天空1 天空島
俺は、隅々まで探索した。
そして探索はすぐに終わってしまった。
探索の結果分かったのは、ここが島であると言う事。
それもただの島ではなく、空に浮かぶ島。
島はすぐ探索が終わる程度の広さ、大きく見積もっても学校の校庭程の大きさだった。
地形は中央が最も高い丘となっており、その周辺は真っ平ら、そのまた周辺、外周部は堤防のような低い緩やかな丘になっている。
所々崩れているが、不自然に整った明らかな人工島だ。
近くで見ると中央の丘は土と草に覆われているが、四つの階段と三つの段で造られた緩く低いピラミッドのようなもの。
頂上には倒壊した石柱が散乱し、浅いが美しい水で満たされた泉があり、その中央にはまだ殆ど崩れていない小さな神殿のような建造物が存在した。
そこへ繋がる一本の短い水面と同じ高さの橋。浅い泉のそこには白亜の石畳。
神殿と言っても、三段の段差の上に四本の白い柱が立つのみ。
後はその中央に水晶珠の設置された台座があるだけ。
しかし全体像から、神殿としか思えなかった。
最後の探索場所として、水晶珠の台座まで向う。
不思議な水晶珠で、無色透明のようなのに、後ろの景色が透けて見えない。
まるで深く澄んだ泉を上から覗いているようだ。
水晶珠に触れる。
《…………魔力反応を確認。
再起動します。
エラー。
マスターが存在しません。
検索………………。
サブマスターの該当者なし。
マスター及びサブマスターの該当者なし。
検索………………。
約千年の時間経過を確認。
マスター資格者の断絶を認定。
マスター設定を破棄します。
強制的に初期化します。
生体反応を確認。
検索。
マスター適性を確認。
マスター登録を行います》
何かが吸われていくと思ったら、今度は急に頭の中に声が響いてきた。
突然の事で声の内容が頭に入って来ない。
《
固有スキル〈天空島〉を獲得しました》
そして今度はステータスの声が響いてきた。
いきなり固有スキルを獲得した。
『こんにちは、マスター』
「はい、こんにちは!」
突然かけられた声に、条件反射で挨拶を返す。
返した後からそれはあの聞こえて来た声の、はっきりしたものだと気が付く。
『私は
どうやら何かを継承したらしい。
突然の事に驚くが、オペレーターの様に丁寧な話し方のおかげか、もしくは直接脳に語りかけられた影響か不思議と落ち着いて受け入れる事が出来た。
「えっと、それって相続人のいない家の所有権を貰ったみたいな?」
『その様に捉えて頂いて結構です。現在、私及びこの島の全ての権限権利は貴方様にあります』
「もしかして、異世界召喚の特典とか?」
『いえ違います。マスター資格者断絶時の規定措置です。もしやマスターは異世界の勇者様でしょうか?』
「多分」
空に飛ぶ島とナビゲーター的存在と言うチートアイテムっぽい存在を手に入れたが、異世界召喚とは全く無関係らしい。
シンプルに運が良かったようだ。
これは幸先が良い。
『勇者様をマスターに御迎でき、誠に光栄です。私の存在理由は人類の勝利の助けとなる事ですので』
「人類の勝利って、そもそもこの島は何なの?」
多分、そもそも俺がわざわざ異世界から召喚されたくらいだから魔王軍やら何やらが現れたのだろうが、見たところこの島は空に浮かぶと言う特殊性があるが神殿に見える。
勝利に貢献する、武力的なものは無かった。
『私は、この島は魔王大戦時の人類軍司令基地として造られました』
「魔王大戦?」
『魔王大戦は記録から逆算しますと今から千年以上前に発生した人類の存亡を賭けた魔王軍との戦いです。突如発生した魔を統べる魔獣の王、魔王ディバラキアは世界中の魔獣を活性化させ各国を襲撃、多くの国々が滅ぼされました。魔王や魔獣の放つ瘴気により世界は汚染され、時と共に魔獣は力を増大され数も増え、遂には人類の生活圏が5分の1に縮小するまでに追い詰められました。生き残った人類は国家の垣根を越えて戦力を一つにし、人類軍を組織しました。その人類軍と魔王軍との戦いが魔王大戦です』
「その結末は?」
『私は魔王大戦の最中に建造され、本日初めて起動したため魔王大戦の経過は不明です。確かなのは、私が記憶する限りは常に人類軍は劣勢でした』
一番肝心な結末は分からないらしい。
まあ、少なくとも魔王側が勇者を召喚するなんて考え難いし、人類が生き残ってはいるのだろう。
『お役に立てず、申し訳ありません』
「気にしなくて良いよ。召喚されて右も左も分からない中で、教えてくれたんだから。それだけで十分」
