天空3 天空島の所在



「じゃあ、観測所をお願い」

『畏まりました』


ポイントの基準が分からなくなったが、何にしろ地上を見る手段は必須だ。


場所は新たに増築した畑予定地の近く。

光合成の邪魔にならない、なるべく影を作らないものを頼んだらその立地になった。


また光が集まり、形を作ると物質に変換されてゆく。

何枚ものレンズが次々と生み出された。

そしてそれをはめ込み動かす枠や鏡など、幾つも生まれ、やがて一つの施設の形に成ってゆく。


下に向きに構築されていて、全貌はいまいち分からないが、大小それぞれのレンズや鏡が輪に並び層を作る、幾つかの天球儀を組み合わせた様な不思議な施設が完成した。


ただ、上部は透明の床になっており、何も無い。


「浮いている様に見えるけど、魔法的な効果はこれでも無いの?」

『増築した土地と同じく、ただ浮いているだけで、機能的には重さ等で壊れない以外には魔法的な効果はありません。

ただ、レンズ部分は水晶で構築したので、簡単な魔法でしたら後から付与可能です』


浮いているだけでかなりファンタジーな施設に見えるが、見かけだけらしい。

しかし観測所、構造的に物理的な顕微鏡と考えてもかなり複雑そうだ。


「操作方法は?」

『私が倍率や観測位置を調整しますので、見たい位置等をご指示していただければ』


見かけからかなり使うのに苦労しそうだと思っていたら、流石のスカイコア大先生、ピントの調節とかは全部してくれるらしい。


「位置は取り敢えず真下で。倍率は、少し高い山から見下ろすくらいの大きさで」

『畏まりました』


天球儀的な構造が動き出し、レンズと鏡が配置されてゆく。

レンズの位置が決まると、天球儀的な構造から完全に切り離され、レンズ単体で宙を浮く形になった。


そして途中からピントが合ってきたのか施設の構造自体は見えなくなり、下の風景が映し出された。

歪んだ像が徐々に鮮明なものに変わる。


そして透明な床は全て下の光景を映し出すモニターの様なものに変わった。


雲海以外の異世界の光景が初めて映し出される。

草原にそれを囲む様に流れる川。川の近くには畑とそれに囲まれた村が点在し、上流付近、山の近く、川に囲まれたそこには大きめの街。

テーマパークでしか見た事の無い様な、ヨーロッパの伝統建築に近い城に城壁、そして家といった街並み。


まさしく異世界の光景がそこには広がっていた。


この倍率だと人までは詳しく見れないが、冒険者ぽかったり、貴族ぽかったり、神官っぽい人と、異世界らしい服装の人達もちゃんといる。

地球には明らかにいないであろう巨体生物を載せた馬車も通っており、街の外には生きたモンスターも闊歩していた。

如何にもなファンタジー世界だ。


……まあ、降りるのは当分先になりそうだけど。


「そう言えば、ここはどのくらいの高さ? 山も見下ろしていたけど?」

『現在、地表からの距離は3776キロメートルです』

「富士山みたいな高さ…。あれ? 富士山キロじゃなくてメートルだったような」


と言うか、飛行機だってもう少し、いやだいぶ低いとこを飛んでいた気がする。

確か飛行機が飛ぶのは1万メートルくらい、つまり10キロメートル。

ここ、とんでもない高さのような……。


なんか、宇宙ステーションが地上から400キロメートル辺りに有るって聞いた事がある気がする。

……ここ、ほぼ宇宙じゃない?

いやいやまさか、雲だって近くに有るし。


『ここは宇宙空間に分類される高度に位置しています』


地球じゃなくて異世界だから、この高さでも宇宙までには到達していないのでは、と言う希望も残っていたがバッサリ斬られた。


「えっ、空気とか温度とか大丈夫?」

『結界の外も極端には変わりません。ここはかつて存在した天界エクセムーンが位置していた軌道ですので、空気も温度も保たれています』


良く分からないワードが出て来た。


「天界エクセムーンって何?」

『かつて神々が存在していたとされる地です。神話では、地上の遥か下に存在していた地獄の邪悪なる神々と天界に住まう善なる神々は激しく戦い、天界と地獄は消滅、残骸が現在の地上世界になったと言われています。その内の天界がエクセムーンです。

この天空島は、天界の軌道と天界の物質を擬似再現する事により浮遊しています。その為、墜落の可能性は皆無に等しく、地上からはこの場所を感知出来ず、攻撃なども勿論不可能です』


人類劣勢時の司令基地として造られただけに、かなり特殊な場所に存在していたようだ。

ただ、特殊ではあるが安心安全の快適環境であるようなので、何も文句は無い。


強いて言えば、高過ぎて目視では地上が見えない事だが、観測所も完成したし問題ない。


しかし、宇宙ステーションよりも高い位置ということは、晴れていれば宇宙から見た地球の様な景色も見えるかも知れない。

加えて、そこまで高いのなら、態々その土地の上空まで行かなくともかなり広い範囲を観察する事が可能だ。


退屈せずに済みそうだ。


やはり、観測関連の施設は充実させてゆこう。


「そうだ、透明な土地も増築できる?」

『水晶等の素材で作る事が可能です』

「じゃあ、下を見る用にそれも造って』

『畏まりました。観測所が視界に入らない反対側の土地に増築いたします。見やすい様に、数段ほど下げて増築しますか?』

「そうだね。景色優先の造りで。ポイント消費は、簡単に補充できるから気にしなくていいよ」

『畏まりました』


と言う事で、反対側に移動する。


まず、広めの階段状に、透明の土地が出来てゆく。

そしてある程度、低くなると平らに広い土地が構成されてゆく。


『マスター、必要ポイントが不足しそうですので、常時魔力を1残してスカイポイントに変換してもよろしいでしょうか?』

「うん、完成度を優先して良いよ」


スカイポイントを気にしなくても良いと許可を出したら、本当に全部使う、それ以上使う気のようだ。

まあ、良いものを造ってくれるのなら何ら問題ない。


「出来た地面はもう乗っても大丈夫?」

『はい、問題ありません。構築された時点で強化魔法により強度を向上させましたので、ドラゴンが上で暴れても壊れません』


そんな強化までしていたんだ。

必要ポイントが高いのも納得だ。


そして安心して乗れる。


「因みに、他にも魔法的な効果はあるの?」

『現段階では強度向上の他に、透明度向上、屈折率調整の効果も付与しています。素材は魔力との相性が比較的良い水晶を用いていますので、後から付与を追加する事も可能です』


透明度が向上されているだけあって、確かに何も無いかのように下が見える。

まるで空を飛んでいるかのようだ。


しかし不思議と恐怖心は湧いて来なかった。

高所恐怖症と言う訳でもないが、特に高い所が得意でも無かったのに、全くと言って言いほど恐怖を感じない。

これも〈適応〉の効果だろうか?


何にしろ、眼下に広がる空の景色からは、良さしか感じなかった。



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