天空9 ステータスの効果
魔法の練習に熱中していると、気が付けば太陽が真上に昇っていた。
集中していると時間の経過が早い。
水魔法のスキルも獲得した事だし、一旦休憩でもするか。
ちょうど昼だしお昼休憩だ。
……昼食はないけれど。
加えて疲れてもいないが、精神的に休憩は重要だ。
魔法の練習を続けていてスカイポイントも溜まっていないだろうし、のんびりと光合成をしていよう。
『マスター、スカイポイントでしたら常に溜まり続けております。初級魔法の練習に用いられる魔力は極微小ですので』
「ちなみにどのくらい溜まってる?」
『おおよそ30万ポイントです』
「…………そんなに?」
『はい』
林檎3個分も溜まっていた。
あれ? そう考えると全然溜まっていない気も?
だが、土地換算だと10ポイントで1平方メートル、それが効率化したから5ポイントで1平方メートル。
つまり30万ポイントは6万平方メートル分のスカイポイントだ。100メートル四方が6つ分。
東京ドームが確か46755平方メートルだから、今あるポイントで東京ドーム1個分よりも広い面積を作れると言う事だ。
そう考えるととんでもないポイントだ。
ちょっとした城だって造れるかも知れない。
『城の建築を行いますか?』
「……いや、大丈夫」
城、当たり前のように造れるようだ。
「あっ、今なら魔法的な地上観測施設も造れたりする?」
『現段階で万全の機能を整える事は不可能ですが、ある程度でしたら可能です』
「それって一括でポイントが必要? 後付け出来ない?」
『後付けは可能です。しかし術式によっては書き直しが必要な場合もあるので、一括で造る場合よりも多少余分にスカイポイントが必要になります』
「それってどのくらい?」
『最大で三分の一程度余分に必要な場合がございます。全てが書き直しする必要がある訳ではありませんので、最終的に一割増し程度になるかと』
「それなら、そこまで高く無いか」
一割なら消費税だと思えばなんてことは無い。
どうせポイントは溜まり続けるのだし、問題はないだろう。
「じゃあ、魔法的な観測施設を造って。どの機能を先に実装するとかは任せるから」
『畏まりました。では、昨日構築した水晶の床に術式を刻む形で実装させていただきます』
そう言うと、目の前にモニターが現れた。
『まず始めに観測情報をどこからでも見れる機能を実装いたしました。物理的な観測所ともリンクしており、二つの観測所の観測結果を見る事が可能です。
モニターの表示場所、サイズは自由に変更可能です。複数のモニターを出す事も可能ですが、現状同時に複数の場所を観測する機能を観測所自体が有していない為、観測所の数、二つの観測結果しか表示出来ません。同じ観測結果でもよろしければ複数スクリーンも可能です。
ただ現段階で思考操作は実装されておりません。見る場所や倍率の変更、スクリーンの位置や大きさ等は私に御命令ください。私が操作いたします』
「じゃあ、試しに訓練場の柱と柱の間いっぱいにスクリーンを広げて」
『畏まりました』
すると指示通り、大型テレビ、家庭用ではないサイズのスクリーンが展開された。
尚、映された光景は航空写真みたいな、おそらくは真下を拡大しただけの風景だ。
拡大しないと地球とあまり変わらない様に見える。
「そうだ、千年前の魔王城的なもの、魔王軍の拠点の場所を映せる? それを見たら千年の間に何が起きたか大体分かるんじゃない?」
『それは名案です。監視魔法対策に物理的監視所により観測を開始します』
風景は大陸の中央辺りまで移動し、拡大が始まる。
まだ倍率が低いからか、ここも地球にあるような普通の風景だ。
そこにあるのは大きな湖とそれを取り囲む岩山。
上空から見ると一つの山と巨大なカルデラ湖の様にも見えるが、それにしては大き過ぎる気がする。
大陸全体が見える航空写真の段階から見えていたから、相当大きいだろう。
まあ、大陸だと思っていたものがただの島である可能性も否定出来ないが。そもそも地球よりかなり狭い可能性だってある。
「この世界の陸地面積ってどれくらい?」
『ここから大雑把に観測した情報によると、おおよそ2億平方キロメートルです』
地球が確か、陸地面積1億5000万平方キロメートルだった気がする。
だとすると、地球よりも広い。その分、海の面積が狭い気がするが、全体としては地球と同じくらいの面積だろう。
だとするとあの湖は相当広い。
「あの湖の大きさは?」
『おおよそ3万平方キロメートルです』
3万平方キロメートル、確か琵琶湖が670平方キロメートルだった気がする。
九州だって36780平方キロメートルだ。
途轍もなく大きい。
と言うか、何でこんなにスラスラと数字が浮かんで来るんだ?