『ありがとうございます』
実際、何も分からない異世界でサポートしてくれる存在は非常に有り難い。
「それで話を戻すけど、ここは司令基地として造られたんだよね?」
『はい、その通りです』
「じゃあ、空に浮かんでいるだけじゃなくて、色々な機能があるの?」
『勿論様々な機能を揃えております。まずはこちらをご覧ください』
スカイコアがそう言うと同時に、目の前に立体映像の画面が現れた。
『こちらの
操作方法と致しましては、私にお命じしていただければ目的毎にサポートさせていただきます。手動操作も可能ですが、基本的には御命令一つで運用可能です』
頼むだけで良いなんて滅茶苦茶簡単だ。
取り敢えず、イメージとしてはポイントを貯めて拠点を強化するダンジョンものみたいな事が出来るらしい。
『御明察、恐れ入ります。私はダンジョンに近い存在です。ダンジョンコアを元に構築されました』
「あれ、もしかして心を読める?」
『はい、本来であればその様な機能は無いのですが、マスターとはかなり深いレベルで繋がっております。マスターの固有スキル〈適応〉の効果であると考えられます。現在の私はマスターのスキルに近い存在となっております。
ただ正確には心を読めるのでは無く、マスターが求める時、情報を欲する場合、もしくは私に伝えようとする情報のみ読み取れます。無意識下に求めが無い場合は読み取る事は出来ません』
どうやらプライバシーとかは自動で守られるらしい。
それでいて言わなくても色々とサポートしてくれるとは、本当に有り難い。
『ありがとうございます。ですが、これも〈適応〉スキルを所持するマスターの御力があってこそです』
「ちなみに、〈適応〉スキルの詳細は分かる?」
『固有スキルは個人特有のスキルです。場合によっては世界に、史上一人しかそのスキルを所持していない事もある特殊なスキルです。申し訳ありませんが〈適応〉スキルの観測データは所持しておらず、詳細は不明です。
しかしスキル名称、現在までの経過、ステータス更新ログから周辺環境などに自らを最適化する能力では無いかと考えます』
「そうなると、〈光合成〉は何で獲得を? と言うかどうな効果のスキル?」
そもそも光合成って、植物のそれなら人以前に動物すら持っていない能力だ。
もしかしてこの異世界では違う能力だったりするのだろうか?
『いえ、〈光合成〉スキルは植物と同じ様に光合成が可能となるスキルです。具体的には水と日光さえあれば植物の様に生存可能となります。加えて光合成中は生命力と魔力の回復が早まります』
「ガチの光合成なんだ……」
『一部の魔獣に存在する非常に希少なスキルです。人が所持したと言う記録はありません』
確かに日差しが今まで感じた事が無いほど心地良く感じる気がする。
何と言うか、がっつり食事をしたとまではいかないが、おやつを軽くつまんだくらいの満足感が常にある気がする。
油断をすると、日光を浴びているだけの一日を過ごしてしまいそうだ。
「そんなスキルが何故〈適応〉で?」
『この隔離された天空島には食料が存在しないからです。この環境に適応しない限り生存は不可ですので獲得したのではないかと』
「…………確かに…………」
言われてみれば、ここには草と水しか無い。
もし〈適応〉が無ければ……。
と言うか食料が無いって……。
「えっと、今は無いとしても食料は作れないの?」
『可能です。しかしダンジョンに存在する魔物製造機能を始めとした生物の生成能力の再現は出来ておりません。生成可能なのは野菜果物など植物のみとなります。また、生成には莫大なコストが必要です。
植物の種子のみを生成して栽培する事をオススメします』
「参考までに、林檎を生成するとしてどのくらいのスカイポイントが?」
『構造データを所持していませんので、そのデータスキャンも含めて10万ほど必要です。尚、それは地上に林檎が存在した場合の結果となります』
「……そんなに?」
『はい、エネルギー任せにかなり強引に生成を行いますので』
林檎一つで10万ポイント……。
今、1万ポイントしかないのに……。
「あっ、もしかして1万ポイントって起動したてで貯まっていたっていう事は、実は数分で貯まる?」
『いえ、エネルギー回収機構は常に稼働していました。1万ポイントは千年近くかけて収集したエネルギーです』
あっ、終わった……。
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