第6話 あざとく可愛く!
「まずは冒険者ギルドで出ている注意情報について入れようよ」
「でも注意情報って、日が経つと更新されない?」
「その辺は何日付の情報と説明しておけばいいよ。最新の情報を確認したい場合は冒険者ギルドで直接聞いてくれ、って付け加えれば」
「最新情報を確認する為に毎回買ってくれる人もいるかもしれない」
「確かにそうだね」
そんな感じで入れるべき内容を話し合って考える。
「何なら冒険者ギルドで売っている各階層の攻略情報を全て音声化してもいいよね。でも長くなるかなあ」
「階層別に分ければ問題無い。でも著作権、大丈夫?」
「著作権って何?」
「……ごめん、何でも無い」
レナードからは時々私達の知らない不思議な言葉が出る。
よくわからないけれど、きっとレナードが昔いた外国の言葉だろう。
だから私とアリアはこういう言葉をレナード語と呼んで、気にしない事にしている。
そして翌日からは、
これは勿論録音用の魔石を取る為だ。
ベーススライムは第4階層の湿気た辺りに多い。
この辺りをぐるっと回れば1時間で20匹程度は倒す事が可能だ。
それ以上は1日経って復活してからでないと無理だけれど。
ベーススライム、討伐しても
でも冒険者ギルドから仕入れると手数料が乗る分高くなる。
だから当初は自分達で入手する方針。
更に冒険者ギルドでの最新情報も忘れない。
緊急魔物出現情報から階層ごとに出現する魔物の更新情報、更には講習会の情報までメモしておく。
最初の録音に使う台本はレナードが書く事になった。
私もアリアもそういった物を書いたことがなかったし、書ける自信が無い。
だからレナードがやると言ったのに任せた形だ。
話すのは私とアリア、両方だ。
レナードによれば2人の掛け合い形式にするとの事。
「2人とも聞き取り易いし好かれそうな声。それに交互に話した方が飽きずに最後まで聞ける」
「ならレナードも参加しない?」
「……私は録音魔法を使う必要がある」
本当は魔法を使いながらでも話す事が出来るのではないだろうか。
そうは思うけれど確かめる術はない。
私達の中ではレナードしか使えない魔法だから。
◇◇◇
台本を読んだ時点でこれはと思った。
まず台本に書かれている口調がいつもの私達と違う。
妙に女の子女の子しているというか、あざといというか……
「これ、いつもの私達と雰囲気が違うんじゃない?」
レナードはいつもの口調で返答する。
「わかりやすさを重視した。そういう役だと思って演じて欲しい」
確かにいつもの口調より簡潔でわかりやすいかなとは思う。
文字数的にも少なめだし、短い時間に話す為には正しいのかもしれない。
理解は出来るし、理解出来れば納得も出来る。
しかし本番前の練習で違和感はさらに高まった。
どうやら私だけで無くアリアも同様に感じたらしい。
「何かあざとさを感じる気がするの、気のせいかなあ?」
やっぱりレナードはいつもの口調で返答する。
「あざとくても売れればいい。売れなければ意味が無い」
確かに売れる事が第一だ。
だからそう言われたら言い返せない。
だいたい私やアリアがレナードが決めた事に口で勝てる訳はないのだ。
何と言うか、この情報販売作戦をやってその事がよくわかった。
それにレナードが無口なのは意見が無いからではない。
その分色々考えまくっているからだ。
私達より数段出来がいい頭で。
少なくとも私達の前にいる時は。
故に何か口にした時にはその裏付けは既に幾つも揃っている。
そういう奴なのだ。
ただレナード、時々レナード語というかわからない事を言う。
台本にもレナード語の台詞がいくつかあった。
意味がわからないので聞いてみる。
「この『萌え萌えキュン!』ってどういう意味?」
「意味はない、感じろ。出来るだけあざと可愛く言うのがポイント」
うーん、レナード語、やっぱりわからない。
あとこの台本、やっぱり恥ずかしいと思う。
◇◇◇
それでも録音の本番はやってくる。
本番と言っても、
部分部分を録音していって、最後に繋げるそうだ。
こうする事により聞きたい部分に先送りしたり、繰り返して聞いたりが出来るらしい。
レナードがチャプター編集と言っていた。
いつものレナード語だなと思って無視したけれど。
「秘話魔法を展開した。この部屋の外には声は漏れない。だから思い切りよくやってほしい。
それでは最初の挨拶。私が手をあげたら台本の第1部分を最後まで」
「わかった」
レナードは頷いて魔石を2個左手に握り、右手を上げる。
録音開始だ。
「みなさんはじめまして! アドストリジェン
お伝えするのは私、アリアと」
「エリナだよっ! それじゃ今回の内容紹介から。先に聞きたい部分があったら聞きたい部分の番号を強く思い浮かべながら魔石を意識してね! その内容に飛ぶよ!」
「内容紹介に戻る時は、『戻る!』と思いながら魔石を意識すれば内容紹介に戻れるよ。
それじゃ内容紹介、はっじめるよ~!」
うう、私もアリアも何と言うか、違和感たっぷり。
正気の台詞とは思えない。
でも笑っては駄目、しらけても駄目。
ここは役に徹して乗り切らないと!
この調子で本なら目次部分にあたる内容紹介を2人で読み上げる。
何と言うか、気を抜いたら笑ってしまいそうだ。
アリアにいたっては涙目になっている。
それでも口調が崩れないところはいっそ大したもの。
「……以上だよ。それじゃ次、冒険者ギルドからの最新注意情報!」
レナードの右手が上がった。
録音終了だ。
何か、ものすごく疲れた。
これがあと10部分あるのか。
私、大丈夫だろうか。
アリアが机に突っ伏している。
どうやら精神的ダメージが大きい模様。
しかしここでレナードの言葉が響く。
「いい出来。この調子で次、第2部分を録りたい。準備が出来たら教えて」
ああ、またやるのか……
でもお金の為だ、やらないと……
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