俺、地理はそんなに得意じゃないのに。
「もしかして俺、頭が良くなっている?」
『それはステータスの知力の値が召喚前よりも向上しているからだと考えられます。知力100という値は一般的な成人男性のおおよそ10の値ですので。
単純に10倍頭が良くなる事はありませんが、記憶力などの後天的なものに関わらない部分は強化されます』
ゲームとかだと攻撃力とか防御力にしか目が行かないが、現実だと日常的にしっかり意味があるらしい。
となると、頭脳労働する人達もこの世界では魔物とかを倒してレベルアップしているのだろうか?
「日常的に魔物を倒している冒険者とかってこの世界ではインテリだったりする?」
『いえ、統計的には学の無い方が多いです』
「なぜ?」
『後天的な思考回路がおそらくは重要なのかと』
まあ確かに、パソコンの記憶容量が1テラバイトでも数百メガしか使わない人も、使っていても半分にも届かない人もいるだろうし、CPUのコア数が多くても全然並列処理をしない人もいるだろう。
特定の使い方をしなければ良いスペックのパソコンでも良いパフォーマンスをする訳ではない。
人でも意外と同じかも知れない。
アインシュタインは史上最高の天才科学者の一人かも知れないが、史上最高の頭脳を持つ人ではないだろう。
歴代最高と讃えられるスポーツ選手だって、歴代最高の選手であっても、最もそのスポーツに優れた人では無い。
人類全員が最高と呼ばれる人と同じ道を辿れば、それぞれ別の人間が最高と呼ばれるだろう。
あくまでもやっている人の内で最も優れているだけだ。
そもそもどんなに優れていても人間の域は超えられない。
例えば世界一速く走れても、小学生の走りと比べても十秒ちょっとしか速く走れない。
自転車一台持っている小学生の方が多分速く走れる。
世界一の記憶力を持っていても、多分丸一日の詳細な出来事は覚えていない。
スマホのビデオカメラがあれば寝ていようが詳細に記憶出来る。
計算能力だって、世界一の人と電卓を持った小学生とでは、より早く複雑な計算を出来るのを小学生の方だ。
人の違いとはその程度なのだ。
世界一の素質を持った人も、道具を持った小学生に簡単に負ける。
だが、言い換えればその程度のものでも使い熟せば誰もが称賛する天才と呼ばれる存在にもなり得るとも言える。
優秀な人とは、おそらく適材適所を見つけそこに就いた人だ。
アインシュタインにスポーツをしてもらってもきっと優秀な選手とは呼べないだろうし、スポーツ選手に科学研究させてもおそらく多くの場合は優秀な研究者とは呼べないだろう。
何なら世界一無能な人と呼ばれてしまう可能性すらある。
多分、今の俺がステータスを伸ばして世界一の記憶力とかを持ったとしても、スマホを手にしたのと変わらない、もしくは劣る程度の変化しか訪れないだろう。
ただ、勇者として召喚された以上、勇者としてどうにか活かさなければ。
ゲームのようなステ振りとかのキャラメイクは無いが、ゲームでは無い現実だからこそ最適なイメージが必要だ。
勇者が適材適所と評価されるような存在にならなければ。
でないと、この世界が終わるかも知れない。
誰もが世界一の天才を、何かを使い熟せれば簡単に超えられる以上、俺にもきっと勇者になれる筈だ。
……まあ、それ以前に全く地上に着く気配がないのだが。
それでも、やれるだけの事はやっておこう。
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