天空24 地上観測
『では、最後に十号機の結界を解除します』
投下から一時間ほど経った頃、最後の実験の準備が整った。
『成功しました。十号機に一切のダメージはありません』
スカイコア先生の言う通り、海上に無傷で浮く偵察機の姿があった。
一時間も経って完全修復もされているし、新品同様だ。
「それは良かった。ところで、この十号機はどうする? このまま放置したら、誰かが拾って事故ったりしないか? かなりの魔力が込められているんだろ?」
『そう簡単に傷付く事は無いので、問題は無いかと。自然界の魔力を吸収する能力もある程度はありますので、長時間破壊を試みられなければ基本は安全です』
絶対に普通ゴミでは出せない逆方向ロケットのようなもの、下手をすれば不発弾級の危険物だと思っていたが、放置しても迷惑になるようなものでは無いようだ。
『偵察機としての機能は十全ですので、このまま偵察機として地上を観測する為に使用するのがよろしいかと。自然回復で足りないエネルギーはこちらから遠隔で補充する事も可能ですので』
「なる程、確かにここからだと上からの光景しか見えないし、それは良いね」
上からでは見えない建物の中や森の中、それを人と同じ目線で見える。
いい退屈しのぎになるし、音声も集めれば具体的な情報も分かる。
天空ライフの素晴らしい進歩だ。
『マスターの記憶を頼りに、ゲームの様に操作できるコントローラーもご用意致しました。様々な形状のものをご用意いたしましたので、お使いください』
そこには見慣れたゲーム機のコントローラーやスマホにパソコンっぽいもの、中にはテレビ付きのものまで用意されていた。
「と言うか、俺の記憶見れるの?」
『はい、今回のレベルアップで可能となりました。あくまでも知識記憶のみですので、ご安心を』
相変わらず、プライバシーはしっかりと確保してくれるらしい。
本当に万能で有能だ。
早速使ってみよう。
一番使い慣れているスマホ型を手に取る。
そこには既に偵察機から見た風景が映し出されていた。
取り敢えず、画面をタッチしてみる。
すると景色が動いた。
次に画面にあった太めの十字マークをスライドさせると、今度はその方向に動いた。
他にも、右上に小さくあった地図をタッチすると地図が拡大され、拡大された地図の一部をタッチするとそこへの移動を始めた。
色々なタイプの移動法が用意されている。
本当にゲーム感覚で動かせそうだ。
他にも携帯型ゲーム機の形をしたコントローラーを使ってみると、まるで本当にそういうゲームをやっているようだった。
ただ、最終的に使って一番使いやすかったのは握って親指でレバーを三百六十度動かすだけのオリジナルコントローラーだった。
実物大に展開された観測映像を見ながら動かせるからだ。
立体映像を全面に展開したら、まるで本当にそこにいるかのような光景が見れた。
新しい玩具、じゃなくて便利アイテムが手に入ったので早速遊、ではなく使う事にした。
映像を全面展開させた今はまるで海上に立っているかのようだ。
端までレバーを上に押すと、徐々に前方に進み出し加速してゆく。
ちょっと怖いが鳥にでもなった気分だ。
コントローラーの端についたボタンで上下の移動も可能で、人には到底見る事ができない光景が簡単に見られた、いや体感できた。
空を飛び見る景色は勿論、試しに下に移動させると潜行し、海中の風景まで見れた。
うわっ、魚!?
顔に飛び込んできた。
……なる程、偵察機の大きさは俺よりも小さいから、偵察機が避けても俺に当たるような映像になるだな。
進行方向には気をつけねば。
ある程度深めに潜ると、魚も増えてゆき、海中の楽園が姿を現す。
しかし、深く潜ると当然暗くなり見にくい。
『明るさを上げますか?』
「そんな事まで出来るんだ」
『はい、マスターの目から見える光景と合わせておりますが、偵察機は実際には人間の目には見えない光もとらえておりますので、暗い画像は勿論、熱分布や魔力分布で表示する事も可能です』
「じゃあ、明るくして」
『畏まりました』
暗い海中は、水族館以上に明るく鮮やかになった。
地球では見たことが無い魚も沢山いる。
魚だけではない。クラゲもタコも、亀も何に分類したらいいのか分からない生物も沢山いる。
どんな水族館よりも豪華なものを見ていると断言できる。
もし初めから地上に降りる事が出来ていれば、今とは反対に自主的にこの島から動かなくなっていたかも知れない、それ程の素晴らしさだ。
「そう言えば、これで街に行くと確実に目立つと思うけど、姿って隠せないの?」
『可能です。現在もステルス機能を使っております。光学的にも魔力的にも現在、十号機は海の生物や魔獣に認識されておりません』
万全だったらしい。
流石はスカイコア先生だ。
『ただ、その分エネルギー消費が大きいので、エネルギーを補充してもよろしいでしょうか?』
映像の端の方にバーがあると思ったら、エネルギー残量を示していたらしい。
そもそも落下時にあんなに結界を展開していたし、結構カツカツだったようだ。
「また聖剣にエネルギーを送った時みたいにするの?」
だとしたら、また光が出て目立ちすぎると思う。
『いえ、偵察機はこちらの製作物ですので、専用のパスを繋げております。線のように繋げる訳ではありませんので、目立つ事は無いかと』
「なら、補充して」
『畏まりました』
徐々にバーが回復してゆく。
見かけは特に変化が起きている様には見えないのに、送信出来るとは魔力は普通に空間を伝わらなくても移動出来るらしい。
あれ? 何か忘れているような?
「って、天界の魔力を直接送って大丈夫!?」
『あっ…』
スカイコア先生も忘れていたらしい。
地上に順応していない天界の魔力を送ったら、また高エネルギーを放出して大変な事になる。
結界は一枚しか展開していない様だし、あっという間に偵察機が壊れてしまうだろう。
そう、思ったが暫く経っても変化は無かった。
『偵察機に異常はみられません。地上に順応した個体に天界の魔力を送っても、問題は起きないようです。おそらく魔力が魔法に変化するように、天界の魔力が所持者によって地上の魔力に変化したのかと。とはいえ失念してしまい、誠に申し訳ありませんでした』
「いや、誰にでも失敗はあるから気にしないで。その失敗の何倍も助けられているし」
『ありがとうございます』
結果的に、おそらくもう偵察機は天界に戻らない限りは高エネルギーを発する事は無いと分かったし、終わりよければ全てよしというやつだ。
さて、異世界散策の続きをするとしよう。
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