天空2 光合成



林檎一つに必要なスカイポイントは10万ポイント、1万貯めるのに千年。

林檎一つ手に入れるのに一万年かかる……。


異世界の食生活、終わった……。


『ご安心くださいマスター。スカイポイントは魔力から変換可能です』

「でも、滅茶苦茶必要なんでしょう?」


でなきゃ、1万ポイント集めるのに千年もかかる筈が無い。


『いえ、この上空に魔力が少ない為にエネルギー回収に時間がかかっていただけです。〈適応〉によってこの島と強く同期しているマスターの魔力であれば、魔力1に対して1ポイントに変換可能です』

「えっ、じゃあすぐにでも魔力が1000だから1000ポイント手に入ると?」

『はい、その認識で間違いありません』


良かった〜!!

食生活とお別れしなくて済みそうだ。


それでも相当かかりそうだけど……。

しかも林檎一つに……。


スカイコアの言う通り、種から栽培して食料は確保しよう。


「そういえば、食べ物じゃなくて設備の増設ならどれくらいのポイントを使うの?」

『単純にこの島の面積を増やすのであれば、1平方メートル辺り10ポイントで増築可能です。尚、増築部には運用コストを回収する能力がある為、運用コストは考慮不要です』


林檎の後に聞くと、とてもお安い。


「じゃあ取り敢えず、魔力を全部スカイポイントに変換して」

『畏まりました。魔力の枯渇は気絶などを引き起こす可能性がある為、魔力を1残して残りをスカイポイントに変換させていただきます』


おっ、何かが抜ける感覚がある。

これが魔力か。


「そのスカイポイントでこの島の増築してみて」


まずは増築とやらを見てみよう。


『では、島の端まで移動をお願いいたします』


広く無いから端にはすぐに着いた。


『増築する土地は後々を考えて、畑に適した土地でよろしいでしょうか?』

「それでお願い」

『畏まりました。それでは生成を開始します』


空しか無かった場所に光の粒子が集まって来る。

粒子がより集まる場所から土が現れ、光から土に次々と変わってゆく。

あっという間にそこにはふかふかの土が広がっていた。


変換レート通り、現れたのはおおよそ百平方メートルの土地。

そんなに広くもないが、突然現れると壮観だ。


なるほど。

しかし、魔力を使ったせいで出来る事が無くなってしまった。


「魔力はどうやったら回復する?」

『最も回復が早いのは睡眠です。回復速度は体調やその土地の魔力濃度等、様々な要因が関わる為、場合によって様々です。マスターの場合は、光合成が効率が良いかと』

「光合成、色々とこの島と相性良いな。じゃあ、暫く光合成しているよ」


と言う事で、まずは泉の水をいただく。


おっ、旨い。

滅茶苦茶旨く感じる。

光合成のおかげか、もしくは元々良い水なのか理由は定かでは無いが、今まで飲んだどの飲み物よりも美味しい気すらする。

これなら、食べ物が無くてもあまり気にならないかも知れない。


後は日当たりの良い草の生えた斜面で横になってと。


おおっ、心地良いだけで無く力も湧いてくる。

魔力を使った後の光合成も一味違う。



『マスター、魔力が完全回復致しました』

「えっ、もう?」


光合成を続けること約三十分、スカイコアがそう告げて来た。

思いの外早い。

一分で魔力が33くらい回復している。


『私の想定以上の回復力です。マスターは異世界の勇者ですから、元々高い回復力を有していたのでしょう』


スカイコアの想定よりも早い、言い方からして通常よりもかなり早いらしい。

と言うか、一分で33回復するのなら、少しずつ魔力をスカイポイントに変換しながら断続的に作業が出来る。


「取り敢えず、魔力を1残して後は変換で」

『畏まりました』


次はポイントを何に使おう?

家でも建ててみようか?

