天空16 日光浴と偉業


マグマに沈んだ聖剣。

既に九割以上が失われたそれは、完全にこの世界から失われようとしていた。


それを、俺は見ている事しか出来ない。


『聖剣を失わせない方法が一つだけございます』

「それは一体!?」

『スカイポイントを変換し聖剣に届けます。そうする事により聖剣の保持修復が可能です』

「なら早く実行を!」

『畏まりました』


再び光合成により回復していた魔力と生命力が天空島へと消え、光柱が聖剣へと放たれた。


「まさか、スカイポイントでそんな事が可能とは。スカイポイントが万能なのか、それとも聖剣が色々なエネルギーを使えるのか」

『どちらでも無く、今回は特殊な例です。聖剣ステラの製作者が私の製作者と同じであり、私に聖剣ステラの設計データ等が残されていた為、可能でした。しかし、本来エネルギーをやり取りする機能がある訳では無く、距離も非常に離れている為、かなり効率は悪くなっています』


効率は悪いようだが、聖剣が失われないのであれば、何も問題はない。

と言うか、効率なんてどうでもいい。この世界の誰も気にせず、この奇跡に感謝するだろう。


「ちなみに、どれくらいの時間がかかる?」

『現段階では聖剣の保持に殆どのエネルギーが割かれています。修復機能を目覚めさせるまでにも一週間程度を要すると考えられます』

「そんなに……」


予想以上に効率が悪かった。

まあ、それでもやるしか無い。


『そして修復機能を動作させるにもエネルギーが必要であり、マグマの温度が下がると仮定しても破壊の心配が無いレベルまで回復させるのに最低一月程度は必要です』

「…………」


何であれ、やるしか無い。


こうして俺の、最低一ヶ月日光浴生活が決まった。


こうして、異世界生活二日目は魔王大戦の終結を見守り、聖剣を失わない為に尽力するも、結局俺が何をしたかと言うとただ日光浴をして一日が終わるのだった。




異世界生活三日目、もしくは日光浴生活三日目。

この生活における基本は早寝早起。

日の出と共に目覚め、日没と共に眠るのが基本だ。


何故なら、太陽が最も大切な日光浴生活だからだ。

そして夜も時間を無駄にせず、睡眠による魔力回復も最適化する為にすぐに寝る。


ある種、究極的に健康的な生活リズムかも知れない。

まあ、水以外は相変わらず何も口にしていないし、日光浴の効率化の為に寝転がっている事が大半であったりと、睡眠のタイミング以外は滅茶苦茶だが。

加えてそもそも、勇者というだけでそんな事が関係無いほど健康面でも強靭かも知れないが。




異世界生活四日目。


やる事は日光浴と、暇潰しの天空島の施設を使わず直接地上の景色を眺める事だけと変わらなかったが、同じ事をやり続けた成果か、幾つかのスキルレベルが上がった。


光合成と魔力回復スキルがそれぞれLv3からLv4に。

遠見スキルがLv2からLv3に。

それだけでなく、新たに生命力回復スキルと生命力感知スキル、更に水吸収スキルを獲得した。


魔力と生命力の回復が早まった事により、聖剣の修復も早まった、と思ったが、それもある程度は折り込み済みであったらしく、大して修復時間は変わらなかった。


尚、魔力回復スキルと比べ生命回復スキルの獲得は遅かった様な気がするが、スカイコア先生曰く、回復量や頻度の差らしい。


光合成の効果は魔力と生命力の回復があるが、主な効果は生命維持。

動物の呼吸と食事に相当する効果である為、魔力の回復量に対して生命力系は物理的な栄養素生成とエネルギー生成に分かれ生命力の回復量は少ないらしい。

その言葉が正しいと証明する様に、使用度の増加、生命力回復スキルで増えた生命力を奪われフル活用される様になった事で、一日でレベル3まで上がった。


水吸収スキルは文字通り水の吸収に関するスキル。

水の吸収効率や利用効率が上がり、空気中の水分だけでも生命維持に必要な水分を摂取可能なスキルらしい。

加えて、口以外から、肌からも水を吸収出来るという水分補給に関しては無敵に近いスキルだと言う。

そして、人間が獲得する事はスカイコア先生が記録している限り無い激レアスキルだそうだ。


光合成している時点で今更だが、色々と人間をやめている気がする……。




異世界生活七日目。


無事に、聖剣ステラの修復機能を目覚めさせる事に成功した。


しかし、やる事は変わらない。


この頃になると、回復系スキルは各種レベル5まで到達していた。

スカイコア先生曰く、スキルレベル5とは人が人生で辿り着ける最大と言われる事がある程の高みらしい。

レベルは最大10まであるが5と6の間には壁があり、越えられる人は滅多にいないらしい。


人類が追い詰められ、結果的に多くの人が通常の人生では経験し得ない過酷な経験を積む事になった千年前でもスキルレベル6以上の人は非常に少なかったと言う。


つまり、事実上一週間で極めてしまった訳だ。

光合成を極めた人間って一体……?

まあ、勇者補正とかもあるんだろうけど……。




異世界生活二十日目。


同じ事を繰り返しているおかげで、ここまで来ると更に多くのスキルがレベル5に到達した。


魔力感知に生命力感知、それに遠見スキルだ。

遠見スキルの効果は凄まじく、宇宙空間に相当する高度にいるのに肉眼でも飛行機から見下ろすくらいにははっきりと見えるようになった。

日光浴しかすることがない中、最もありがたい変化だ。




そして異世界生活三十日目。


遂に目標が達成された。

聖剣の復活だ。

完全復活とはいかないものの、もう壊れる心配は無くなった。

後は誰かが発見して拾ってくれれば万事解決。


それにしても、異世界に来て一月も日光浴ばかりすることになるとは思いもしなかった。

聞いたことすらない。食事すら一ヶ月間、水だけだし……。


《熟練度が条件を満たしました。

ステータスを更新します。

偉業の達成を確認》


だがそれでも、少しは勇者をやれていたらしい。

聖剣を守り切ったと同時にステータスが更新された。

どうやら聖剣を守った事が偉業として認められたらしい。世界のシステムが認めてくれたのだから、少しくらいは誇っても良いだろう。


《偉業達成によりエネルギーが獲得可能です。

固有スキル〈適応〉及び〈天空島〉がエネルギーを請願。

偉業によるエネルギーを獲得しました。

固有スキル〈適応〉の効果により得たエネルギーを用い環境への適応を行います。

偉業達成により資格の獲得に成功。

固有スキル〈不老不死〉を獲得しました。

器が拡張されました。

更に適応を行います。

職業ジョブ“仙人”を獲得しました。

種族“仙人”を獲得しました》


……なんか、予想以上に凄い事になった。


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