天空21 天界と地上の狭間


『マスター、偵察機が目的地に到着いたしました』


草の広場で寝転がりながら微睡んでいると、そんな報告が入って来た。

いつの間にか、二時間程度が経過していたらしい。


水をぐびっと飲んで目を覚ます。


『これより偵察機による降下実験を開始しようと思いますが、よろしいでしょうか?』

「始めてくれ」

『畏まりました。一号機、降下』


映し出されていた偵察機の内、一機が落下し始める。

そしてある程度落ちると、偵察機は激しく発光しだした。一瞬で隕石の様だ。加えてそこに、白いオーロラが姿を現す。


やがて偵察機はヒビだらけになり、溶ける様に崩れてゆくと燃え尽きた様に消える。


『偵察機の消失を確認。消失直前までのデータは無事に送信されました。もう二機降下させ、データの信頼性を上げます。二号機、三号機、降下』


二機の偵察機が降りると、前の一機と同じ様に光を発し消失した。


『三つの測定結果に大きな誤差はみられません。測定に成功しました。地上と天界との間は千年前のデータ通り、灼熱の空間が広がっております。その温度、約百万度です』

「ひゃ、百万……」


とんでもない温度だ。

灼熱空間だとは聞いていたが、まさか太陽のコロナくらいの温度があるとは。


「何故、そんな高温に?」

『千年前の時点では天界、原初の力が遺る神域から低エネルギー世界である地上へのエネルギーの流失が主たる原因とされていました。天界の上位存在が地上において解け高位な分だけエネルギーになるという考えです。千年前の観測では昼と夜とで狭間のエネルギーは異なっている事から特に流失しているエネルギー源として、太陽と月の光が地上に降り解き放たれる事で高温高魔力帯になっていると考えられています』

「つまり天界にあるものは地上に降りると光であったとしても高エネルギーを放つと?」

『はい、千年前と比較し天界の領域が狭まっている事も確認しておりますので、その可能性は高いと考えられます』


となると、偵察機が溶ける様に消えていたのは、ただ高温に曝されたからではなく、自らもエネルギーに変換されたからか?


『観測データでは、同等の高エネルギーに曝された場合よりも分解速度は早く、おそらくは偵察機もエネルギー源となっていた可能性が高いです』

「もしかして、もし俺が降りても?」

『それは現段階では判断出来ません。理由といたしましては、異世界の勇者様はマスターの例の様に天界を通って降りる様に召喚されると考えられます。その場合、勇者様は無事ですので、問題ない可能性があります。しかしその場合、召喚術式により短時間のみ保護され無傷である可能性も十分考えられます。一方、マスターはこの天界内でも無事です。マスターが地上と同じ低位存在である場合、地上に降りる場合とは反対に対象へのエネルギー流入が起きると考えられます。しかし、その現象は観測出来ておりません。その為、現状での判断は不可能です』


確かに俺がこのまま地上へ召喚される予定だったとしたら、召喚術式の設計ミスでも無い限り俺は天界から地上に降りても当然無事の筈だ。

しかし、天界と地上の狭間が百万度だという事も考えると、召喚時だけ保護されている可能性が最も高いだろう。

だが、俺は今、天界で一月も過ごしている。


これが、元々勇者は何処にでも存在できるとかだったら良いが、最終的に降り立った地に合ったようになるとかだったら、下に降りて一発で終わる。

百万度の壁を突破しても、地上にいる時点で俺がエネルギー源になってしまうのならどうしようもない。


「そう言えば、この島は普通にここに存在しているけど、どうやって存在しているんだ? 地上の存在が天空に来たらエネルギーが流入するんだろ?」

『元々天界に向かう予定でしたので、地上の頃から天界に合わせて、莫大なエネルギーを込めて建造したと記録にはあります』

「乗組員は? 人類軍司令基地として造られたって事は、当然人を乗せていたんだろう?」

『内部に結界を張り、内部で外部からの影響を防ぐ予定であったそうです。ただ、実際に乗せたデータは残されておらず、起動前に何が起きたのかは不明です』

「なるほど」


まあ、少なくともそう言う予定であったと言う事は、何とか行き来できる方法が有るのだろう。

しかし、その方法も結界により身を守る方法だと言う。

もし俺が天界に合わせた存在ならば、地上に行けたとして常に結界を展開する必要があり、常に結界が破れた時のリスクに曝される。


何にしろ、更なる調査が必要だ。



『では、第二段階に移ってもよろしいでしょうか?』

「第二段階?」


そう言えば、使った偵察機は三機。

まだ七機も存在している。


『偵察機の性能及び環境の乱れが想定の範囲内でしたので、今度は条件を変えて測定を行おうと考えております』

「じゃあ、始めて」

『畏まりました。四号機を降下させます』


落下する偵察機はやはり激しい光を放ち、溶ける様に消失した。

前の測定の時と大きく変わった点は無い。


『五号機、降下します』


続けてのの五号機も同じ。

何が変わったのか、俺には分からなかった。


『六号機、降下します』


六号機はこれまでのどの偵察機よりも進んだ、気がする。

しかし、誤差の範囲内と言われればそれまで。

大きな変化というものは見られなかった。


『測定データに相関性有り。魔力保持力依存性を確認いたしました』

「魔力保持力? 何それ?」

『どの程度、自らの魔力を手放さないかの指標です。四号機から六号機ではこの魔力保持力を変化させて生成しておりました。そして測定の結果、保持力の強い偵察機ほど分解速度が速い事を確認いたしました』

「何でそんな性質と分解され難さに関係が?」


硬さとか耐熱性とかだったら、エネルギー的な分解であっても関係ありそうな気がするが、魔力を保持する力との関係なんて無いように思える。

魔力に限定的でも、保持する力は存在そのものを保持する力と密接な関係でもあったりするのだろうか?


『これまでの観測では、太陽の光など、よりエネルギーに近い状態のもの程、地上に降りた時に高エネルギーに変換しやすいという傾向が有りました。その為、物体の外へのエネルギーの流失が元々少ない、魔力の漏れが少ない状態ではどうなるのか、測定いたしました。その結果、物体内部における魔力のエネルギー変化は比較的起きておらず、高エネルギー化は主に漏れた魔力から変化していると判明いたしました。その為、高エネルギー化のメカニズムとしては、超高温及び流失魔力の高エネルギー化により物質が破壊され、それにより保持出来なくなった魔力が更に分解され、最終的に全てが分解されていると考えられます』

「外に漏れた魔力が分解の引き金になるから、魔力を漏らさない保持力が強い方が分解され難くなるって事か」

『はい、現段階ではその様に考えられます』


そうなると、魔力を漏らさない様な工夫と百万度に耐えさえすれば、普通に宇宙から地上に降りるのと変わらない事になる。

どうやっても存在的に地上で消耗するのなら絶望的だが、魔力だけが問題なら何とかなる筈だ。


希望が見えて来た。

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