天空11 現代文明
街を複数確認したというスカイコア先生の報告が始まった。
『まず千年前と比較し文明の衰退が確認出来ます。監視魔法の干渉感度から殆どの街において魔術の使用を確認出来ませんでした。個人規模では判断出来ませんが、大規模な建造物に魔術は使用されていないと考えられます。
千年前は殆どの建造物に魔法技術が用いられておりましたので、大幅に魔法文明が衰退したと推察いたします』
千年前の実物を知らないから何とも判断しにくいが、技術レベルが下がっているらしい。
『しかし、人口や街の規模、開拓範囲等は千年前の最終局面よりは回復しております。総じて、おそらく千年前は勝利したも文明の引き継ぎが困難なレベルまでの犠牲を払ったと考えられます』
「そこまで回復しているって事は、今は魔王軍的なのはいなかった?」
『そちらについては現状判断しかねます。破壊され荒れた街等も数多く確認しておりますが、現文明レベルの街では通常の魔獣に陥落させられた可能性があります。
少なくとも魔王軍と考えられるレベルの瘴気反応は確認出来ておりません』
今の所、魔王軍的な存在はいないらしい。
となると、俺は何故勇者として召喚されたのだろうか。
これから出現するとか?
「じゃあ、俺を召喚したのは誰か見当はつく?」
魔王軍よりも探しにくいとは思うが、一応駄目元で聞いてみる。
『おそらく現在最も繁栄しているこの国家であると考えられます』
まさかの見当がついていた。
しかも画面に映し出された場所は、最初に観測所を造ってから見た街だった。
『建築様式や往来の人々の服装などから大雑把に推定した国家の中で最も大きい国家、その中で最も大きな宗教的建築のある都市です。
この天空島の直下にあり、魔力濃度も高く儀式後の状態と似ております。
勢力規模、立地共に最も有力であると考えられます』
「真下に不自然に魔力が多い最も繁栄した国の神殿があるのなら、確かにここかもな」
映された街をよくよく見てみると中央付近に大きな神殿があった。
自然に囲まれていて、最初に見た時は街の外かと思っていたが、この神殿とそれを囲む自然を大きく囲むようにして街は造られていたらしい。
神殿の最奥部、神殿群の中心には十二本の柱が立ち並ぶ祭壇があり、何やら画かれた術式が青白く発光していた。
多分、本来はそこに召喚される予定だったのだ。
しかし天から降ってくる様に召喚されたのを、この天空島でキャッチされてしまったのだろう。
そう考えると、どう召喚されたかについては特に疑問も残らない。
最大の問題はやはり、何故喚ばれたかになるが、この国を監視していればそれもその内分かるだろう。
「暫くはこの国の監視をよろしく」
『畏まりました。重要な情報が手に入り次第、お伝えいたします』
情報収集も一段落がついたので、魔法の練習を再開する。
とは言っても、水はずっと動かし続けていたのだが。
「ずっと水を動かし続けて来たけど、どこまでやれば次の段階に進める?」
『現在の段階で私がお教え出来る方法では最終段階です。続ければ続ける程、魔術は上達してゆくでしょう。後は、必要に応じてスクロールにより実用的な魔術の感覚を覚え、実際に使い続けるのみです」
スカイコアによる効率的な魔法訓練法はこれで最後らしい。
後は他のものと同じく、熟れ続けるしか無いようだ。
「じゃあ、まずは他の属性の練習をした方が良いかな」
水属性の魔術を色々と試すのも良いが、水ばかりでは地上に降りた時の武器として心許ない。
それに、大きく異なる魔術を使った方が、より多くの感覚を掴めるだろう。
『では、土属性魔法をオススメいたします。風属性では目視による感覚が掴み難いですし、火属性は危険が伴いますので』
「じゃあそれで」
『畏まりました。こちらは“クリエイトロック”、土属性魔法の中で最も基本的な岩石生成魔法のスクロールになります』
“クリエイトウォーター”と同じ要領でスクロールを使う。
すると拳大の石が虚空から現れ、地面に落ちた。
発動した感覚を頼りに自力での発動を試みる。
しかし上手くいかなかった。
水魔法の感覚は身につけたが、違う属性では感覚や操作法が異なっているらしい。
ただ、水属性魔法の練習は土属性魔法でも無駄という訳ではないらしく、スクロールで何度か感覚を覚えると、水属性魔法の時よりも何倍か早く自力で使う事に成功した。
自分で発動出来る様になると、今度は生み出す石の形状の操作を試みる。
液体と固体の違いか、求めた形状で生成する感覚は水属性と大きくは変わらないが、生成してから形状を変える感覚は大分違う。
石の硬さが魔力操作の動きを阻害するのか、中々重い通りの形になってくれない。
だが、作ったものの形が残り続けるので、工作をしているみたいで面白く、操作が難しい分だけやり甲斐がある。
皿にコップ、壺や水差し、次々と思い通りの形になった。
色々試すと生み出す石の質もある程度変えることができ、大理石の様な素材で作られた小物も作れる様になってゆく。
売り物に比べたらまだまだであるが、十分に使えそうだ。
試しにトロフィーの様な大きめのカップを作り、水を入れてみる。
おっ、ちゃんと漏れてない。
でも、少しずつ水が濁っている。
触ってみると、指に少し泥が付いた。
あくまで形だけで、石を削って作ったカップと何ら変わらないらしい。
濡れた石を触った時と同じ感触だ。水によって崩れてしまったのだろう。
漏れてはいないが全体的に湿って来た気がする。
普通の石で駄目なら、大理石っぽい材質で作ったら良いのだろうか。
そう思い大理石のカップを作って水を入れる。
やはり水が漏れたりはしない。
問題は触った時の感触。
うん、さわり心地も大理石っぽい。
砂っぽい感じも泥っぽい感じもしないし、水も見た感じ濁っていない。
これなら十分、実用できる。
しかし、石の質を変えるのは水を動かしたり、石の形状を変えたりするのと比べると桁違いに難しい。
魔力操作はより複雑になるし、魔力の消費が段違いだ。そしてイメージを集中して行う必要がある。
まあ、売るわけでも無いのだから沢山作っても意味はなく、実用的には難しくても全く問題無い気がするが。
戦闘に使うにしても、石の硬さなどは質を変えずとも圧縮したりすればどうとでもなる。態々大理石にして攻撃する必要は皆無だ。
売るにしろ、戦うにしろ、まず地上に降りる方法が無いのだが…………。
暇つぶしに工作するには、土属性魔法が一番良いかも知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます