天空6 世界の成り立ち



日は遂に地平線へと近付き、空は茜色へと変わった。


異世界初日も、もう終わろうとしている。


胸躍る冒険はなく、のんびりと一日が過ぎてしまったが、焦りは感じない。そもそも、急ぐ用事など無いのだし、良いスタートダッシュと言えるだろう。

疲れていた訳では無いが、空の上でのんびりと過ごし、心が癒やされた。万全の状態と言っていい。


異世界の冒険はまだまだ先になりそうだが、その頃には準備万端の状態でスタート出来るだろう。

備えあれば憂いなしというやつだ。


天空島を偶然手に入れる事には成功したが、異世界特典であろう〈適応〉の真価はまだ未知数。光合成が出来る様になったりはしたが、無双できる様なチートスキルかというと、違う気がする。

戦う力を備えておかなければファンタジー世界は生き抜けないだろう。

チーレム生活を目指すのにも準備が必要なのだ。


慌てずに行こう。


雲海が茜色に染まっている。

今までは見上げることでしか見えなかった広大な茜色の絶景が横に下にと広がっている。


異世界に来たというよりも、絶景の観光地に来たという様な感覚になるほど、圧倒的な光景だ。


徐々に光は地平線へと消え、世界の色は紺色へと変わってゆく。

そして太陽の光に隠れていた月が姿を現す。


あっという間に夜だ。

今度は月明りが雲海を照らす、趣のある風景に早変わりした。

俺でも一句読めそうだ。


月明り ……

月照らす ……

雲海の ……


訂正、いくら景色が美しくても俺に句を読む技量は生まれない。


夜になってもこの世界は不思議と明るかった。


地上に地球みたいな都市の空に届く様な灯りがない。

その分、月明りや星の光が世界を照らす光景がよく分かる。月や星を単体で見ると地球と変わらない様に見えるが、それだけ地球では見えていなかったという事だろう。


それにしても、平らな世界だが星々は普通にあるらしい。

少なくとも、見かけは地球の空と何も変わらない。

宇宙は平らではなく元の世界みたいに広がっているのだろうか。

もしそうだとしたら、この世界は宇宙の中でも特殊な場所なのかも知れない。


太陽と月はどうだろうか。


この二つも地球の太陽と月と変わりない様に見えた。

月は地球から見えるものよりも若干大きかったかも知れないが、それはここの高度が高いだけかも知れないし、確かな事は分からない。

ただ、外見上は特段のファンタジー性を感じなかったのは事実だ。


「スカイコア、この世界の宇宙はどうなっているんだ?」

『宇宙とは神々の住まう世界とされています。星々は神々の寝床であり、星座は力ある神々の領地。ただ、星々となった神々は悠久眠りについており、力の回復に努めていると神話では語られております』


星も地球とは違うものらしい。

地球で同じ話を聞けば、ただの神話で済ますが、このファンタジー世界では信憑性が違う。


『神話はこうです。

初めは何も無い混沌でした。そこから原初の巨神デモウレスは生まれました。デモウレスは混沌を食らい飲み込むと、次々と巨神を生み、混沌は巨神へと変わりました。もはや混沌として混ざり合わず、相性が生じた巨神達は争い始めました。初めに倒れたのはデモウレスです。初めに巨神達を混沌に還し滅ぼそうとしたデモウレスは数多の巨神達から攻撃され真っ先に滅びました。そうしてデモウレスの亡骸は地面となりました。敵対しても父であり母であるデモウレスは全てをそこに引き寄せ万物の下となったのです。大地の巨神と火の巨神は重なり合う様に倒れ、その上から水の巨神が倒れ込みました。最後に風の巨神カ倒れ世界を包み込みました。こうして世界が生まれました。

勝ち残ったのは肉体を持たない概念の巨神達、現在の神々です。神々は再び激しい反発が起きないよう、巨神達の亡骸を自分達の性質に近づけようと考えました。そこで、世界に生えてきた一本の木から様々なものを創造してゆきます。まず初めに自分達の性質を全て注ぎ込んだ存在、人種を生み出しました。次に動物、そして創造物を養う為に植物を生み出しました。仕上げにそれらに力を与える為、力ある巨神の亡骸から太陽と月を創造しました。こうして世界に命が溢れる様になったのです。

創造を終えた神々は世界に溶け込んでいました。肉体を持たない神々は肉体という形が無い故に境界が無かったのです。創造を終えた神々は多くの力を流失させ消耗していました。そこで神々は巨神の亡骸から仮の肉体を創り出し、そこを寝床とし悠久の眠りにつきました。これが本日の星々です。創造の神々は今も星となり創造物達を見守っているのです。

これが、この世界で語られる創造神話になります。神々の神託から同様の話を聞いた例が幾つもある為、真実であると考えられています』


神々のいるファンタジー世界、普通に神話の出来事も歴史として教えくれるらしい。


「そう言えば、この天界はその神話に出て来ないの?」

『それは創造の後の神話となります。神々が眠りから目覚めた頃、世界には魔獣が誕生していました。意図せず流失してしまった創造の神々の力は、予期せぬ創造物を生み出してしまったのです。予期せぬ創造物が増えた地上は神々と相性が悪くなっており、降りにくい地となっていました。そこで神々は新たに天界を創造し、そこに留まったのです』

「何故その天界が今では跡地に?」

『世界に流失した創造の力は、新たな神々をも発生させていました。今で言う地獄の神々です。その神々と天界の神々は争い、相討ちとなった事で天界にもはや神々の姿は無く、宇宙には未だ神々が眠る星々が輝いているのです』

「じゃあ、今は神々って起きていないの?」

『千年前の時点では、極稀に奇跡を降ろす程度でした。完全に意識がない訳では無い様ですが、地上に降臨する程の力は失われていました。現在は分かりませんが、神話で神々が目覚めるまで十万年はかかっていたそうですので、まだ数万年は完全に目覚めないかと』

「その地獄の神々と天界の神々の戦いって何年前?」

『五万年前の出来事とされています』


と言う事はまだ五万年は神々がいないと。

それなら、天界にいても神々と邂逅する事は無さそうだ。



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