第9話 僕の居場所

中学二年生の秋頃だ。

父が珍しく僕を呼び出した。

目の前に座るように言うと、父はA4サイズの紙に五つの線を書いた。

線の横にはそれぞれ単語が並んでいた。

医者、弁護士、商社マン、教師、工事現場の作業員。

それぞれ横に数字が並んでいる。


「これが年収だ。お前の成績だと上の方には行けない。もっと勉強しろ」

特に言い返す言葉はなかった。

当時月の小遣い1,000円の僕に金の価値はピンとこなかったし、どの仕事もやりたいとは思わなかった。よくわからない現実を突きつけられた感じがした。

僕に刺さったのはつぎの言葉の方だった。

「お前の今の友達は高卒止まりだ。付き合うのはやめろ」


その瞬間、僕はA4サイズの紙を引きちぎった。

笑顔の仲間たちの顔が浮かんだ。

僕の日常の全てだ。

その日から僕は2年間父と断絶することになる。

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