天空13 魔王降臨
街の被害は次々と着弾する魔族の攻撃によりあっという間に広がった。
活気が溢れていた通りには未だ逃げ惑う人々、日本ではテーマパークにしか無かった美しい西洋風の街並みは攻撃の度に瓦礫へと変わってゆく。
如何にも頑丈そうな金属鎧を身に纏った戦士達も、魔族の攻撃に飲み込まれれば簡単に吹き飛び、時には姿すらなくした。
一方、魔族の中で脱落者はまだいない。
数が倍以上、桁の違う戦士達から集中攻撃を受けてもほとんど効いていなかった。
多くの矢は魔族が纏う結界を破る事も叶わず、大半の矢は傷を付けられていなかった。
そもそも多くの戦士達が使える弓、数の力が効いている様子が無い。
まともに戦えている様に見えるのは街の中心部、神殿がある一帯。
ここは戦士の数が他の何倍も多く、質も高かった。
装備からして豪華であり、街中に広く居るのが兵士や冒険者なら、神殿付近にいるのは騎士や神官。
装備に見合うだけの力も持っているようで、どの攻撃も常人では再現不可能な力が込められていた。
矢は光を纏い、銃弾並みの速度でもはや別物。
射線上に吹き飛んで来た瓦礫の塊、石材を容易く穿ちそのまま魔族へと突き進むと言う矢としては破格の、とんでも無い威力を秘めていた。
全員が同じ力を持っている訳でもない様だが、魔族としっかり戦えている。
魔術師の魔術も他とは威力も規模も違い、魔族が放っている攻撃には劣るものの、石造りの建物を一撃で倒壊させるような術を次々と放っていた。
二十人近くが同時に放った火球は魔族の攻撃と正面からぶつかり合うと潰れる様に爆発し、完全に受け止めると勢いを落しつつもそのまま突き抜け、魔族を呑み込んだ。
別の場所では、五人程の魔術師が魔法陣を構築して上空に光を放つと、光が雷へと変化し一気に上から魔族を襲っていた。直撃した魔族は結界を張るも地上に叩き落され、大きなクレーターを作る。
ただ、どこの戦いも魔族一体に対して魔術師は複数人。基本スペックは人間の中の精鋭でも魔族には届かないらしい。
一対一で戦えている人は今の所いない。
魔族が魔術で地上に墜落したり、自ら降り立つようになって来ると、地上戦も展開させた。
目で追うのが難しい速度で騎士達が駆け付け、斬り込んでゆく。
だが、肉体性能も魔族が上のようで、人側は大人数で攻めても中々倒せすにいた。
時と共に騎士達は倒れ、劣勢になってゆく。
どの場所でも基本は同じだ。
人も決して弱いようには見えない。
誰もが世界トップレベルのアスリートでも不可能な動きをしているし、踏み込みだけでも石畳を砕き、吹き飛ばされ建物を倒壊させても再び立ち上がる超人だ。
それでも明らかに押されている。
剛速球並みの速度で飛びし、そこから更に速く力強く振り下ろされた剣は武器も持たぬ素手で払われ、魔族には僅かな傷しか残っていない。
その傷もすぐに塞がってしまう始末。
一方、剣を正面から払われた騎士はそれだけで砲弾の様に吹き飛ばされ、道を砕きながら建物に衝突、それでも止まらず壁や柱を幾つも破壊し、やっと止まっていた。
騎士達はそれを前提に、防御が不可能な数の攻撃を仕掛け、無防備な部分に攻撃を叩き込む事で何とかダメージを与えている。
つまり、ほぼ決死の攻撃しか効いていない。
ダメージを与える度に、人類側は多くの犠牲者を出していた。
吹き飛ばされてもまだ動ける人も驚く事に多いが、戦線に復帰出来る状態ではない。
それでも魔族を倒す為には戦力が足りず、無理矢理動き、また再戦して征く。
ファンタジー世界らしく回復魔法も存在する様だが、即座に完全回復出来る訳では無く、ダメージが溜まり倒れてしまう人も続出している。
そもそも、魔族の動きを止めるまでに甚大な被害を出していた。
上空から放っていた魔法は一発防ぐ事に成功しても、一回防いだだけで幾人もの対抗した戦士達が疲労困憊に。
正面から防ぐのは最後の手段となっていた。
攻撃をさせない為に、捨て身の攻撃を繰り返し、幾人もやられ、それでやっと攻撃から防御に移させる事に成功している。
まるで、生身の人間が何の武器も持たずに大熊に挑んでいるかの様な戦力差があった。
それでも、数の力で何とか対抗している。
そうして幾人もの戦士達が犠牲になりながらも時間を稼いでいると、突如魔族への攻撃が増えた。
上空から魔術による爆撃を受けたり、凄まじい威力の光る槍に貫かれたりと、拮抗していた力が一気に人類側に傾いた。
攻撃の元を見るとそこには軍勢。周辺の街から駆けつけたらしい。
軽く見ただけでも、援軍は街に元々いた人達よりも多そうだ。
加えて、一人で魔族と戦えるような強者もいて、精鋭が多かった。
巨大な神殿があり、俺を召喚したらしき魔法陣なんかもある特殊で規模の大きい街のようだが、やはり首都の方が多くの戦力を抱えていたらしい。
これなら、何とかなりそうだ。
まあ、何とかなりそうでも、あの街に召喚されていたとしたら地獄でしかなかっただろうが。
やはり、地上に降りられなくても天空島に召喚されて良かったと心から思う。
うん、俺に勇者は向いていない。
地上に降りる事が出来たら、勇者である事は隠してハーレムライフを目指そう。
知識無双で資金を稼いで、美少女奴隷でも買おうかな。
と言うか、奴隷制度あるのか?
