第10話 メカシャチの強さ

 シャチの振り回す胸ヒレが腕に当たる。

「ぐっ」

 鉄板が当たったような衝撃だった。

 これを何発もくらったら、身体がもたない。

 じりじりと後ろにさがり、せまい所に追いやられていた。

 シャチの眼が緑色のライトで光っていた。

 シャチはパワーの分、スピードが遅くなったのに、グランドからどんどん離されてしまっていた。

 逃げる場所がなくなってしまうのはまずい。

 けれど、攻撃を避けるためには後ろにさがるしかなかった。

 まったくサメモードになる様子がない。

 プールの横まで来てしまった。この先は行き止まりだ。

 プールの入り口は閉まっている。

 シャチの両方のヒレが往復ビンタの様に襲いかかる。

 片方のヒレを身体全体で受けとめた。

 ものすごい衝撃で立っていられなくなる。それでもシャチのヒレを離さず、しゃがみこんだ。

 シャチもバランスをくずして、プールのドアにぶつかり、壊した。

 壊れたドアのすき間から、プール場の中に入る。

 シャチが通るにはすき間が狭い。入ってくるのにもたついている。

 考えは無かった。ただシャチから離れたかった。

 プールは学校の敷地内の一番はじにある。

 フェンスに囲まれて、逃げ道はない。

 シャチがゆっくりと姿を現した。

 プールの水の中に入ってみることも考えたが、閉じられたプール内では逃げ切れる訳もないだろう。

 技もパワーも残ってなかった。ただただ、シャチの攻撃を受けるだけだった。

 シャチのヒレが肩口に当たり、着ぐるみが破けた。それだけの威力があるのだ。

 シャチは無言で攻撃を続ける。

 もうだめだ。着ぐるみもボロボロで、脱げそうだった。

「ふーーー」シャチが深く呼吸する。強烈な攻撃がくる。

 シャチが向かってきた時に、後ろに身を引くと、スルッとサメの着ぐるみが脱げた。

這いつくばって横に逃げた。

 シャチはサメの着ぐるみの方に攻撃を続ける。シャチの本能モードで、サメの方に注意がいっているようだ。

「ウッシャ!」

 渾身の力で、シャチに体当たりをして、そのまま一緒にプールへ飛び込んだ。

 

 なんとかプールのヘリにつかまり、這い上がろうとした。

 ぬるぬるしてて、なかなか上がれなかった。

 やっとの思いで水からあがる。

 プールの底で、緑のライトが光っていた。

 しかし、動かない。

 そして、次第にライトの光が小さくなって、消えた。

ゴボゴボ

 人が仰向けにあがってきた。

「タカケンじゃねえかよ」

「はっ! どういうことだ?」

 意識を取り戻したタカケンをなんとかプールサイドにあげると、校舎の方をみた。

 まだパレードマーチが流れていた。

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