天空15 聖剣
人類の軍と魔王軍は相討ちとなった。
しかし、それは人類の勝利と言えるだろう。
何故なら、戦場となった地域は地形ごと壊滅してしまったが、人里は残っている。
人類は滅んでいない。
どこも滅びた最大都市、神殿のあった都市と比べても数段規模が小さいが、人類は生き残った。
魔王軍を倒す目的が人類を守る為であるなら、勝利を勝ち取ったと断言して良い。
もし地上に降りられるようになったら、唯一の証人としてその身を犠牲に人類を守った人々の勇姿を伝えよう。
いや、必ず伝えてみせる。
それがきっと、ここに召喚された俺の役割だ。
「スカイコア、記録は出来たか?」
『はい、可能な限り記録いたしました。データ処理を行う事でマスターが観測した以上の情報が閲覧可能です』
「なら、その処理も情報が風化しない内に頼む。魔力なら幾ら使っても構わない」
『畏まりました』
光合成で回復するそばから魔力が消えてゆく。
変わりに、新たな土地が生まれてゆき、そこにクリスタルが生成された。
「あれは?」
『記録媒体です。私の処理能力内に記録情報を保持し続けるのではコストが高くなってしまう為、専用の記録媒体を生成いたしました。データ処理を行う毎にデータ量が増加しますので、必要に応じて増やしてゆく予定です』
そして、クリスタル以外の変化として、魔法的な観測所と物理的な観測所による観測画面が次々と移り変わっていた。
映し出す場所は勿論、拡大倍率も様々に変わってゆく。
「映す場所が変わっているのは何か理由が?」
『はい、これが今回のデータ処理の中核となります。様々な観測を改めて行う事で何を観測していたのか、どのデータが何のデータであったのか特定し算出を行っています』
全部計算的にデータ処理をしているかと思ったが、虱潰しにパズルのピースを当て嵌める様に処理していたらしい。
ちょうど魔力が使えず光合成しかすることがないのでこの観測結果でも見ていよう。
目まぐるしく変わる景色を眺めていると酔ってしまいそうだが、その時は見るのを止めればいいだけだ。
暫く画面の景色を見続けても酔う事はなかった。
加えて、早く移り変わる光景も普通に認識することが出来た。
これがステータスの影響か、動体視力などが向上しているらしい。
戦場付近は壊滅しており、魔王大戦が起きた事自体を知らない人達しかいないと思っていたが、そんな事は無いらしく各所で大騒ぎになっていた。
戦場から比較的近い場所では地震が発生したらしく、倒壊した家屋の下敷きになった人達を懸命に救助していた。
地震による被害がない比較的遠方においては、人々が戦場方面の空を指差し不安げにしている。
どうやら、この天空島の観測は雲などに影響されない様で気が付かなかったが、巨大なキノコ雲のようなものが発生しているらしい。
平らな世界であるからか、かなり離れた土地の人々にも見えるようで、世界中の人々が戦場の方向を見ていた。
この分だと、激しい光なども届いていただろう。
そして解像度が良くなった映像を見ることで、スカイコア先生の推測が正しかった事が判明した。
どの街も破壊された跡が残っていたりと、激しい戦を経験した形跡があった。
魔王軍との戦いは、俺が召喚されるずっと前から起きていたのだ。
全体的に襲われている事から、やはり末期だったのであろう。
決死の決戦を見て、せめて後世に伝えたいと思ったが、それでもやはりこんな深刻な事態に陥ってから召喚しないで欲しかった。
どう考えても遅い。
魔王軍に打ち勝てた事から、急激に世界中の街が襲われた訳では無い。そんな力が魔王軍にあったのならば、流石に人類は生き残れていない。
それでもここまで疲弊しているという事は、何年かは判らないが、長く戦い続けていたからだろう。
世界各国に無傷の街というのは驚くほど少なくなっており、完全に破壊され無人となった街が至るところに点在していた。
それは、ただ戦い続けただけでなく、存亡を賭けた大戦の戦局が終盤まで進んだ証拠だ。
長い間、戦い続かた後に召喚されるだけなら何も問題がないが、勝敗が決まる直前に召喚するものでは断じてない。
いや、光の戦士の人、俺よりも数段勇者っぽかったし、実は俺は遅すぎた勇者というよりもダメ元おかわり勇者だったのだろうか?
