天空8 魔術習得
『それでは、実際に魔術を使ってみましょう』
二つのボールを自由自在に動かせるようになると、スカイコアはそう告げ魔法陣の刻まれた紙を召喚した。
「これは?」
『“クリエイトウォーター”、水生成魔法の術式が刻まれた紙、“スクロール”です』
「使うと込められた魔法が使えるやつ?」
「高位のスクロールはそのような事も可能ですが、このスクロールはそれよりも低位のスクロールになります。魔術が発動するのでは無く、魔術の発動を補助します。魔法陣に魔力を流してください」
言われた通りに魔力を流してみると、書かれた魔法陣が青白く発光した。
『後は詠唱を唱えれば発動します。この紙に書かれた呪文を唱えてください』
そう言うともう一枚紙を出した。
「…………読めないんだけど?」
『……マスターが異世界人である事を失念していました』
「日本語に出来る?」
『申し訳ありません。私は日本語を知りません』
言葉は通じていたが、やはりここは違う国どころか異世界。
見た事も無い文字が呪文には使われていた。当然、読める筈も無かった。
逆に言えば、言葉は召喚特典で通じていたようだ。
そこは文字もセットで理解出来るようにして欲しかった。
「呪文を唱えられないけど、どうしたらいい?」
『使い方を変更します。魔力を指に流して魔法陣をなぞってください。まずは全体を囲む円を時計回りになぞってください』
出される指示通りに魔法陣をなぞってゆく。
上からなぞって書くなど何時ぶりだろうか。文字の練習や塗り絵以来かも知れない。
指でなぞった部分はより強く発光し、やがて全てなぞり終わった。
『最後に、“クリエイトウォーター”と唱えてください』
「“クリエイトウォーター”」
魔法名を唱えると、魔力が魔法陣に流れて水が出て来た。
不思議と道具を介して発動した様なものなのに、どう魔力が流れたのか、どう発動したのか、その感覚が掴めた。
『このスクロールは魔術の発動の補助のみをするよう、術式を不完全なものにしておリます。その為、この魔術の発動は殆どマスターによって行われております。補助があるとは言え、マスターの力によって発動されている事から実際に魔術を発動したのと同等の体験が出来ます。続けることにより補助無しで発動出来るようになるでしょう』
見た感じはスクロールの力で魔法を使ったようだが、実際はほぼ自力で発動していたらしい。
自転車を押さえてもらって練習するのに似ているかも知れない。離されても気付かない様に、実は使えていたのだ。
「この世界の魔法って魔法陣と呪文で使うの?」
『魔術や術者によって発動方法は様々です。魔法陣と呪文が揃った場合、大魔法などでは儀式を全て行った場合の方が魔術の成功確率及び効力が向上します。しかし必須という訳でもなく、無詠唱で魔法陣無しに発動することも可能です。その為、魔法陣や呪文はあくまで発動の補助をするものであると考えられております』
使っても使わなくても良いらしい。
どちらも使わなくて発動出来るのなら、最終的にそれを目指した方が良いだろう。
しかしその為には練習が必要。今は地道な練習あるのみだ。
また同じスクロールを出してもらい練習を続ける。
尚、スクロールは一回使うと書かれた術式が消えてしまう仕様だった。
魔法陣をなぞって水を生み出す。
三回くらい繰り返すと、結構感覚が掴めて来た。
試しにその感覚を辿るように魔力を動かしてみると水が生成された。
練習あるのみとか言ったが、この魔法はだいぶ簡単だったらしい。
『水生成魔法の習得、おめでとうございます』
「ありがとう」
水を生み出すだけの魔法ではあるが、始めて魔法を覚えた感動は大きい。
今日一日、この魔法を使い続けたいくらいの気分だ。
『他の魔術も同様の手順で獲得可能です。しかしより高度な魔術を獲得するには魔術そのものに習熟する必要があります。
生み出した水を動かしてみてください』
「水を動かす? あっ、出来た」
生み出した水は俺の意志で動いた。
しかし自由自在とはいかない。
動かそうと思ったら少し動いただけだ。
だが、色々と試してみると、何となく動かし方が分かってきた。
『呪文や魔法陣はあくまでも補助と考えられているように、魔術の基礎は魔力で生み出し動かす事にあります。動きを最適化したものが現在魔術と呼ばれるものです。
ですので、既存の術を覚えるだけでなく、術として整っていない魔法を使い試行錯誤することで魔術の基礎を学ぶ事が可能です。
完成された魔術のみで学ぼうとすると、何がどう作用し結果をもたらすのかが分からず、工夫し自分の技とする事が難しくなりますので』
色々やってみると水を生み出す方法と動かす方法、形を変える方法と維持する方法などはそれぞれ別のやり方だ。
確かに完成された魔法、水を槍にして放つような魔法をいきなり練習しても、どこをどうすれば望んだ結果が得られるのか分からない気がする。
一つの魔法に慣れたとしても、次に覚えた魔法ではまた一から試行錯誤する必要もあるかも知れない。
魔法でも基礎を覚えるのは大切だ。
黙々と水を動かし続ける。
ある程度動かすのに慣れたら水の量を増やして動かす。
量が増えると難易度が上がる。
形を鳥にしてみたり、ドラゴンにしてみたり。
歪な形にしかならないが、これは技術の問題か美術センスの問題か。
ただやる毎に一歩一歩前進しているのを感じる。
球形など簡単な形にならほぼ思い通りに変形出来るようになった。
その水球を使ってお手玉の真似事も出来る。
一つ二つ三つと水球は増え、魔法でなければプロでも回せない程の数が既にジャグリングのように動いていた。
そんな事を繰り返し、どの操作が難しいのかも何となく分かってきた。
水を増やすとその分、動かすのに必要な魔力量も増え難易度は増す。
しかし二倍の量になれば二倍操作が難しくなる訳ではなかった。
まとめて同一方向に動かす、もしくは性質を変えると操作の難易度は二倍以下で済むが、バラバラに動かそうとすると難易度は跳ね上がる。
量や出力は魔力を増やす事でどうとでもなるが、操作は地道に鍛える必要がありそうだ。
魔力の操作能力だけでなく、動きを考える思考能力も必要であり、自由自在に動かすには色々な課題がある。
急ぐ事でも無いし、これからも地道に鍛えてゆくとしよう。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
アクティブスキル〈水属性魔術〉を獲得しました》
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