第2話 パーティ名は青い薔薇

 レナードは私やアリアと冒険者学校の同学年。

 女子5人は全員同じクラスだったから、学校での2年間、少なくとも午前中の共通授業は一緒。


 更に言うと寮の部屋も一緒だった。

 寮は元々6人部屋で、同じクラスの女子5人全員で1部屋を使っていたから。


 しかし私はレナードとほとんど話した事は無い。

 多分アリアも同じだ。


 アリアと私は学校でも仲が良かった。

 専門は違うけれど共通授業は一緒に勉強もしたし、雑談その他も結構した。


 だからアリアが元孤児で、

  ○ 教会の孤児院にいた事

  ○ 治療回復魔法や聖属性魔法の適性があった為、聖職者にさせられそうだった事

  ○ 教会の教えがあわなくて冒険者学校の試験にあわせて逃げてきた事

を知っている。


 アリアも同様に、

  ○ 私の実家が隣国の貧乏騎士候家である事

  ○ 20歳以上年上の評判が良くない貴族と婚約させられそうになって逃げてきた事

を知っている訳だ。


 しかしレナードについては私もアリアもほとんど知らない。

 授業の合間や寮の自由時間等は、彼女は概ね図書室から借りてきた魔道書を読んでいた。

 昼食も教室の端の自席でパンをかじりながら、やはり読書。

 特に誰とも会話する訳では無く、黙々と。


 話しかければ最低限の受け答えはする。

 寮の部屋の掃除なんかもさぼらない。

 でもそれだけで誰かと関わる事がほとんど無い。


 会話が無い事以外にもこの大陸では見かけない黒い髪とか、女性なのにレナードという男性名を名乗っているとか。

 そう言った“普通とは違う感”がレナードの周囲に漂っている。


 更に彼女は入学当初から魔道士として他の生徒の数段上の実力を持っていた。


 例えば入学試験の魔法実技、レナード1人だけ満点だったらしい。

 自分から5腕10mの位置から5腕10mごとに30腕60mまで設置された6個の的を、開始から10数える間に全部撃破したとの噂だ。


 以降の魔法実技の試験でも、レナードは毎回ほぼ最高点をとり続けていた。 

 これは噂ではなく私がこの目で見た事実。


 そしてレナードは、冒険者ライセンスのC級に合格している。

 同期でC級に合格しているのは他に1人だけ。

 私やアリアを含む残り72人はD級までだ。

 なお入校時には生徒は100人いたけれど、26人は落第その他で学校を去っている。


 つまりレナードは私達とあまり面識はないけれど、実力は確か。

 何故声をかけてきたかはわからないけれど、私とアリアにとってこれははチャンス。

 彼女がいれば新人3人でも専業冒険者として最低限の討伐活動は可能だろうから。

 それだけの実力が彼女レナードにはある。


 ただ何故声をかけてきたか、疑問はある。


「でも本当にいいの? 私達2人とじゃ、それほど深い階層には行けないと思うよ。レナードの実力があればパーティを組まなくても、冒険者ギルドで見合うパーティをマッチしてくれるんじゃないかなあ」


 アリアの言う通りだ。

 冒険者ギルドは実力にあわせてパーティを斡旋してくれる。


 ちなみに私やアリアは、

『今はちょうどマッチ出来るお勧めパーティは無いですね。もう少し迷宮ダンジョンの5層までで訓練した方がいいと思います』

と言われてしまった。


 しかしレナードの実力があれば違うだろう。

 優秀な魔道士は人数が少ないし。

 新人であっても大手パーティなら先物買いで雇用する筈。

 だから『新人女子を正当な理由で採用してくれるパーティは無かった』という事はない筈だ。


 レナードは少し困ったような表情。

 10数える位の後、小声で答が返ってきた。


「実は知らない人が苦手。会うのも話をするのも一緒にいるのも。だから全く知らない人とパーティを組むの、無理」


 えっ!?

