天空7 魔法練習
眩しい。
目覚めは朝日によるものだった。
昨日は、星空を見たままいつの間にか眠っていたらしい。
朝も雲の上は絶景だ。
寝惚けた頭でも美しいと理解できる。
『おはようございます。マスター』
「ああ、おはよう」
取り敢えず、顔を洗おう。
「あっ、洗面器を作ってくれる?」
『畏まりました』
大理石で造られ彫刻まで掘られている洗面器が生成された。
普段使いに戸惑う完成度だ。
まあ、使うけれども。
おお、何時もよりさっぱり。
やはり水が良いのか?
『そちらの洗面器には洗顔に有用な洗顔、保湿、回復促進等々、様々な付与を施しております』
「魔法道具だったんだ。通りで」
顔を洗ったついでにコップにも水を注いで飲む。
しっかり食事を摂ったかのような満足感。
朝食はこれで十分。
さて、今日は何をするか。
急ぐ用事は無いのだが、何も用事が無い故に決めておかないとぬくぬくとあっという間に一日が終わってしまいそうだ。
そろそろ、冒険の準備を初めておくのが良いかも知れない。
まだどのくらいで地上に降りられるのか試算もまだだが、剣とか魔法とかの準備は早いに越したことはない。
特に魔法は是非とも使ってみたい。
「魔法を学びたいんだけど、それも何とか出来る?」
『魔術の訓練に使われる施設や道具であれば、ある程度再現が可能です。しかし、魔術の使い方に関しては助言しか行う事が出来ません』
「それで十分、よろしく」
『畏まりました。それでは始めに訓練所を生成します。景観の為、この施設も一段下に下げて生成しますか?』
「うん、基本的に全部この中心地が最も高くなる感じで造って」
『畏まりました』
ただ造ってくれるだけでなく、昨日言った注文もちゃんと考慮して提案してくれるとは、本当に親切で優秀だ。
施設はまず、畑と同じ土の大地から構築された。
面積はそこそこ広く、百メートル四方はある。
そこの四角にオベリスクが生える。
表面には何やら術式が刻まれており、魔力を見ると結界をオベリスク間に発生させていた。
『こちらが訓練所になります。設備としては四角にある結界柱、オベリスクのみですが、そこから展開される結界で様々な訓練が可能です。例えば的を結界中に表示し生成する機能があります』
そう言いうと、結界表面に的が表示された。
『物理的に固定化されていない為、形状は自由自在であり動かす事も可能です。また魔術の威力測定や命中度も点数化出来ます。結界を破った場合も本体はオベリスクですので、本体を大きく損傷させない限りはどんな高威力の魔術の訓練も可能です』
ほう、だいぶシンプルな施設だと思ったが訓練所としてかなり優れた施設だった。
『魔術の発動の為には、まずこちらをお使いください』
現れたのは風車、その風車版みたいなものだった。
「これは?」
『ヘレナローレン地方に伝わる伝統的な玩具です。魔力を流れると回転します。魔力の基礎的な扱いを遊びながら覚えられる玩具になります』
持ってみると風車はゆっくりと回転した。
持ち手から魔力を自動的に吸収する機能が付いているらしい。
なる程、この魔力の吸収の道を辿って魔力の放出を練習するのか。
多く魔力を流せばより回転速度が早まり、魔力を抑えると回転は緩やかになり、流さないときっちり止まる。
回転で流した魔力の大きさが視覚的に分かって分かりやすい。
『魔力を流す事に慣れた後はこちらをお使いください。こちらはリゼラウス山脈より北西で親しまれている浮遊球です。魔力を流す事で念力等の魔法が使えなくとも容易に動かせるボールになります。こちらで魔力の操作の感覚を掴む事が出来ます』
見かけは穴のないボーリング玉。
重さも同じくらいで、光沢の無い金属の塊のような材質だ。
しかしそんな重いボールも魔力を込めたら浮いた。
そして魔力を流していた方向に動いた。
試しに魔力の方向を変えるとボールもその方向に動く。
なかなか面白い。
「これを使ったスポーツはこの世界で流行っているの?」
『はい、少なくとも千年前は上は王族から下は平民までこのボールを使って様々な球技を行っておりました。初めにボールを浮かすには多めの魔力を必要としますが、一度浮かしてしまえばそれ以降は少量の魔力で動かせ、複数人で魔力を込めれば込めたものなら誰でもボールを動かせるので、子供から大人まで楽しめ、多少高価ですがまず壊れるものでも無いので、どの街でもこのボールが使われない日は無いほど親しまれておりました』
かなりポピュラーな上に魔法の練習にまで使われるなんて凄いボールだ。
ただ、重いし硬いから危ないのは欠点か。
「使いようによっては武器にもなりそうだ」
『元々は武器として開発されたものだそうです』
「そうなんだ。じゃあ、もっと軽くて柔らかいのもあるの?」
『いえ、基本的にはありません。少なくとも使われていませんでした。浄化されたリビングアーマーを加工して作る都合上、このような重さと硬さになってしまいます』
材料、リビングアーマーなんだ……。
『解析を行えば、同等の性能を軽量化かつ柔軟性を持たせた素材でも構築可能だと思われますが、作製いたしますか?』
「いや、ここなら人に当たる事も無いしこのボールでいいよ」
スカイコア先生なら改良出来るらしいが、魔法の練習をするだけなら必要ない。
自分に当てない様に注意すれば良いだけだ。
ボールは思い通りにスイスイと動く。
右へ左へ、上へ下へ。
流す魔力量を多く込めればより早く、少なくすればゆっくりと動く。
そして魔力を抜こうとすると自分の方向に戻ってくる。
魔力に関する色々な感覚がこれ一つで掴めた。
『大変御上手です』
「ありがとう」
『次のステップに移りましょう』
そう言うともう一つボールが生成された。
『同士に動かしてください』
次のステップはそれだけらしい。
しかし一つ動かすのとは大きく違った。
近くにあると、どちらか片方を動かそうとしても両方とも動いてしまう。
バラバラに動かす事に成功しても、今度は一直線上に並んてしまうと、動かしている球が反対になってしまったりする。
思い通りに二つ同時に動かすのは中々難しい。
魔力を細く正確に流さなければ思い通りにはいかない。
確かにこれは良い練習になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます