第4話 少しだけ稼げるようになったパーティ

 5月になった。

 私達がパーティを組んだのは卒業式間近の3月半ば。

 それから1ヶ月半が過ぎた訳だ。


 この間、毎日迷宮ダンジョンに入って討伐しまくった。

 勿論そうしないと生活出来ないからだけれども。


 でもそのおかげでそれなりに鍛えられたようだ。

 主に活動していたのが迷宮ダンジョン5~10層という比較的浅い場所であっても。


 まず最初に変化があったのはアリアだ。


『今朝から加速アクセラ加重ポンデラが使えるようになったの。

 戦闘中に一瞬だけ加速したり打撃力を増やしたりが出来るんだよ。これで素早かったり強靱だったりする敵も大丈夫かなあ。

 あと探知出来る距離も大分伸びた気がする』


 次に変化があったのは私。

 迷宮ダンジョンからの帰り、何となくやってみたところ、防護魔法が使えたのだ。


 防御魔法と防護魔法はどちらも敵の攻撃を防ぐ魔法。

 名前もそっくりだけれど効果は少し違う。

  ○ 防御魔法は動くと効果が切れる代わり、敵の攻撃をほぼ完全に防いでくれる

  ○ 防護魔法は動いても効果は切れないけれど、防御魔法ほど完全に敵の攻撃を防げない

 こんな感じ。


「何か防護魔法が起動出来た気がする」


「どれどれ」


 アリアが軽くチョップをしてきた。

 当たったのはわかるけれど衝撃を感じない。

 仕掛けたアリアが顔をしかめただけだ。


「固い! 確かに防護魔法、効いている感じだね。何か特別な練習でもしたの?」


 思い当たる事はない。


「特に何も。突然使えるような気がして、試してみたら使えた。学校時代から何度も練習して使えなかったのに」


「冒険者として毎日討伐しているからかなあ。学校の時よりずっと戦っている時間が長いね。

 私がこの前加速アクセラ加重ポンデラが使えるようになったのも同じだよね、きっと」


 アリアの言う通りだろう。

 学校時代は訓練と言っても午後4スルザン2時間と自主訓練2スルザン1時間だけ。

 今は朝8の鐘8時から夕5の鐘17時まで、ずっと迷宮ダンジョン内にいるのだ。


 ただ迷宮ダンジョン内にいるだけでない。

 走り回ったり、敵と戦ったり。

 これを毎日18スルザン9時間近くやっているのだ。

 鍛えられない訳がない。


「確かに」


 レナードも同意しているし、きっとそうなのだろう。

 そしてアリアがこんな提案をしてきた。


「エリナが防護魔法を使えるなら、第11層洞窟コウモリケイブバットに再挑戦してみたいなあ。


 洞窟コウモリケイブバットをある程度残しながら槍や杖で攻撃し続けるの。防護魔法がかかっていれば洞窟コウモリケイブバットの攻撃程度は何とかなるよね。


 それなら前考えた、一気に34匹以上倒す作戦が出来るんじゃないかな」


 洞窟コウモリケイブバットを集めまくって、最後にレナードの範囲攻撃魔法で倒す作戦か。

 確かに出来るかもしれない。


「試す価値ある」


 レナードも乗り気の模様。

 

「なら明日第11階層で試してみよう。駄目でも防護魔法が使えれば、被害なく逃げる事が可能だし」


 私の言葉に2人とも頷いた。


 ◇◇◇


 そんな訳で私が防護魔法を覚えた翌日、第11階層の転送ポイントから入ってすぐの場所。


「一番近い洞窟コウモリケイブバットはここから30腕60m位だよ。部屋を出て右、次の次の角を左、その先2腕4m先に5~6匹」


 アリアは近距離なら見えない場所でも魔物や魔物の存在を探知出来る。

 3月、パーティを組んだ時はせいぜい10腕20m位先までだと言っていた。

 本人が言った通り、探知出来る距離が大幅に増えた模様。


「わかった。曲がると同時に防護魔法をかける」


「御願い」


 曲がると同時に私は全員に防護魔法をかける。

 前方にはアリアが言う通り洞窟コウモリケイブバット

 天井にぶら下がる形で留まっていたのだが、こっちに気付いて飛行してきた。

 戦闘開始だ。


 まずは先頭の1匹を狙おう。

 防護魔法があるから出来る限り引きつけて、短く持った槍を小さく素早く動かす。


 バサッ!