 なんというか私にとって想定外の言葉に、どういう反応をしていいのかわからなくなる。

 ただアリアは私と違った。


「本当みたいだね。魔力に嘘の気配がないから」


 アリアは聖魔法の応用で人が嘘を言っているかどうか判別出来る。


「でもいいの? 私やエリナじゃレナードの実力に見合わないと思うよ」


 失礼な、そう言いたいが事実だ。

 同期卒業だけれど冒険者ライセンスの級が違う。


「お願い。私は冒険者をしたい。でももし迷惑なら諦める」


 どうやらその言葉も嘘ではないのだろう。

 少なくともアリアはそう判断したようだ。

 

「迷惑なんて事ないよ。私達もレナードがいればパーティ組んで冒険者をやれるしね。エリナもそう思うよね」


 アリアがそう判断するなら大丈夫だろう。


「勿論。私からもお願い」


 そんな感じで、私達はパーティを組むことになった。


 その後何度か話した結果、

  ○ レナードが教室で話さなかった理由は、外国出身で言葉がまだ不自由で、他人と話す事が苦手だったから

  ○ 常に本を読んでいたのは魔法の勉強の他、言葉の勉強と、話しかけられないようにする為。

  ○ それでもこのままでは冒険者として活動出来ないのでどうしようか悩んでいた。そうした折、エリナとアリアの会話を聞いてチャンスだと思った

  ○ しかしすんなり会話出来る自信が無くて、自室で想定問答を1時間くらいかけて作ってから話しかけた

なんて事がわかった。


 更にレナードという名前の由来についても。


「冒険者だから強そうな名前という事でレオナルドにしようと思った。でもそこまで強そうな名前と自分とでは合わないと思って、レオナルドの一部を取ってレナードにした。


 本名は別にある。でも外国の名前だし発音が一般的では無い。だからもう使わない」

 

 レナードによればそんな理由。

 しかし本名や出身の国についてはまだ教えて貰っていない。


「今ではもう行く事が出来ない、遠い国」


 レナードのそんな説明ではわからないので更に聞いてみた。


「まさかこの大陸の外って事?」


「もっとずっと遠い国」

 

 レナードはそれだけ言って、それ以上は何を聞いても教えてくれなかった。


 私が知っている限り、人が住んでいる国があるのはこの大陸だけ。

 海の先には見知らぬ大陸があるという伝説はある。

 しかしその大陸にたどり着いて、そして戻ってきた人はいない。 

 歴史の中で何組も調査船団は出ていると教わったけれど。


 だからこの大陸の外という事は無いだろう。

 私はそう思うのだけれど。

 

 ◇◇◇


『遠い国』関係といえば『青い薔薇ブルーローズ』というパーティ名の由来もそう。


 パーティを組んで冒険者ギルドに提出する為には、パーティ名を決めなければならない。


 でも私とアリアはいい案を思いつかなかった。


「うーん、迷宮ダンジョン遊撃隊ってのは?」


「なんかあわないよ、女子3人じゃ。愛戦士というのはどうかなあ?」


「うーん、なんか変」


 こんな感じで。

 見かねたのか呆れたのか、レナードがこんな案を出してくれたのだ。


「なら『青い薔薇ブルーローズ』は? 青い薔薇には夢がかなう、奇跡という意味がある。でも他にいい案があったらそれでいい」


 なかなか格好いいな、私はそう思った。

 そして私とアリアではそれより良さそうな案を思いつかなかった。

 結果、この名前になったのだ。


「でも青い薔薇って見た事がないなあ。レナード、何処で咲いているの?」


 アリアの言葉で、そういえば私も青い色の薔薇なんて見た事が無いなと気づく。

 実家の庭にバラ園なんてのもあったけれど、そこにも青い薔薇なんて無かった筈だ。


 レナードの返答は簡単だった。


「今では行く事が出来ない、遠い国」


「それって前にレナードがいた国?」


「そう」


 何処なのだろう。

 この件についてはやっぱりレナード、それ以上教えてくれない。

 何処にあるのかも、何故どうやってレナードがこの国に来たかも。 

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