いや、下手に大きいものを造って影が出来たら光合成に支障をきたす。

家はもう少し土地が広がってからだ。


でも雨風は防げた方が良いか。


『雨でしたらここは雲よりも遥か上空に位置していますので対策は不要です。風も強風に対しては風除け結界が展開されています。温度に関しても一定に保っています』


だったら家は不要かも知れない。

優先順位はだいぶ低い。


やはり造るとしても土地が拡がってからで良いだろう。


「そうだ、地上がよく見える設備とかは無い?」

『ございます。監視魔法を展開する祭壇や光学レンズを利用した物理的な観測所など、様々な仕様の観測所を構築可能です。また別途監視魔法のみを発動する事も可能です』

「おすすめは?」

『物理的な観測所です。魔術的な観測手段は精度や性能が物理的な手段よりも優れておりますが、監視魔法は儀式の場を用意しても別途エネルギーが必要になり、そうでない場合の特殊施設は術式や魔力的に特殊な素材の構築に多大なコストを必要とする為、莫大なスカイポイントが必要です。

一方、物理的な観測所は精度や細かい動作などに難を抱えていますが、稼働にエネルギーを必要としませんし、材料も水晶などですので大して生成にコストを必要としません。現在のスカイポイントでも構築可能です』


既に物理的な観測所は造れるらしい。

これは取り敢えず物理的な観測所を造って、行く行くはポイントを貯めて高性能な施設を造るのが良さそうだ。


「必要なのは何ポイント?」

『おおよそ3000ポイントです』

「えっ、そんなに安いの?」


思った以上に少ないポイントで造れるようだ。

一時間半日光浴すれば簡単に回収できる。


『物理的な構造体であれば、低コストで作製可能です。人の手で加工するのでは無く、直接その形の物質を生成しますので、複雑な形状ほど多少はコストが上がりますが必要とされるのはエネルギーよりも演算コストです。私の演算能力でほぼ素材の生成に必要なエネルギーのみで構築可能です』


スカイコア先生、凄い。

ある種、材料費のみで加工品を造れるようだ。

地球なら天下も狙えそうだ。いや、素材自体を生み出せるし天下を握れる。


『お褒めいただき恐縮です』

「因みに、魔法的な施設は何でコストが高いの?」

『それは私がスカイポイント、本質的には魔力により施設の構築を行うからです。

何故、魔力により構築すると魔力的な施設のコストが高いかについて、まず素材面からご説明させていただきますと、魔法施設や魔法道具などに使われる素材は、魔力的に何かしらの特性を有します。

例えば魔力を蓄える性質を有している、流し易い、特定の性質の魔力に変換し易い等といった性質を持ちます。

その為、生成する段階でも魔力の乱れが生じます。例えば魔力を蓄える蓄魔の性質が強いものですと、生成時も生成に用いる魔力を吸収し停滞させます。

その魔力の停滞等を無視する為により多くの魔力やその制御力が必要となります』


そもそも魔力で作るから、その魔力に干渉する素材は作り難いようだ。


魔力を光とするならば、レーザーで硬い金属も切れるけど、レンズとかに使われる透明なものや鏡みたいに反射する材料は切れないのに似ているかも知れない。

レンズも鏡も光に対して優れた性質を持つけど、光によって加工するのは難しい。


素材は加工どころか魔力で生み出しているのだから、そんなの難しいに決まっている。


『そして形を決め生成するだけでも素材同士の反発等を抑えながら生成する必要があり、より多くのコストを必要とします。

その為、魔力的に優れた性質を有する素材の生成、それを用いた構造の生成には多くの魔力コストが必要となります。

イメージとしては、磁石が引き合うのや反発を抑えながら構造体を作る様なイメージです』


なるほど、磁石と言われると想像しやすい。

強い磁石ほど、求める形に配置するのは難しい。磁力を無視して配置するには無理やり力で抑える必要がある。

この抑える力が余分にかかると言う事だろう。


『加えて、その素材に術式を定着させるのにも莫大な魔力が必要です。これは磁石を生み出すのに強い雷が必要なのに似ているかも知れません』

「参考までに、監視魔法の施設は何ポイント必要?」

『試算では、監視魔法の祭壇で10万ポイント、運用コストが殆ど必要ない特殊施設で100万ポイント必要です』

「そんなに……、あれ? 林檎一つで10万ポイントだったよね?」

『はい』


色々と理論的な話を聞いたのに、何故か余計ポイントの基準が分からなくなった……。

これは安いと捉えた方が良いのだろうか? 高いと考えた方が良いのだろうか?



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