天空22 前進
魔力が分解の引き金になる。
一つ大きく重要な事が判明したが、ここでまた一つ疑問が出て来た。
「あれ? 聖剣を修復する為にスカイポイントを送ったけど、あの時はどうだったんだ? 送れたって事は、別に魔力が高エネルギーになる訳じゃないんじゃ?」
『いえ、高エネルギーに分解されておりました。ですので、あの様に光の柱が生じていたのです』
「光の柱って元々そういう仕様じゃなかったんだ……」
てっきり、あの光も必要なエネルギーか何かだと思っていた。
「と言うか、高エネルギーに分解されても魔力は残ったんだ」
『はい、分解と言っても魔力や物質が完全にエネルギーに分解されている訳ではありません。あくまで存在として上位に位置する分のエネルギーが地上の定義では収まりきらずエネルギーとして放出されると考えられます』
偵察機が消失して完全に消え去ったと思っていたが、蒸発したりして形は無くなっていても物質としては残っていたらしい。
例えるなら、地上と天界とでは同じチェーン店の同じハンバーガーでも値段が違い、高い天界のハンバーガーを地上に持って行くと差額が貰える、みたいな事か。
『次の測定では地上への降下を本格的に試みます。そして、完全な地上での偵察機の変化を測定し、魔力ではなく物質への影響を調査する予定です。具体的には偵察機の結界を変化させ、狭間を突破し次第、結界を解除します』
「それで分解されなければ、地上に降りられる可能性が出てくるという訳か」
『はい、この天空で造られ消耗しない偵察機はこの天空の物質そのものですので、この偵察機が無事に地上で存在出来れば、マスターも地上に降りられる筈です』
地上に降りられるかどうか、本質的に重大な測定となるらしい。
緊張してきた。
結果は如何に?
『それでは第三段階を始めさせていただきたいと思います』
「頼む」
色々な意味で。
『七号機、降下』
落下してゆく偵察機の周りは、先程までとは異なり結界が展開されていた。
玉ねぎのように何重にも繰り返し発動されているようで、破壊されては内側から結界が広がり、また破壊されては結界が現れと偵察機を守っていた。
しかし、結界が全て突破されることが無くとも偵察機本体はダメージを受けていた。
焦げ、歪んで行くのが見て取れる。
『結界性能に課題あり。百万度の熱を防ぎきれておりません。しかし、物質への影響は引き続き調査可能であることから、実験を継続します』
偵察機は何とか形を保ちながら、オーロラの出ている領域を突破した。
『結界の解除を行います。3・2・1・解除』
結界が消えた偵察機は激しく発光。
そして消失した。
「……天界の物質は、地上では存在出来ないと言うことか?」
『いえ、まだ判りません。七号機は魔力の保持力が低い機体です。流失する魔力によってこのような結果となっている可能性があります。八号機は保持力が高い機体ですので、そちらの測定を行いましょう』
良かった。
まだ地上に降りられる可能性は残っているらしい。
『八号機、降下させます』
運命の八号機の降下が始まる。
魔力の保持力以外は変わらないようで、結界を連続で展開しつつも、百万度の高温には耐えきれず歪み始める。
しかし今回も無事にオーロラを乗り切り、完全に地上世界へ。
『結界の解除を行います。3・2・1・解除』
先程と同じ言葉、同じ速度でそう告げられるが、先程とは比較にならないほど長く感じた。
だが、現実の時間が遅くなる事など有り得ず、実験は継続してゆく。
結界が剥がれた偵察機、それはゆっくりと赤熱してゆき、やがて激しい光を……。
……七号機よりは保ったが、消失してしまった。
『やはり、魔力の保持力が強いと分解され難く
なるようです』
「……そのようだな」
その事が分かっても、もはや意味は無い。
もう、地上への道は途絶えたのだから。
大人しく、天空のスローライフを満喫しよう。
『では、次の検証に移りたいと思います』
「えっ、まだあるの?」
『はい、次は温度に関する測定を行います』
全てにゼロがかけられたと思っていたが、まだ可能性は残っていたらしい。
「温度?」
『はい、エネルギーに元々近い状態のもの程、分解され易いと考えられますので、冷却された場合、分解が妨げられるのではないかという仮設の元、測定を行いたいと考えております』
なる程、確かにその可能性もあった。
熱はれっきとしたエネルギー、太陽の光みたいに急激に余剰エネルギーが放出されてもおかしくは無い。
ならば、百万度で加熱された温度が下がれば、無事に地上に降りられるかも知れない。
『実験を継続してもよろしいでしょうか?』
「頼む!」
本当に、色々な意味で。
『では、九号機、降下します』
オーロラを抜け出すまではこれまで通り。
突破してからは結界を維持したままで、冷却のプロセスが新たに加わる。
偵察機は白い煙を出し始めた。
『九号機のスペックでは、地表到達までに完全冷却は困難と判断。結界を解除します。3・2・1・解除』
やはり偵察機は徐々に激しい光を帯びてくる。
しかし、その速度は明らかに遅い。
やがて九号機も消失したが、明らかな前進だ。
『やはり、魔力保持力が高い場合は主に熱から高エネルギーが放出され、結果的に偵察機の損傷に繋がると考えられます』
「魔力を抑えつつ熱を抑えることが出来れば地上に行ける可能性があるという事か」
『はい、その可能性は十分にあります。最後は実際に地上まで落下させ、その間の負荷について測定し、必要な結界強度や冷却性能について測定を行いたいと思います』
と言うか、ここまで想定して結果を見る前から異なる性能の偵察機を十機用意していたスカイコア先生、有能過ぎる。
俺だったら、細かい条件を調べる前に可能な限り高スペックな偵察機を造って、それが駄目なら原因を突き止めずにそのまま諦めていただろう。
もしくは、それが成功していたら調子にのって自分にも同じ結界とかを使って必要条件を誤り自滅していた筈だ。
スカイコア先生がいてくれて、本当に良かった。
『いえ、私こそマスターとの出逢いに感謝しております。マスターがいなければ私は眠り続けていたでしょう。例え人類が滅びても気が付く事すら出来ず、ただ在るだけの存在になっていた筈です。そんな私に、マスターは存在意義をくださった。製作者様達の願い、人類を守ると言う願いすらも、聖剣を守るという形で叶えてくださった。これ程の喜びはありません』
心の声が伝わっていた様だ。
気恥ずかしい。
「ありがとう。さあ、最後の測定をしてくれ」
誤魔化すように俺はそう返す。
『畏まりました』
返ってきたその言葉は、どこか暖かく柔らかかった。
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