天空4 光合成の真価
透明な床は想像していた以上の規模で構築されていた。
まだ半分も出来ていない様に見えるが、広い階段の形状からして、コロッセオの様な形で水晶の床を構築しているようだ。
注文通り、天空島の下の景色がとても見えやすい。
そして宇宙ステーションよりも高い高度にある事が、良く分かるようになった。
平らな世界だ。
人工衛星からの景色の様に、球状の姿を確認できなかった。
そして不思議なのが、右の方にあった地形が、左を見れば存在しており、頭の方向にあった地形が、顎の方向にも存在していた。
つまり、地球のように真っ直ぐ進めば世界を一周出来る、球体では無いのに閉じた平たい世界だったのだ。
そして、視線の角度を横にしていくと、ループしていた地形がある地点から消え、世界の果てが見えた。
閉じられ繋がっているのはある程度の高さまでらしく、その外側にも空間は存在しているようだった。
この天空島がある空間は少なくとも端が違う法則で支配されているようだ。
そして地上の下も、おそらく地獄もここと同じ様になっているのだろう。
《条件を満たしました。
ステータスを更新します。
称号【リンゼワースを知る者】を獲得しました》
何か、称号を獲得した。
もしかしたら、初めてこの世界、おそらくリンゼワースという名の世界の形を知ったのかも知れない。
『おめでとうございます。御考えの通り、この世界の形を理論的に提唱した者は数多くおりますが、決定的な論理を提唱、また観測した者の記録は私のデータベース上にはありません。これは正しく、偉業であると考えます』
と言うことらしい。
ただ見ただけなのに、こんな偉業を成し遂げて、何だか悪い気がする。
「因みに、称号って何か効果があったりするの?」
『はい、称号によって様々な効果がございます。有名なもの、例えば【ドラゴンスレイヤー】であればドラゴン種に与えるダメージが多くなる、等ですね。【剣王】であれば〈剣術〉スキルの成長に補正が付くようですし様々です。マスターの称号は学術関連の行動やスキルに補正がかかるものであると考えられます』
取り敢えず、有って得するものらしい。
そう話している間にも、透明な構造は広がっていた。
しかし、構築速度が遅くなっていた。
スカイポイントが尽きていたらしい。
光合成を常にしているが、だいぶ完成は先になりそうだ。
まあ、急ぐ事でも無いから問題は無い。
光合成を続けながら景色を見ているとしよう。
その前に、水を用意した方が良いか。
『水でしたら、少々お待ち下さい。飲料水を生成する魔法道具を作成いたします。施設では無いので、少ないポイントで作成可能です』
「確かに、持ち歩けると便利だね。じゃあ、頼むよ」
『畏まりました』
五分ほど経って、魔道具が生成された。
形状は水色の透明な水差し。
『完成致しました。こちらは空気中の水属性のマナ、自然界に存在する水属性に偏った魔力を集め水に変換する魔法道具です。天空に位置し、雲も豊富ですので待たずともすぐに水の補充が可能です』
水差しを覗いて見ると、早くも水が溜まっていた。
徐々に水位が上がり、ある程度溜まると止まった。
漏れる心配もない安心仕様のようだ。
コップも生成してくれており、早速注いで飲んでみる。
おっ、旨い。
優しくて柔らかい水だ。
そして力が湧いてくる。
光合成が出来るからか、しっかり昼食を食べたかのような満足感が得られた。
感覚的に、光合成の効率も、魔力の回復速度も上がった気がする。
『魔力の回復速度が現在、2倍程度に向上しております。元々魔力が豊富な水は魔力の回復速度をある程度上げる効果がございますが、マスターの場合は大幅に回復速度が向上しております。相当相性がよろしいのでしょう』
実際、かなりの効果があるらしい。
嬉しい誤算だ。
美味しい上に栄養満点。文句無しの素晴らしさ。
そしてここまで魔力が回復すると、魔力が動き続けていると、魔力の存在自体もなんとなく感知出来るようになってきた。
その感覚を頼りに、どうすればより光合成の効率が良くなるかも何となく分かってきた。
良い事尽くめだ。
光合成が出来ることにより必要なくなった食事の代わりに、美味しい水を追究した方がいい気すらしてきた。
スカイポイント的にもかなりお得だろう。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
パッシブスキル〈光合成〉のレベルが1から2に上昇しました。
パッシブスキル〈魔力回復〉を獲得しました。
アクティブスキル〈魔力感知〉を獲得しました》
光合成を続ける事しばらく、スキルレベルが上がって新しいスキルまで獲得した。
異世界転移初日でそんなに時間も経っていないのにここまで早くスキルアップするとは、この世界のスキルは割りと簡単に上がるらしい。
『いえ、ここまで早くスキルレベルを上げ獲得することは通常出来ません』
いや、異常だったらしい。
「じゃあ、これが転移特典とか勇者特典?」
『いえ、異世界の勇者様の記録は有名であり多く残されていますが、ここまで早くスキルレベルが上がったという記録はありません。
おそらく、スキルの種類の影響が大きいと考えられます』
スキルの種類?
どういう事だ?
『まず〈光合成〉は、通常は人間が行えない行為であるからこそ、異例の早さでスキルレベルが上昇したと考えられます。全てがゼロからの感覚であったと愚考いたします。その為、より深く本質に迫れたのでは無いかと』
確かに、全てが初めての感覚だ。
魔力だって地球には無かった。
ハッキリと光合成がどんなものなのか分かったが、通常はそうでは無かったのだろう。
人が呼吸をどれだけ深く理解し使い熟せているのか。おそらくは使い熟せていない。基本、無意識下だ。血に行き渡る感覚も、力に変わる感覚も多分人は理解出来ていない。
それと同じ様なことか。
『はい、そのような理由かと。〈魔力感知〉も魔力のない世界から来たマスターだからこそ早く掴めたのではないかと思います。異世界の勇者様達との違いは、大量の魔力を回復しながら私に送り、通常では何日もかかる量の魔力に短時間で触れ続けたからでしょう。
〈魔力回復〉も同じ様な理由であると考えられます。また〈適応〉の効果もある程度存在していると思います』
ある種かなり効率的な練習が出来ていたらしい。
そして得たものは大きかった。
魔力の回復速度が明らかに上がっていた。
加えて水がより旨く感じるし、総合して得られる満足感も焼肉を食べたくらいに上がっている。
しかも〈魔力感知〉のおかけで魔力の流れが明確に分かり、より光合成に集中出来る。
『魔力の回復速度が更に2倍以上向上しています』
「そんなに…」
『一時間当たり、おおよそ1万ほど回復しています』
ポイント換算だと、もう天空島の千年分のポイントが一時間で得られる事になる。
というか、使わないと俺の全魔力量すらあっという間に超える。
〈光合成〉、恐るべし。
そして〈魔力感知〉を手に入れると、見える景色も変わってきた。
例えば目の前で行われている透明な床の増築。
そこでの魔力が動いているのが明確に見えるようになっていた。
感覚的だったものが何となくだが目にも見える。
そして完成後のものにも魔力が込められている事が初めて分かった。
これが透明度強化の術式なのだろう。
そして水差しが水のマナを集め吸収している様子も見えた。
水色の光が霧のように集まり流れて注がれて行く。
神秘的で美しい光景だ。
ただ、まだ完璧ではなくまだ感による部分が大きい。
見えても薄っすらだ。
加えて離れたところの魔力はまるで分からない。
それでもこの変化はかなり大きい。
異世界生活、いきなり天空に隔離されてどうなる事かと思っていたが、実際は快適で順風満帆だ。
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