第1部 奮闘! 底辺冒険者!

第3話 稼げないパーティ

 そうして結成した私達青い薔薇ブルーローズ

 しかし最初は残念ながら順調では無かった。

 何せ新人女子3人の寄せ集め。

 他の冒険者パーティと比べると魔法以外の戦力と経験が圧倒的に不足している。


「当分は迷宮ダンジョン専門で、しかも第10階層までかなあ。あまりお金は稼げないかもしれないけれど」


 アリアの言う通りだろう。


「そうだね。命あっての物種だしさ。一般依頼を受けられる程の業績も無いし」


「妥当」


 そんな感じでアドストリジェン迷宮ダンジョンで活動を開始したのだけれど、とにかく儲からない。


 アドストリジェン迷宮ダンジョンの第10階層までの場合、出てくる魔物は、

  ○ ベーススライム(正銅貨1枚100円

  ○ ノルマルトード(正銅貨2枚200円

  ○ デミゴブリン(正銅貨5枚500円

といったところだ。

 なお括弧内は倒して魔石を持ち帰った際の褒賞金の額。


 つまり正銀貨1枚1万円稼ぐには、デミゴブリンを20匹は討伐しなければならない。

 20匹討伐するというのは大変だ。

 朝8の鐘8時から迷宮ダンジョンに入って、夕5の鐘17時まで休み無く魔物を探して狩っても、20匹いかない日の方が多い。


 現在の宿はアルスラ亭で1泊1部屋小銀貨6枚6千円

 迷宮ダンジョンまで歩いて1スルザン30分ちょっとかかるけれど、治安が悪くない地区で3人部屋があって部屋の内鍵がしっかりかかる。

 女子としての安全を確保するにはこれ以下の宿には泊まれない。


 家を借りられれば毎月の出費は少なくて済むのだろう。

 しかしそれには保証金が最低小金貨8枚80万円は必要。

 私達には到底無理。


 つまり3人部屋で我慢しても収入と支出がほぼ同じくらい。

 休みなんてとても取れない状態だ。


 アリアがいるから身体的な疲労は回復できるし、軽い風邪くらいなら即日治療が可能。

 それでも休み無し毎日討伐は厳しすぎる。


「やっぱり第11階層から第15階層も攻めようか」


「だよね。これじゃ何かあったら即廃業になっちゃう」


「同意」


 そんな感じで翌日、第11階層に突入したところ……


「何この洞窟コウモリケイブバット、やたら数出てくるし、仲間を呼ぶし」


 洞窟コウモリケイブバットは褒賞金正銅貨3枚300円の雑魚魔獣。

 私の剣か槍、アリアの杖の一撃が胴体に入れば一発で倒せる。


 しかし飛ぶし動きがそこそこ速いしで討伐するのが面倒。

 おまけに牙に毒がある。

 だから戦闘中は気を抜けない。


 しかも戦闘中に仲間を呼ぶという嫌な性質まである。

 私とアリアで攻撃しまくるけれど、倒しても倒しても仲間を呼ぶので戦闘が終わらない。


「もう嫌! 何とかして!」


 アリアの悲鳴にもにた声。

 私もまったく同意見だ。


「レナード、お願い!」


「わかった。伏せて防御魔法」


「了解!」


 私とアリアは下に伏せ、防御魔法を起動する。

 これで洞窟コウモリケイブバットに襲われる事はない。

 防御魔法はあまり動くと解除されてしまうから、伏せたまま逃げられないけれど。


狂風インサニベンツ!」


 レナードが短縮呪文を唱える。

 風属性の全体攻撃魔法だ。


 ボトボトボト、周囲に何かが落ちてきている音がした。

 伏せているので見えないけれど、きっと洞窟コウモリケイブバットの死骸だろう。


 静かになった後、レナードの声。


「倒した。死骸回収急いで。この魔法、あと1回しか使えない」


「わかった」


 次の洞窟コウモリケイブバットが出てくる前に此処から逃げなければならない。

 私達3人は回収袋に死骸を拾って、ダッシュで現場を後にする。


「こっちです」


 地図・探査担当のアリアの案内で、一番近いセーフティポイントへ無事到着。

 ほっと一息ついた後、魔石を取る為に回収袋から洞窟コウモリケイブバットの死骸を引っ張り出す。


洞窟コウモリケイブバットって素材にはならないよね」


 それは魔物判別担当として勉強したから覚えている。


「残念だけれどならない。魔石1個で褒賞金が正銅貨3枚300円だけ」


「まとめて燃やして魔石だけ取るしかないね」


「そう」


 死骸を集めて、私の火炎魔法で燃やす。

 こうすると魔石と灰だけが残る訳だ。

 嫌な臭いは風魔法で排気すればいい。


 私の魔法で処理するのはレナードの魔力を温存するため。

 レナードは範囲攻撃魔法や強威力の攻撃魔法を使えるから。


 第11階層から先は、デミではないゴブリン(小銀貨2枚2,000円)やコボルト(小銀貨3枚3,000円)が出る事がある。

