プロメテウスの騎士 ~ Sランクなのに落ちこぼれの僕はエリートパーティを追放され、騎士団を追放されたもう一人の落ちこぼれと旅をするうちに、いつの間にか世界の命運を託される ~
プロローグ 追放の落ちこぼれ ~騎士の場合~
プロローグ 追放の落ちこぼれ ~騎士の場合~
「ガット、私に逆らう貴様には、ここで隊を抜けてもらう!」
王国騎士団、小隊長の一人であるアレクサンダー・ルル・フォルスターは、自らが率いる隊員に対して叫んだ。彼らは今、国王の勅命を受け、王都の北東に位置する遺跡の調査任務中であった。
ガット――本名をシーガット・ブルームという青年騎士は、アレクサンダーの言葉に心底呆れたようなため息をついた。
五人で編成される騎士団の小隊、それが五部隊ほど今回の調査任務に参加しているようで、遺跡前で各隊が集合したところまでは良かった。
しかし、各隊別行動で遺跡調査を始めた途端、アレクサンダーの態度はいつも通りの横暴なものに一変する。
「おいお前、この荷物を持て」
「魔物だ! 貴様ら、私の前に立ち盾となれ!」
「もう疲れた……。 お前、休憩するから水をよこせ」
隊員たちにとっては、もはやこれが日常となっているので、彼らもいつもの通り、我儘な王族の荷物を持ち、魔物から守る盾となり、残りわずかな水分を恵んでやるのだ。
そして、やっとの思いで“目的のもの”を見つけると、隊員たちの助けでここまで来られたという意識など欠片も持ち合わせていない隊長は、その手柄をまた自分のものにしようとしたのだった。
「やったぞ! これでまた一つ功績が増えてしまうなぁ。 お前たち、私の部隊に所属できていることを誇りに思えよ?」
「……いい加減にしろよ、くそ野郎……!」
ガットはついに、遺跡の最奥の部屋で我慢の限界に到達してしまったのだった。小隊の全員が、一瞬何が起こったのか分からない様子だった。王族である隊長に『くそ野郎』などと暴言を吐けば、その後の展開など目に見えている。
「なんだガット、何か言ったか?」
「……これ以上、てめぇの我儘には付き合いきれねぇって言ったんだよ!」
一瞬、静寂が遺跡全体を支配したような錯覚に陥り、直後、隊員たちは目の前で起きている事態に寒気を覚える。
「へぇ……お前らも、俺の我儘に付き合っていられないのか?」
アレクサンダーが他の隊員たちに冷ややかな目を向けながら問いかける。当然、彼は隊員が自分に逆らわないことなど分かっている。隊員たちも、彼がそう思っているのを分かっている。
「……いえ、滅相もございません。 ガット、お前、疲れているんじゃないのか?」
「そ、そうだ! 貴様、アレクサンダー様に逆らうとは、正気の沙汰じゃないぞ!」
従順な隊員たちは、我儘な王族の顔色を伺いながら怒鳴りつける。他の隊員も、ガットの行いによってストレスを溜めた隊長の矛先が、自分に向くのではないかと怯えているようだ。
「と、とにかく、“目的のもの”も見つかったわけですし、一旦外に出ませんか……?」
隊員の一人が提案すると、少し不機嫌そうになっていたアレクサンダーは、何を思ったか実に意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「あぁ、そうしよう。 ただし……」
アレクサンダーはガットを指さして告げた。
「ガット、私に逆らう貴様には、ここで隊を抜けてもらう!」
隊員たちは一瞬、顔を見合わせた。ここで部隊を追放されるということは、この遺跡を一人で脱出しなければいけないということになる。一般的な種に比べ狂暴で大型の魔物が巣食う遺跡においてそれは困難であり、事実上、アレクサンダーの命令はガットへの死を告げているのだ。
ガットがここで生き残るには、アレクサンダーに除名を撤回するよう懇願するしかない。
そう考え、勝ち誇ったような顔を浮かべるアレクサンダーに対して、ガットは何も言わなかった。ただ、怒りと憎しみのこもった眼差しを向け、この王族をどう痛めつけてやろうかと考えていた。
しかし次の瞬間、小隊に向かって遺跡の魔物が突然襲い掛かる。
「うわああああぁ!」
突然の出来事に、小隊は一気に戦闘態勢になる。その際、隊員の一人は抱えていた“目的のもの”を、咄嗟に手放してしまった。それを目撃したガットは、魔物と戦闘する隊員たちの間を潜り抜け、“それ”を持って遺跡の通路へ駆け出したのだった。
「きさまぁ! 私の手柄を――!」
またも隊員たちを盾にしているアクレサンダーの声が背後で聞こえたが関係ない。このまま遺跡の外まで駆け抜けてやる――と、ガットは手に入れた戦利品を背負い、遺跡内を疾走するのだった。
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