橘花と咲花

 花霞と二人きりになることが多い。

 だけどそれは同じクラスでお互いに数少ない友人であり、尚且つ席が前後だから。だけれど、そこに何かしらロマンチックな定義付けをしたがるのが女子高生という生き物らしく。

「花霞と付き合ってるんでしょってクラスの子たちに小一時間あれこれと……」

「なんか知らんがお疲れ」

 体育館の、何と呼称するのが正しいのだろう、卒業式とかで校長が意味があるのかないのかよくわからない話を延々する所。たぶんステージだろうか。そこで咲花と二人、花霞を待っている(ついでに色々と愚痴ってる)。

 本来であれば、試験期間中は各施設への立ち入りは原則禁止、理由がある場合は申請の上で教職員の立ち会いが必要になる。当然鍵がなければ入れないが、咲花がここに侵入する方法を知っているのだ。教えてはくれなかったけど、先んじて忍び込んだ咲花に鍵を開けてもらった。

 これは歴とした不法侵入。バレたら何らかの処罰が下るだろう。バレなけりゃいいだろうとは咲花の談。

「咲花って意外と悪いよねえ」

「そんなに褒めても何も出ないぞ」

「詐欺師とかの素質あるんじゃない?」

「あってもなる奴いねえよな普通」

 紙パックのジュースを片手に朗らかに笑う咲花はとても絵になる。背も高いし、メンズモデルとかやれば人気出そう。身長高いの羨ましいなあ、四センチくらい分けてくれないだろうか。

「橘花は今日の試験どうだった?」

「んー? まあまあ?」

「ぼちぼち?」

「それなりかなあ」

「とか言いつつ結構自信あるんだろ」

「お、わかっちゃう?」

「お前の学力でそれなりだったら他の奴は全員赤点だろうよ」

「それもそうだ」

 わっはっはと二人分の笑い声。いけない、不法侵入してるのに大きな声を出してしまった。迂闊だった。

「ダメだよ咲花、声響いちゃうから」

「お互いにな」

「…………」

「…………」

 なんだかおかしくなってしまって、再び二人分の愉快な笑い声が響く。直後合流した花霞に「外まで聞こえてたぞ」と叱られたのが今回のオチということで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る