天空12 聖都の出来事


《熟練度が条件を満たしました。

ステータスを更新します。

アクティブスキル〈土属性魔術〉を獲得しました》



土属性魔法の練習、と言うよりも工作を続けている内に、本来の目的であったスキルを獲得した。


それに伴い工作が少しスムーズになる。

だが、少しでしかない。

多分だが、スキルの対象範囲よりも石質を変えるのは難しい技術だったようだ。


工作は何時までも続けられるが、それ故にタイミングを逃すと日が暮れてしまいそうだ。

目的は達した事だし、次の魔法の練習に移る。

まずは広く浅く、魔法自体に慣れた方が初心者には良いだろう。


「次のおすすめ魔法は何かある?」

『風属性魔法がよろしいかと。火属性魔法は危険が伴いますので』

「じゃあ、それで」

『畏まりました。風生成魔法のスクロールを生成いたします』


生み出されたスクロールを使い、早速練習を始める。


土属性が難しかった反動か、もしくは三属性目だからか割とすんなり自力で使えるようになった。


問題が有るとすれば、今一使っている実感が湧かないこと。

水や土とは違い見えないからあまり感動が無い。そもそも、風は魔法が無くても幾らでも起こせるしな。

魔法って感じがあまりしない。


魔法を使い続けながら、地上の景色を観察して時間を潰そう。

集中しないとスキルの獲得に時間がかかるかも知れないが、最終的にスキルが身に付けば問題ない。


さて、何かファンタジー世界っぽくて面白いものでも無いだろうか?


そう思っていると、映していた真下の街の景色が一瞬光った。


「おっ、もうちょっと映す範囲を拡げて」

『畏まりました。表示範囲を拡大いたします』


景色がより高度から見たものへと変化してゆく。

すると、黒紫色の光球が流れ星のように落ち、光る亀裂の様なものを街の上空に生み出す光景が見えた。

それも更に見える範囲を拡げてゆくと、街の上空の複数箇所で同じ光景が生まれていた。

しかも何回も起き続けている。


「これは、この世界風の花火か何か?」

『いえ、おそらく街が襲撃を受けて展開されている結界が破壊されている光景です』

「えっ!?」


言われてみれば、確かにそんな風にも見える。


観察範囲を拡げてズームアウトしたから詳細は殆ど分からないが、よく見れば人の動きも何やら騒がしくなっている気がする。

この尺度でも見える大きいものの動きでは、急に馬車とかが止まっているのが確認できた。


「これ、もう少し範囲はこのままで解像度上げられない!?」

『再び溜まったスカイポイントがございますので、そちらを消費すれば可能です』

「じゃあ、それで!」


慌てて指示すると、範囲はそのままでスクリーンの大きさ自体が拡がってゆく。


ギリギリ人の動きも分かるくらいの解像度になる。

やはり、逃げ惑っているように見える。屋台をやっていたと思しき人や、何かを作っていたらしい働いていた人達もそのままの格好で駆けており、武装した人達が何やら誘導している。

非常事態に間違いない。


スカイコアの言う通り、街は襲撃を受けているのだ。


「何で襲われているのか分かる!?」

『只今、スクリーンに映していない物理的観測所により調査中です。判明し次第、新たなスクリーンにより映し出します』


今、回復している魔力もスカイポイントとして使い観測所の強化に使っている様で、徐々に解像度が上がってゆく。


そうだ、もっと魔力の回復速度を上げて解像度をあげてもらおう!


風属性魔法の練習を止め、アイテムボックスからしまっていた水差しを出すと魔力が豊富な水を出して、光合成に集中する。

すると、解像度の向上速度が上がった。


人の表情も見えてくると、もはや非常事態なのは疑いようも無い。

それも、かなり深刻な事態が発生しているようだ。誰もが必死で、慌てている。

ファンタジー世界だから良く起こる何かが発生したのでは無く、異世界でも想定外の何かが発生している様に思える。


『襲撃者が判明いたしました! 魔族です!』


その言葉と同時に、新たなスクリーンが現れる。


そこに映し出されていたのは角を生やし、紅い瞳に白目の部分が黒い存在。

角と目以外は人間と同じ。いや、美形でもありどこか作り物じみている。


これが、魔族らしい。


そんな魔族が黒紫の光球を雷を集める様に生成して結界に向けて投げつけていた。

衝突で激しい光が生じた後には、ひび割れる結界。


『街は魔王軍の襲撃を受けています!』


あれが、勇者としてちゃんと召喚されていたら戦う事になっていた相手。


「と言うか、ちゃんとあの街に召喚されていたら、今頃あの戦いに巻き込まれていたんじゃ……」


非常事態に少し興奮していたが、今は背筋が凍る思いだ。


『マスターの召喚を行ったからこそ、襲撃を受けている可能性は十分にあると考えられます。召喚場所はズレましたが、儀式自体には成功しておりますし、勇者が弱い内に狙うのは理に叶っておりますので』


召喚されてすぐに魔王軍と御対面……即御陀仏コース……。

強制スローライフな異世界生活を今は過ごしているが、正規ルートが実は超ハードモードな異世界だとは思いもしなかった。


「戦況は?」

『現在、街の結界はどこも破られておりません。しかし、結界の強度を推算したところ、後数分も保たないと考えられます。ただ、あの結界は規模から龍脈の魔力を流用しており、人類側の魔術師達に消耗は無いと考えられます。一方、魔族は攻城兵器級の魔術を発動しており、魔力の消耗が激しい筈です。この戦いは、防衛側の有利で進むでしょう』


なら良かった。

それでもあの街にいるのは御免だが。


『加えて、あの街は観測結果からしますと現世界最大の国家、その中でも有数の大都市です。周辺の街も発展しており、戦力が充実していると考えられます。魔族の力量も千年前に観測した魔族よりも弱く、魔王軍の目的としても、勇者を倒す事が目的ではなく威力偵察、もしくは威嚇行為なのかも知れません』


魔族が弱い風には全然見えないが、千年前を知ってるスカイコア先生からすると弱いらしい。

普通に召喚されていたら、あれが弱いと感じるような敵と戦う予定だったんだ……。


そんな風に思っていると、遂に結界の一部が破られた。

結界を突き破った攻撃は三階建くらいの建物に直撃し爆発、光が収まるとその周囲ごと薙ぎ払い爆心地は粉々、その周囲には大きな石材の転がる瓦礫の山になってしまった。

グラウンドのような広さがたった一撃で廃墟に。


それ続いて結果は破られ始め、同規模の被害が街に広がった。

これで、弱い? 千年前の魔族とは、一体?


だが、街の人達も黙ってはいない。

多くの兵士達が空に矢を放ち、魔術師達は火球を放ったり土の槍を放つ。

場所によっては設置型の巨大な弓、バリスタから建物の柱程もある槍が放たれ、次々と魔族に向かう。


スカイコア先生曰く、人類側の有利。

つまり、魔族以上の力を街の人達は持っているらしい。


一体、どの様な戦いになるのだろうか。

人類優勢という情報が有っても強さの基準が全く分からず気が抜けない。


だが、ここで思わぬ情報が入って来た。


『訂正します。人類が不利かも知れません』

「えっ?」

『魔族と同様に、人類の力が千年前よりも弱まっています』

「…………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る