天空10 地上世界
千年前の魔王城の所在地、そこは火山の火口にできた巨大なカルデラ湖に見える地形であった。
しかし同時に、その湖の面積はおおよそ3万平方キロメートルと、琵琶湖の50倍近い広大なものでもあった。
おそらくカルデラ湖では無い。
ただ見事に山に囲まれ一つの山の様に見える不思議な地形だ。
「魔王城ってあの湖のどこにあった?」
『千年前は湖自体が存在しませんでした。湖周辺の地形も記録とは異なります。観測範囲を広げた地形は多少の差異はありますが千年前と変化ありませんので座標的には正しいですが、周辺環境も含めて大きく変化しております。
千年前の魔王軍の拠点は、現在の湖の中央付近の座標に標高五百メートル程度の岩山があり、その頂上に塔の形状で存在していました』
魔王城のあった場所は岩山ごと消失しているらしい。
これでは、千年前に何が起きたのか余計に分からなくなった。
少なくとも、今はそこに魔王軍がいないという事しか判断出来ない。
「せめてこの場所の近くに人の街があれば、住めるぐらい今は安全なんだろうって分かるし、魔王軍がいたら魔王軍が千年後の今も優勢だってわかるんだけど」
湖の周辺、それを囲む山脈の付近にも人工物は見当たらなかった。
『現在では、どの勢力も付近にいないと考えるのが妥当でしょう』
「単純に草とか少ないし、荒野だから?」
『現状、その可能性が最も高いと考えられます。そしてその原因として魔力の枯渇が考えられます。
千年前、あの一帯は豊穣な土地でした。そしてその豊穣な土地を生み出していたのはあの地域を通る龍脈からもたらされる豊富な魔力です。だからこそ、魔王軍に真っ先に落とされ拠点となったのです。
今は、観測魔法の反応から殆ど魔力を感じられません。何らかの理由で魔力が枯渇し、現在の状況になったのかと』
異世界では、豊穣とかそういう部分も土の質とか養分ではなく魔力が関わってくるらしい。
魔力が枯渇すると人も魔族も住めない土地になってしまうようだ。
「魔力の枯渇で何もいないとすると、魔王軍がどうなったのか判断出来ないな。ただ引っ越しただけかも知れないし。
そもそも魔力の枯渇はどうやったら起きるんだ?」
『魔力の枯渇の原因は不明です。元々量が限られており何れ無くなる、自然界のバランスが崩れたら流れが変わるが絶対量は変わらないなど、様々な説がございます。
急激に無くなる例は私の記憶上、観測例がありませんが、千年前もの時が流れておりますので、枯渇していても然程不思議ではありません』
となると、魔王軍そのものがどうなったかについては、まるで関係ない可能性が高いという事か。
「そうだ、人の拠点だった場所はどうなっている?」
『当時、最後まで抵抗し最も規模の大きかった人類の拠点、【白の古都アミアンベル】は魔王軍の拠点より西方五百キロメートル付近に存在していました』
「そんな近かったの?」
『はい、魔王軍が拠点とした【黒鉄の要衝バラディオン】を奪われたのは人類が追い込まれてからです。当時主要国家は大陸中央部に集中しており、大陸の沿岸部から人類は追い込まれ、残ったのがアミアンベル及びその周辺都市、周辺国家です』
かなり劣勢だったらしい。
『ただいま、その座標を映し出します』
映し出された場所、そこは荒野だった。
乾き固まった土の荒野。
全く雨が降らないという事も無さそうなのに、殆ど草木が無い。
他に特徴的な事として、周囲と異なり白っぽい石が散乱している。
上空からの映像で、そこまで解像度が高くない為、確かなことは言えないが、その白い石が人工物の破片に見えなくもない。
確かに言えることは、その都市は今や滅んでいるという事だけだ。
これも千年という時の経過を考えると、何が起きたのかは分からない。
「何か、分かった事はある?」
『アミアンベルが滅びているという事以外は、現状判断出来ません。これまでの情報を総合しても、人類の存在が確認出来た事、そしてマスターが勇者として召喚された事からおそらく魔王軍も存在すると考えられます。この事から判明しているのは人類が敗れていない事だけです。どう人類が現在の状態になったのか、魔王軍は千年前の魔王軍と同一なのか、どちらが優勢なのか。全てが不明です。今後、調査する必要があると愚考いたします』
予備知識のあるスカイコアでも分からないらしい。
しかしそうなると困った。
魔王軍との戦況、現在の状況は非常に重要だ。
俺が勇者として召喚された以上、直接戦う可能性が高い。
勝つ為には、場合によっては負けない為により多くの情報が必要だ。
例えば、魔王軍が千年前と同じなのか異なるのか、意味合いが大きく違う。
千年もの間、人類が勝てず人類を追い詰めた魔王軍と、ぽっと出の魔王軍、その脅威度は大幅に違う筈だ。
そして魔王軍との雌雄を決した情報は、勝敗に関わらず攻略のヒントになる。
それこそ、方法でなくともただ勝ったか負けたかの情報だけでもかなり大きい。
圧倒的な力が有れば話は別、ただ鍛えるだけで良いが、今の所、俺にそんなチートは無い。
使い方を知らない。
地上に降りて鍛える暇も無いかも知れない。あまりに危険だからこそ、ここに召喚されたのかも知らない。
ここは慎重に進むべきだ。
まあ、どんなに調べてもこれが空中からの情報収集の限界かも知れないが。
「継続的に調査を頼むよ」
『畏まりました』
「千年前の場所とかは原因究明が難しいって分かったから、現状把握優先で。今の人里の状況とか」
『では、観測場所をただいまより動かしてもよろしいでしょうか?』
「もちろん」
さっそく本格的な地上の調査が始まった。
が、観測結果は早く動き過ぎていて何を映しているか全く分からなかった。
『大雑把な調査は完了いたしました』
「えっ、もう?」
あれで何か分かったらしい。
処理能力が人間とは桁違いのようだ。
『街を複数確認できました』
「早過ぎない?」
『人里のおおよその位置は、昨夜明かりから推定しておりました。その座標の確認を行っただけですので、街の確認自体は完了いたしました』
処理能力が高いだけで無く、頼んで無くても昨日から効率良く調査を進めてくれていたらしい。
流石はスカイコア先生、とても頼りになる。
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