天空14 魔王大戦
黒き豪炎を悪魔の形にした様な巨人。
「あれが、魔王!? じゃあ街を燃やしたのも!?」
『ノイズを生み出している街から放出されている魔力のスペクトルと魔王の魔力スペクトルが一致しております。魔王による結果と見て間違いありません』
「一瞬で街を壊滅させたのか!?」
『その可能性が一番高いかと。観測範囲が現在よりも広範囲であった時点では、健在であったのは確認しておりますので最大でも八分程度の時間で破壊されたのは確実です。ノイズの発生時刻や規模から考えますと、実際にはおそらく一撃で破壊されたかと。方向的に、この現代最大の都市から神殿の街への援軍が出された事も考えますと、察知出来ないほど急速に奇襲を受け壊滅した可能性が最も高いです』
まさか、大きな街が一撃で焼け野原、いやそれどころでは無いマグマの広がる死の大地に変えられてしまうとは……。
魔族の時点でその力に驚いていたが、魔王はそんなものじゃない。
天災としか言い様がない力だ。核兵器だって破壊範囲は広いかも知れないが、街を吹き飛ばせても灼熱したマグマに変えることは出来ないだろう。
「って、現代最大の都市って言った!?」
『はい、残念ながら魔王によって破壊された街は現代最大の規模でした。規模のみならず魔法技術等も秀でていましたが、魔王を止める程の力は無かったようです』
じ、人類、さ、最大都市が、一撃で壊滅した……。
「こ、ここは大丈夫!? 逆探知とかされない!?」
『魔王のエネルギーから推測するに、あの程度の魔王に天界を観測する力は無いと考えられます』
「あ、あの程度……、もっと強い魔王がいたんだ……」
この異世界、ヤバ過ぎる。
魔王軍が居るいないに関わらず、地上に降りられるようになってもずっと天空にいようかな。
心を熱くする前に肝が凍結してしまう。
「と言うか、魔王軍ってこんなにド直球で最大都市に攻めて来るの?」
『いえ、私が記録している中では今回が史上初めてです。そもそもこれは急な侵攻では無く、魔王大戦末期の可能性もあります』
「えっ、もう終盤なの? 俺、召喚されたばかりなのに?」
『確かではありませんが、魔王が弱い事を考慮しても率いる魔族の数が少なく、元々負傷している個体も多く観測できます。人類側も戦力が相当少なく、やはり元から負傷している戦士が多く存在しておりました。既に戦い続けた後である可能性は高いかと』
「戦いの終盤で勇者を召喚するな……」
普通、序盤で召喚するだろう! 序盤で!!
ゲームなら無理ゲーだ。
チュートリアルで魔王がこんにちは。誰がクリア出来る!? 百万本売れて一人百時間プレイしても誰一人先に進めないわ!!
せめてもっとチートを寄越せ!
適応からの光合成で何が出来る? 戒名を考える時間も残らないわ!!
このままだと、地上に降りられ無いどころか、この世界唯一の人類になってしまいそうだ。
地上に降りてもなんの意味も無い。
降りるイコール飛び降りと結果は変わらない事を無視しても、残るは死の大地のみ。
俺、本当に何しにこの世界に来たのだろう……。
『まだ、希望は残っています。最大都市は壊滅しましたが、その戦力は最大都市から神殿都市に移動しています。魔王が使った力の消耗も考慮すると、勝算は残されています』
確かに、攻撃を受ける前におそらく主戦力は街を出ていた。
だからこそ、容易く陥落したというのもあるだろう。
ならば、勝算は残されているかも知れない。
現に、生き残った戦士は惨劇を引き起こした魔王に怯まず超速で突っ込んだ。
一条の光となり、魔王を穿かんと進む。
対して魔王は片手で握り潰すとする。
炎の様な闇と戦士の纏う光が衝突し、激しい衝撃波が生まれ融けた瓦礫を吹き飛ばしてゆく。
魔王は空いている片手で戦士を今度こそ握り潰そうとした。
しかし、マグマの中から飛び出した全身火傷の瀕死の戦士、おそらく都市の生き残りが大剣で弾いた。
奇襲という事もあってか、弾かれた魔王の左手には大きな傷が。
だが、大剣の戦士はそこまでだった。
左手を弾いた反動で自身も大きく吹き飛ばされて巨大なクレーターを作った。
戦士は動かない。
再び魔王は左手を動かす。
が、それも天から降り注いだ光線に弾かれた。
魔王はそれを防ごうとするも、左手の傷が大きく白い炎で燃え上がってゆく。
光の元を見ると、そこには大勢の魔術師や神官達。
魔族の攻撃から戦士達に守られた彼ら彼女らは、魔族に目も向けず戦士達を信じて一心に魔法陣を展開し光線を維持していた。
徐々に老けてゆく、おそらく自らの命を代償にしているのだろうが、決して手を緩めず倒れるまで術を行使した。
一人、また一人と倒れるも、街中から魔術師や神官が駆け付け、維持に加わってゆく。
それに合わせて戦士達も彼等を守りながら魔法陣へと集結した。
魔族もそこを狙い集結。
魔族を阻むため更に街中の戦力が魔法陣が展開された神殿へと向かう。
誰もが命を賭け、命を投げ出して魔王を、魔族を阻み討ち倒さんとする。
「スカイコア、この光景、記録出来るか」
『はい』
「例え結果がどうなってもこの戦いを忘れてはいけない。例え人類が滅んだとしても、確かに人類は最後まで絶望に抗ったんだと遺すんだ。俺の負荷は考えなくて良い。全力で遺せ」
『……畏まりました』
魔力の消耗が激しくなった。
命そのものに関わる力、生命力も吸われているのが分かる。
俺に出来るのはこれくらいだ。
だからせめて、これくらいはさせてもらおう。
光合成に集中しながら、必死に耐える。
集中しつつも決して戦いから目を逸らさない。
一条の光となった戦士にも限界が訪れつつ有る。
光が最初の時よりも明らかに衰えていた。
だが、その稼いだ時間で幾人もの戦士達が辿り着いた。
魔王に全力攻撃を仕掛けてゆく。
そして怯んだ隙に光の戦士は離脱する事に成功する。
だが、援軍は次々と倒れてゆく。魔王から発せられている炎の様な闇に侵蝕されているらしく、殆どが特攻になってしまっていた。
それでも大きな傷は広がってゆく左手のもののみ。
大剣の戦士と光の戦士は別格の力を持っていたようだ。
だが、大剣の戦士はもう居らず光の戦士も膝をついている。
そんな光の戦士の元へ、周辺から莫大な光が集まって来た。
見ると、周辺の人々が新たな魔法陣を展開し光の戦士へと力を送っていた。おそらく、自分達の生命力や魔力で光の戦士を回復している。
再び立ち上がった光の戦士は、一条の光となり剣を振り下ろした。
魔王がそれを無理矢理動かした両手で受け止める。
だが、まだ足りない。
魔王も全力を尽くし、闇を解放すると一挙に光の戦士が押された。
また、周辺の援軍が闇に呑まれ倒れてゆく。
だが周辺の戦士達は倒れるも、その直前に全てを光の戦士に託した。
回復の為に力を送っていた人達も、更に残りの力を光の戦士に託しはじめた。
戦士のみならず、避難していた一般人と思しき人々も魔法陣の輪に自ら駆け付け全てを託し、倒れてゆく。
周辺の街の全てでそのような事が起きた。
光の戦士は泣きながらその託された力が込められた剣を振り下ろす。
それでも、まだ足りない。
王冠を被った援軍全体を率いる人物が豪華な杖を掲げ何かを大声で言い続けると、周辺全ての人々が祈る様な姿勢となった。
そして光となり消えてゆく。
最後に王冠を被った人物も光に変わると、膨大な光の流れとなって光の戦士に注ぎ込まれた。
光の戦士は泣き叫びながら再度剣を振り上げ、再び振り下ろす。
画面全体が光に呑み込まれた。
画面越しでなくとも、地上の激しい光が確認できた。
光が収まると、光の戦士の姿は既に無く、街も何もかも全てが消し飛び、広大なマグマの湖となっていた。
そして、魔王の姿もどこにも無かった。
人類は魔王に勝ったのだ。
だが、代償は大きく、戦った戦士達は全滅。
周辺の街すらも消失していた。
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