第7話 恩師の言葉

誰もいない放課後の教室で、母と私は担任な呼ばれた。

言い訳のしようもない成績表を前に担任は、穏やかに、そしてやや気の毒そうな顔つきで言った。

「まあ、何と言いますか、息子さんに悪気は無かったと思います。それより、何というか、もう少し息子さんがゆったりできるように接してあげた方がよろしいんじゃないですかね?」

令和の時代にはない穏やかな、しかし確かに踏み込んだ姿勢の担任は言った。退職も近いいい歳で、生徒からはゴリラに似てるなどど散々言われたい放題だったが、私は救われるような思いで担任の顔を見たのを覚えている。その表情は穏やかだった。

だが同行した母は憮然として返事をしなかった。

母は父の傀儡だった。

一瞬開かれた門が固く閉ざされたのを私は感じた。

学校は一時だ。

だが家はずっと帰り続けなければならない場所だ。中学生の私にとってそれは永遠に近い時間だった。

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