらけの顔で笑っている。

「噂に違わぬ巫女さまじゃ。気に入った。報酬を支払おう。

この街を脅威から救ってくれ。」


 渚は当然の疑問を口にする。


 「あの、樹里様。亜樹様との関係はなんなんですか?同じ一族出身だけじゃないですよね。」


 「!」動きを止める樹里。

そんな樹里に区長が諭す。

「話してあげてもよいと思うがな。

このお嬢さんは、そなたをとても信頼しておる。」



 「そうだな。お前も無関係ではいられないか。」渚を見つめて答える。


〈私と亜樹は異母兄妹だ。

そして、6年前に亜樹は本家を滅ぼした。

その時に亜樹に深手を負わせたのも私だー...〉 



告げられた真実に渚は、運命の時計が再び動き出す音を感じていた。



 








 











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