召喚された俺からしたらたまったものでは無いが、それならまだ理解出来る。
『はい、あの方は対魔王決戦兵器”聖剣ステラ“に選ばれし勇者です』
なら、百歩譲って妥当な召喚だったのかも知れない。
『マスターとは異なりこの世界の人類の中から選ばれた勇者ですが』
じゃあ駄目だ……。
百万歩譲っても妥当な召喚だったとは言えない。
そして、この会話から重大な事態が判明した。
「って、マグマの湖になっちゃったけど、その聖剣は!? 次に魔王が現れた時、大丈夫!?」
話からして、召喚されていない勇者は聖剣に選ばれるらしい。
となると、聖剣が失われれば勇者も失われる。
今回も、あの勇者の人がいなければ勝てていなかった。
聖剣が失われていれば人類のお先真っ暗だ。
『っ!? 失念しておりました。直ちに確認を行います』
動き続けていた観測画面がマグマの湖に変わる。
そして画面が乱れ、ブラックアウト。
「これは?」
『通常の観測では決戦時の残留エネルギーにより観測が乱れ発見できませんでした。その為、一時スカイポイントの消費を停止し、スカイポイントのチャージを行っています。エネルギーが貯まり次第、高強度の探知術式を発動いたします』
巨大な魔法陣が天空島の下に構築されてゆき、形がある程度定まってくると、今度は魔法陣の輝きが増してゆく。
『エネルギー充填予測時間はおおよそ二十四分後です。しかし、このままでは聖剣に深刻な被害が及ぶ可能性があります』
「早くチャージ出来ないのか?」
聖剣が失われた可能性があると気付くのにも、既に十分以上が経過している。
周囲をマグマの湖に変えるほどの力を放った聖剣だから、その攻撃で壊れていなければ無事の可能性が高いと思うが、普通の剣なら確実にマグマに入れたら壊れる。そのマグマだって、多分普通のより熱い。
聖剣だからといって、多分作る時には熔かして鍛えたのだろうから、どんな熱にも耐えられる訳では無いだろう。
酷使してガタが来ていたら聖剣でも高温で深刻なダメージを負う可能性がある。というか、スカイコア先生がその可能性があると言った以上、そうなのであろう。
これは何としてでも急がなければ。
『光合成で回復している分の生命力を供給くだされば、十分程度にチャージ時間を短縮できます』
「じゃあ、それで!」
『ありがとうございます』
水をがぶ飲みして光合成に集中する。
自分に流れ込む水以上に力が外へと流れてゆく。もし、光合成を止めればあっという間に抜け殻になるだろう。
そんな感覚に耐えること暫く、探知術式が完成した。
既に目を細めなければ見えない程に輝いたそれは縮まり更に輝きを増すと、人一人分程の光の輪となり砲弾の様な勢いで地上へと放たれた。
観測画面は相変わらずブラックアウトし見えないが、激しい光を放つ光輪は肉眼ではっきりと見えた。
それは地上に着弾すると輪が拡がり、光の壁を生みながらマグマの湖一帯を駆け抜けた。
一拍おいて、光は消え去り代わりに白いオーロラの様なものが一帯の空に広がった。
『探知が完了いたしました。聖剣は健在です。しかし、九割以上が破損し、機能停止に陥っています』
「九割以上が破損って、もう剣として使えないって事か!?」
『いえ、聖剣ステラはただの剣ではなく様々な機能を持つ決戦兵器です。その機能の一つに自己修復機能があります。機能停止に陥っていますが、強度強化術式の展開を確認しました。灼熱の環境に耐える事に全能力を集中させているようです。この機能が残っている以上、機能そのものが完全に失われた訳ではありません』
「なら良かった…」
聖剣は失われていなかったのなら、後はマグマが冷えたら万事解決の筈だ。
溶岩に埋もれていたら見つけ難いが、世界の命運を握る程のものであるから、きっとあらゆる手段を使って見つけ出されるだろう。
『いえ、強化強度が十分ではありません。また強度強化を維持する為にリソースを消費し続けています。現状ですと、百パーセントの確率で聖剣は失われます』
全然良くなかった!
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