天空19 庭造り


料理に最も使える食材は何だろうか。


キャベツ、じゃがいも、大根、玉葱、トマト。

ぱっと思い付くのはこの辺りか。

この中でも、更に良く使うのは多分、玉葱だ。

メインになる事は滅多に無いと思うが、逆に何でも使える。

その次はおそらくトマト。こちらはトマトソースとして調味料代わりに使われ、洋食であれば使う品数も量も多いと思う。


林檎と同じく一時間あたり、一つの野菜しか生成出来無いとなると、植える順番もある程度は気にした方が良い。


よし、まずはトマトにしよう。

よくよく考えたら、キャベツ、じゃがいも、大根、玉葱は食べられる状態で生成したら、種が得られない。


じゃがいもと玉葱はそのまま植えれば育てる事が出来るかも知れないが、種が食べる部分に入っているトマトと異なり、丸ごと植える必要があって効率が悪い。

キャベツと大根に関しては、種もその種がどの様な状態で採れるのかも知らない。種を得るには種だけを生成する必要があるだろう。


そう考えると、トマト一択だ。


しかし、そもそも料理をするのなら様々な食材が揃わなければ、結局のところ何も作れない。


ならば、まずはそのまま食べれる果物を植えてゆこうか。


う〜ん。


まあ、スカイポイントが貯まるまで時間がある。

急ぐことでもないし、ゆっくり考えよう。


というか、農業用地は元々そう広く無く百平方メートル程度、離して植えはしたが林檎の木が予想以上の大木に成長し九本できつきつだ。

まずは農地の確保から行った方が良いだろう。


「スカイコア、農地を増築してくれ」

『畏まりました。まずはどの辺りに増築いたしましょう?』

「林檎の樹と樹の間に農地を増築して、樹の間隔を空ける事は出来るか?」

『土地の移動でしたら可能です。根が傷付く可能性もありますが、再び木を活性化させる事でダメージは残りません』

「なら、それで」

『畏まりました。では、危険ですので畑から離れてください』


農地から出ると、林檎畑はキレイに九つの樹を中心に九分割された。

幸い、根はそこまで絡まっておらず、加えて樹の強度を上げているらしく絡まっている根の損傷も軽微だ。


尚、当初増築した時は農地の深さを考えず、一メートルの深さしか無かったが、林檎を育てる時にいつの間にか増築したようで、農地にはかなり厚みがあった。

林檎の大木の根が下から突き抜けている事は確認出来ず、正確な深さは分からないが、少なくとも十メートル以上ある気がする。


九つの樹が生えた土地は均等に二十メートルほど離れてゆく。

元々が十メートル四方に植えられていたので、倍以上離れた事になるが、それぞれ大木であるため間隔を空け過ぎていると言う印象は受けない。

ただ、果樹園と言うよりも樹の規模と広さから公園の様な感じになっている。


間隔が空けられると、今度は横に飛び出た根の周りに土が生成され、それが成長し下の方から農地が増築されてゆく。

やがて繋がり、下が見えなくなると今度は上の方向に、穴を下らから塞いでいく様に農地が増築された。


かなりの土地を増築したが、スカイポイントは足りたらしい。

いや、一時間に10万ポイント得られるから、一秒でも30ポイント近く貯まるのか。

つまりおおよそ6平方メートル、6立方メートルの土地が増やせる。


寧ろ、スカイポイントは貯まったくらいか。

こんな事を可能にする光合成と魔力回復スキル、実はかなりのチート能力なのかも知れない。



新たに改装された林檎畑に足を踏み入れる。

中から見ても、やはり果樹園と言うよりも公園だ。

草が生えていない事から辛うじて畑にも見えるが、それでも辛うじてだ。


どうせなら、草を生やして公園の広場っぽくしてみようかな?

林檎は大木になっているし、草が生えていても別に弱ったりはしないだろう。


でも、雑草を生やすのにも10万ポイントがおそらく必要だ。

それは流石に勿体ない気がする。


一応、聞いてみよう。


「ここに草を生やして景観を整えようと思うんだけど、雑草の種を生み出すにも10万ポイント必要?」

『どの様な草でもよろしければ、10万ポイントも必要ありません。元々この天空島に生えていた草花を増やせば良いだけですので』


なる程、確かにその手があった。

生み出すのにコストがかかるだけであって、林檎の木も育てる段階ではそこまでスカイポイントを消費していなかった。

元々生えていれば、増やすのに大してスカイポイントは必要無い。

そして雑草へのこだわりも無い。どんな種類でも良いし、そもそも名前も知らない。緑が欲しいだけだからそれで十分だ。


「じゃあ、増やして。どうせなら花が綺麗なのを多めで」

『畏まりました』


注文すると、農地の端、元々の天空島部分が淡く輝き出した。

雑草に花が咲き、小さな実を付け種が散らばる。

今度はその種が芽吹き、また花を咲かせ、種を付けまいてゆく。


そして再び芽吹き、命の領域はゆっくりと、着実に拡がっていった。


もしかしたこれまでに来たどんな光景よりも、美しいものを見ているかも知れない。

それだけ神秘的な光景だった。


スカイコアも、この光景を見せる為にゆっくり育ててくれているのかも知れない。


『いえ、スカイポイントの関係上、この速度で育成しております』

「……そうなんだ」


スカイコアはただ普通に作業していただけらしい。


「農地を増築するよりも、植物を育てる方がスカイポイントが必要なんだ」

『はい、今回は回復した魔力をスカイポイントに変換し、変換直後に消費していますので、変化の速度がスカイポイントの消費量と捉えていただいて問題ありません。今回の差は特に育てるのが難しい植物の育成を行っておりますので、より顕著となっております』

「雑草の育成が難しい?」


普通に考えると、芽が出た年に花が咲き種を付ける雑草よりも、実るまでに何年か必要であろう林檎の木の方が成長を促進するのにその年月分コストがかかる筈だ。

大きさからして、必要な養分の量も林檎の木の方が明らかに多い。

雑草は数ある植物の中でもかなり育て易い筈。と言うか、育てる気が無くても勝手に伸びる育て易すぎる植物を雑草と呼ぶ。


もしかして、植物を何でも育てる機能とかを使っているのでは無く、農作物を育てる力を使っていたのだろうか?


『この天空島に生えていた植物は、ただの植物では無く、千年の間にいつの間にかこの天界に適応していた草花ですので、育成条件は特殊です。加えてこの天空島に持ち込まれた薬草の種が流失し、野生化したものですので、通常の植物とは元々性質が異なっています。

具体的には魔力が希薄な天界で生育し続けて来た為、ある種は魔力を溜め込む性質が強く、ある種は反対に魔力を嫌う性質が有るなど、育成に用いる魔力が効率良く使えない性質を有しております』

「ただの雑草じゃなかったんだ……」


ファンタジーな空に浮かぶ島のイメージでは必ずと言って言いほど植物が存在しているが、確かによく考えると雲と同じ様な高さで普通の植物が生えている訳が無い。

高い山の上だって、殆ど植物が存在しないのだから当然だ。


ここは通常の高高度とは違い温暖ではあるが、普通の環境である筈が無い。

存在している植物が普通じゃないのが普通だ。


「元薬草という事は、何か薬効があったりするの?」

『おそらくは有るかと。しかし既知のものでは無いので、何に使えるかは不明です』


何に使えるかは分からないんだ……。

まあ、不老不死になった俺に薬が必要かと言うと、多分必要無いが……。


例え凄い薬効が有ったとしても、ここでは草のクッションとして利用させてもらおう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る