無いのならピンチを助けるのが王道だが、あんな魔族みたいな脅威がいる状況ではハードルが高い。
多分、魔王軍に所属する魔族はトップレベルに危険な存在なのだろうが、その魔族に一蹴されている戦士の動きも出来る気がしない。
うん、安全第一。平和に知識無双で稼ぐ方針で決定だ。
だが、戦う気が無くても、魔王軍に攻められる可能性があるのは恐すぎる。
もし、勇者を見つけ出す術でも存在したら一巻の終わりだ。
今回、街が襲われているのが勇者を排除する為で有るのなら、確実に終わる。
いや、俺のいない街を襲っていると言う事は、勇者の発見方法は無いのだろうか?
『勇者を探知する方法は存在します。同時に、隠す方法も存在しております。現在は遥か上空にいる為、探知は困難を極めます』
うん、街に降りるのは、当分よそう。
「その隠す方法って?」
『隠蔽系スキルや魔術、魔道具など様々な方法が存在します。ただ、魔王軍級の相手に対しても有効なものとなると、スキルしか有りません。魔術を用いますと、気配を隠さても魔術を使用している気配が漏れてしまいますので、街中等では不審がられ警戒されてしまいます。そこから厳戒態勢の軍に取り調べられる事になれば、用意に正体が露見します』
もう、魔王軍がどうにかなるまで地上には降りない方が良いかも知れない。
何にしろ、隠蔽系スキルの獲得は絶対条件だ。
そのスキルが有ってもレベル1じゃ心許ないだろうし、これは時間がかかりそうだ。
そもそも、何時になったら地上に降りられるようになるのかも分からないが……。
「参考までに、魔王を探知する方法は?」
『勇者の探知法と同じく存在し、方法も多くは近しいものです。気配の隠蔽が行われていなければ私にも魔王の探知は可能です』
「そんな事まで出来るんだ」
『魔王軍に対する人類軍司令基地として造られましたので』
寧ろ、魔王の探知は十八番らしい。
「じゃあ、今どこに魔王がいるか分かる?」
『今、映している範囲内に魔王がいるかの判別程度でしたら可能です。世界中を監視する為には別途莫大な魔力が必要となります。そして現在光学情報を観測している範囲からは魔王の反応を得られていません』
魔王は襲撃に参加していないようだ。
やはり、威力偵察が主な目的だったのかも知れない。
だとしても、魔王軍がいる限り地上に降りたくないが。
そんな事を思いながら戦況を見守り続けていると、突如映像が乱れた。
「まさか、逆探知されてここがバレた!?」
『いえ、おそらく観測範囲において大規模な魔力の乱れが生じています。ノイズに偏りがある為、大規模な魔術等が使われたと考えられます』
言われてみれば、確かに若干だがノイズがグラデーションみたいになっていた。
ある方向に行くほど乱されている、つまりその方向にある場所で大魔法が使われたという事だろうか?
「でも、今までも大魔法でドンパチしていたけど、ノイズは無かったぞ?」
『あのレベルでは観測結果に影響は有りません。今回使われたのは、土地の魔力が乱れる程の大魔法であると考えられます。ただ今、ノイズ中心の観測結果を映します』
ノイズが酷くなる方向に映像は動いて行き、やがて固まりかけの溶岩のような景色が映し出された。
あまりにノイズが酷い為、かなり大雑把にしか判らないが、全面的に色は同じなのでおそらくは噴火した火山かなにかだろう。
火山雷のようなものも随所に見られるし、煙も出ている。特徴的には火山で間違いないと思う。
『観測強度を上げノイズの除去を試みます。これは――』
ノイズが晴れてゆく。
そこにあったのは火山ではなかった。
そこにあったのは街。
いや、街だったもの。
融ける程の熱で焼かれた街がそこにはあった。
そして燃え盛る街の中央には禍々しい巨人。
『魔王を観測しました!』
魔王が、そこにいた。
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