 どちらも武器を持っていて、デミゴブリンや洞窟コウモリケイブバットよりずっと頑丈。

 しかも仲間を呼ぶ性質まである。


 万が一これらの魔物が出た場合、私やアリアの攻撃では倒しきれない。

 ぐずぐすしていると仲間を呼ばれて逃げられなくなる。

 つまり出たらさっさとレナードの魔法で片付ける必要があるわけだ。

 そのためにもレナードの魔力は出来る限り温存する方針という訳。


 そこそこいっぱいあった洞窟コウモリケイブバットが完全に灰になった。

 魔法で温度を下げて、残った魔石を拾いながら数えつつポーチに仕舞う。

 思ったより少ない。


「18個、正銅貨54枚分5,400円にしかならない」 


 正直がっかりだ。


「これだけ苦労してもそれだけかあ」


「同意」


 アリアやレナードも私と同じ気持ちの模様。


 1日の生活費は最低でも小銀貨8枚8,000円は必要だ。

 これは宿代を払った後、食事を自炊した場合の最低額。


 つまり今の洞窟コウモリケイブバット討伐ではそこまで稼げなかった訳だ。


 正直今の戦いで私は疲れ切っている。

 アリアもきっと同じだろう。

 レナードも魔力大きめの魔法を使ったし、本当は宿に戻って休みたい。


 しかも地面に伏せたので服は汚れている。

 回収袋も洞窟コウモリケイブバットの体液で汚れている。

 出来れば今日はもう宿で休んで、明日はゆっくりお洗濯なんてしたいところ。


 しかし財政事情がそれを許さない。


「今日、他にどれくらい討伐したかなあ?」


 そんなアリアに残念なお知らせだ。


「ベーススライム2匹とノルマルトード1匹だけ」


 つまり1日の生活費ノルマに足りない状態。

 

「ここでもう少し休んで、それから浅い階層でデミゴブリン探しするしかないね」


「仕方ないけれど、それしかないなあ」


「同意」


 私達3人は顔を見合わせて溜め息をついた。


 ◇◇◇


 結局この日は、全部あわせても収入が正銀貨1枚1万円に届かなかった。

 1日の最低生活費ノルマ小銀貨8枚8,000円は何とかクリアしたけれど、余裕は全く無い。


「宿についたらたらいを借りて、服と収納袋を洗おうか。洗剤は買えないけれど、水とお湯で洗えば綺麗になるよね」


「だね。ただ討伐用の服も少しくたびれてきたなあ」


 洗うとその分服もくたびれる。

 しかし……


「洗わないと臭くなるし仕方ない」


「そうだよね。もう1着買えるようなお金はないし」


 そんな感じで第1回第11階層挑戦は失敗に終わったのだった。


 ◇◇◇


 しかし第10階層までで魔物討伐をしていると、やっぱり稼ぎが少ないし身体的にもハード。

 ごく最初の頃と比べると、一応魔物が多い場所なんかもわかるようになった分少しはマシになったけれど。

 だからその後も3回ほど第11階層に挑戦。


 勿論洞窟コウモリケイブバット対策は考えた。

 足音を潜めて行く作戦は失敗。

 奴ら、第11階層のあちこちにいる。

 どうルートを考えても他の魔物より先に出遭ってしまうのだ。

 出遭ってしまえば最初の時と同じ事の繰り返し。


 次に考えたのは洞窟コウモリケイブバットと戦う事前提の作戦。

 できるだけ多く集めてレナードの魔法で一気に倒して数を稼ごうというものだ。

 1匹あたり正銅貨3枚300円でも34匹倒せば正銀貨1枚1万円を超えるから。


 この作戦も上手くいかなかった。

 こっちが防御に徹していると洞窟コウモリケイブバットは仲間を呼ばない。

 仲間を呼ばせるには、こっちも戦いまくって洞窟コウモリケイブバットに危機感を持たせる必要があるようだ。


 ただ戦いまくると34匹集まるまで私とアリアが持たない。

 奴らは素早いし複数いるので、注意しても引っかかれたり噛みつかれたりする。

 疲れて私達の動きが鈍くなるともう一発だ。


 しかも洞窟コウモリケイブバットの牙には毒がある。

 勿論万が一毒状態になってもアリアの治療回復魔法で治せる。

 しかしアリアの魔力も無限じゃない。

 毒治療5回と治療回復4回で魔力は空。 

  

 結局3回目の挑戦でも耐えきれず、25匹程度でレナードの魔法を使う羽目に。

 結果、私達は第11階層で稼ぐ事を諦めた。


「何か別の方法を考えないと無理だよね」


「でも第11階層で無理なら、その先はもっと危ないと思う」


「同意」


 そんな感じで、再び第10階層までで討伐をする方針に戻ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る