 広げた羽に命中、下へと落ちた。

 致命傷ではないけれどもう飛べない模様。


 ボコッ!

 これはアリアが魔法杖で洞窟コウモリケイブバットを殴りつけた音だろう。

 

 キィィィィィィィー  キィィィィィィィー


 洞窟コウモリケイブバットが仲間を呼び始めた。

 よしよし、もっと来い……


 ◇◇◇


 セーフティポイントで洞窟コウモリケイブバットの死骸を燃やした後、魔石を数える。

 思った以上に魔石の数があった。


「41個。今日のノルマをクリア!」


「おーっ!」


 アリアが、そして続いてレナードが小さく拍手。


「まだ入って2スルザン1時間も経っていないよね。それでもう今までの1日分以上稼げたなんて、凄くないかなあ」


「同意」


 5の鐘17時近くまでデミゴブリンを探し回っていたのが嘘のようだ。


 しかもレナードの言葉には続きがあった。


狂風インサニベンツ、あと2回、大丈夫。だからもう1回使える」


 どうやらレナードの魔力も増えていたようだ。

 なら当然こう提案するべきだろう。


「ここで休憩した後、もし良ければだけれど今の作戦をもう一度やろうか」


「だよね。防護魔法があったし、それほど疲れていないから大丈夫だよ」


「同意」


 1スルザン30分くらい休んだ後。

 ちょうど近くに洞窟コウモリケイブバットがやってきたのをアリアが探知。

 いい機会なので2回目の洞窟コウモリケイブバット集めに挑戦。


 結果、まだお昼前なのに褒賞金小銀貨24枚24,000円ちょいを稼げてしまった。


 勿論この作戦、2回もやると相当に疲れる。

 魔力も残りが半分以下。

 だからここで今日は迷宮ダンジョン撤退。


 それでも今までの倍以上をお昼までの間に稼げてしまったのは大きい。


「これなら時間に余裕が出来るから、洗濯も明るいうちに出来る」


 勿論暗くなっても洗濯は出来るし魔法を使って乾かす事だって出来る。

 でもお日様に当てて干すことが出来るのは嬉しい。


「あと休日も取れるよね。ゆっくり昼寝が出来そう」


「確かにそんな余裕なかったしね」


「休み、大事」


 うんうん、その通り。

 3人で頷きあう。


 勿論冒険者としてはまだまだ稼げない方。

 まだ1人あたりの稼ぎが1日正銀貨1枚1万円に達しないから。

 3人だから何とかなっているだけ。

 それでもこれなら底辺から下流にはなれたかなと思う。


「週に1日は休むことにして、毎日の食費宿代とあわせて小銀貨12枚12,000円あれば足りるよね。

 なら残りは3人で割ってそれぞれの収入にすればどうかな? そうすれば自分でお金を貯めて服を買ったり装備を更新したり出来るしね。何ならちょっとだけ贅沢、なんてのも出来るよ」


 アリア、ナイスアイディアだ。

 

「いいかも。それならお金を貯めて新しい武器なんてのも買えるし」


「同意」


 全員賛成という事で決定だ。


 ◇◇◇


 それからは毎日、第11層で洞窟コウモリケイブバットを狩りまくった。

 毎日80匹以上なんて狩りまくっても大丈夫。

 迷宮ダンジョン内は1日経てば同じくらい魔物が湧いてくるから。


 小遣い制度のおかげでくたびれかけていた冒険服も新調出来たし、槍も武器屋で手入れして貰う事が出来た。

 貯金は出来なかったけれど仕方ない。


 アリアの場合、小遣いは私と同様に冒険服の新調に使った他、おやつや副食に使っている模様。


 そしてレナードの場合、小遣いを魔道具や図書館通いに使っているようだ。

 此処の図書館は入場料が正銅貨5枚500円かかるのだけれど、毎日討伐が終わった後、通っているらしい。


「覚えたい魔法がある。此処の図書館は魔術書の在庫もそこそこ豊富。だから勉強も捗る」


 なるほど。

 でもレナードの覚えたい魔法って何だろう。

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